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その嘘は、精一杯のSOS
起業家という道を経て、今は二作目の出版を目指している橋本なずなです。
昨日、スタバでホットのゆずシトラスティーを飲みながら、本を読んでいた時のことです。
ふと、中学一年生の頃の思い出が蘇ってきました。
——— 【 従兄弟にレイプされている 】
私は、初めてできた彼氏 “修くん” に、そんな嘘のメールを送りました。
修くんとは幼稚園が同じで親同士も仲が良く、お互いの家を行き来することも多かったように思います。
肌が白く、黒い髪とのコントラストが綺麗で、クラスのムードメーカー的な存在だった修くんは皆から好かれていました。
小学校では一度離れてしまったけれど、中学校で再会し恋に落ちました。
彼にとって私は初恋の人だったようで、確かに幼稚園の頃から彼の好意には気が付いていました。
けれどもその頃、私は別に好きな人が居ました。
幼稚園児ながら明るい茶色に髪を染めていて、いつもこんがりと焼けた肌の “翼くん” 、それが私の初恋でした。
修くんは二番目に好きでした。
なのに、中学で再会しお付き合いすることになった時には、
『 俺、なずなが初恋やったんやで 』と言われて、「 えっ…!・・・私も修くんが初恋やで/// 」なんて言ったことを覚えています。
幼い頃から得意技は「方便」。私のあざとさは天性のものだったようです。
そんな修くんに嘘のメールを送ってしまったのは、付き合い始めて数ヶ月が経った頃のこと。
夜、母と二人暮らしの自室のベッドの上でぽちぽちと文字を打ちました。
【 従兄弟にレイプされている 】【 助けて 】
それが嘘だいうことはすぐにバレてしまい、修くんにはあしらわれてしまいました。
当時のことについて、私は昨日まで “心配をされたいが為に嘘を付いたかまちょ” だと理解していました。
人の気を引く為ならば嘘も付くような奴だと、自分自身でも思っていました。
けれど何故か、昨日、そのメールを送った頃のことを思い出したのです。
私が中学一年生、それは母と、当時の母のパートナーの関係が解消された頃でした。
小学五年生、10歳の頃から私はそのパートナーから性的虐待を受けていて、次第に強いられる行為は酷いものになりました。
けれど、中学校に上がる頃には二人の仲は遠くなり、性的虐待に遭うこともなくなったのでした。
それから暫くして付いたその嘘が、突然、今になり私の脳内に語りかけて来ました。
10年以上の月日を経て、それはまるで当時の私の叫びのように。
きっと、私は気づいて欲しかったのだと思います。
母のパートナーから性的虐待を受けていたことを。
友人や学校の先生には到底言えないけれど、修くんには他の誰よりも心を許していたから。
無邪気に遊んでいたあの頃から、あなたと離れ離れになってから私、穢されちゃったよって。
気付いて欲しかった。
その嘘は、私の唯一の希望だったのかもしれません。
しかし、私の願いは儚く散って、私たちはその後間もなく呆気なくお別れをしました。
別れてから、事情を知る修くんの友人数人からは虚言のレッテルを張られてしまった気がするし、それもあってか私は校内で孤立気味になりました。
19歳頃でしょうか、共通の友人を介して一度修くんとは再会していますが、彼が私を見る目は “軽蔑” と “偏物” それが混じったようなものでした。
ハッとして、私は当時と、これまでの自分を強く強く悔やみました。
私自身が今の今まで、当時の自分を “かまちょ” だなんて安い言葉で片付けてしまっていたのですから。
あれは、私の精一杯のSOSだったのに。
私自身が気付いていないことを、彼氏という立場では分かるワケがない。
修くんは悪くないし、私も悪くない。
悪い、というか、無理だったのです。当時の私が声を上げることは。
嘘を付いてしまったのは、仕方が無かったのです。そうするしか無かったのです。
「 ごめんね 」
私は10数年越しに当時の自分へ謝りました。
気付いてあげられなくて、私自身が誤った見方をしてしまっていて、本当に本当にごめんなさい。
昨今よく取り沙汰されている性被害ですが、被害に遭ってすぐに声を上げることは不可能に近いのです。
起ったことを理解するにも時間が掛かりますし、その傷を癒すこと、さらに声を上げるとなればかなりの時間を要して当然です。
『 何年も前のことを~ 』などと被害者を批判する声も見受けられますが、被害を “過去のこと” にして良いのは被害者本人だけです。
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