「表現は翼ですよ」(推薦図書)
――絵を描いてなにになる?
――この文章が誰のためになる?
――投稿してなにが変わる?
まるで出口の見えないトンネルの中にいるよう。
今日はおすすめしたい小説があります。
「活版印刷三日月堂 海からの手紙」ほしおさなえ
シリーズものの2冊目にあたります。
ゆるくつながった短編集なので、どのお話からも読むことができます。
活版印刷所を亡き祖父から継いだ孫娘、月野弓子。
印刷所に訪れる人々はなにかしらの事情を抱えています。
彼女は店主として人として、寄り添うように商品をつくりあげていきます。
派手さはないけれども、あたたかくどこかさみしくもあり、それでいて取り巻く世界を愛していることが伝わってくるストーリー。
それは、死がそばにあり、受け継がれるものを大切に思っているからかもしれません。
あなたはあなたであること、変えていくこと、縁がもたらし広がっていく不思議を信じているのかもしれません。
2冊目を選んだのは、2冊目まで読んだところだからというのはおいといて。
創作とともにあると感じたからです。
名もなきクリエーターをも肯定するように。
朗読会を開く若い女性の言葉に、心が解放されるような、踊るような感じ、とありました。
版画家の言葉には、タイトルに引用した「表現は翼ですよ」、誰もが飛べるわけではない、飛べる人は飛ぶべきだ、とあります。
言葉、文章についても、「伝えたい」と書いている人には、ああ、わかる……と共感してしまうであろう台詞が出てきます。
表現し、それを自分のノートにとどめるだけでなく、投稿したり発表したりする人には、
・なにかを伝えたい
・わかってもらえたらうれしい
・ともにわかちあいたい
といった思いがあるのではないでしょうか。
ただ、それを続けられるかというと、難しいこともあります。
それでもかくのは、想像もできないほど遠いどこかにでも、受け取る誰かがいるかもしれない、淡い期待からでしょうか。
物語の登場人物をとおして聞くからこそ、素直に受け止められることもあります。
小説の良さを、ひさしぶりに思い出しました。
最後に、「投壜通信」について話す一節から引用します。
「投壜通信って言葉があるでしょう? ツェランだったかな。詩は海に投げられた壜に入った手紙みたいなものだって。いつかどこかの岸に、ひょっとしたら心の岸に打ち寄せられるかもしれないという……」
「でもねえ、壜はそう簡単に岸にはたどり着かない。だからたくさん投げないといけないんですよ。そうしたらそのうちだれかが拾ってくれるかもしれない」
※東京都の印刷博物館で「活版印刷三日月堂」とコラボした特別展を開催されているようです。2019年1月20日まで。
https://www.poplar.co.jp/topics/45269.html