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仮想読書会:「世界の本当の仕組み」バーツラフ・シュミル著の(6)環境

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6人のキャラクターとの仮想読書会 ~AIと創る新しい読書体験~
「仮想読書会の進め方」と「このnote」
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【 今回の仮想読書会の範囲 】
「世界の本当の仕組み」バーツラフ・シュミル著

第6章 環境を理解する—かけがえのない生物圏

※引用に適した文字量などの事情もあり、元の書籍にある詳説のほとんどは、読書メモから割愛しています。今回の範囲に限りませんが、具体的な話や数値など、詳細に興味をお持ちで未読の方は、是非、ご自身でお読みになることをお薦めします。

【 読書メモ(引用、問いなど)】
・この決定的に重要な生物圏のバウンダリー(限界)のリストには、9つのカテゴリーがある。
気候変動(今では、不正確ではあるものの、たんに地球温暖化の同義語となっている)、海洋酸性化(炭酸カルシウムの構造を築く海洋生物を絶滅の危機にさらしている)、成層圏オゾンの減少(オゾン層は過剰な紫外線から地球を守っているが、クロロフルオロカーボン(CFC、俗称「フロン」)の放出によって脅かされている)、大気エアロゾル(視界を悪くし、肺の機能障害を引き起こす汚染物質)、窒素とリン循環への干渉(特に、淡水や沿岸水へのこれらの栄養分の放出)、淡水利用(地下や河川や湖からの過剰な取水)、土地利用の変化(森林破壊、農業、都市と産業の拡大が原因)、生物多様性の喪失、さまざまな形態の化学汚染だ。(p.279)

・そして、大気中の酸素と、水の利用可能性と、食料生産という、生存に欠かせない3要素の長期的な評価をするなら必ず、それらの確保が、進行中の気候変動にどう影響されうるかを考慮しなければならない。(p.290-291)

・要するに、酸素については心配すべきではないということだ。一方、水の供給の将来については、憂慮しなければならない。(中略)
需要主導型の淡水の欠乏のほうが、気候変動に起因する不足よりもはるかに影響が大きいということで、ほとんどの研究の示す見解が一致している。
そのため、将来の水供給対策の最善の選択肢は需要の管理であり、それがうまくいっている大規模な例の1つが、アメリカで近年に見られる1人当たりの水の利用料の削減だ。(中略)
1人当たりの水の使用量は40パーセント近く減少し、アメリカ経済の水集約度(実質GDPの単位当たりの水の単位)は76パーセント下がり、灌漑に使われる水の合計量は2015年にはじつはわずかに減ったので、農地の単位面積当たりの使用量は3分の1近く少なくなった。(中略)
飲料水の不足は、脱塩によって緩和することができる。
太陽熱蒸留から半透膜の利用まで、さまざまな手法で海水から塩分を取り除くのだ。この選択肢は、多くの水不足の国で一般的になってきており、世界中におよそ1万8000か所の海水淡水化プラントがあるが、貯水池やリサイクルから供給する淡水よりも、コストがかなり多くかかる。
作物に必要な水の量は、飲料水よりは桁違いに多い。
そして、世界の食料生産は、今後も降雨に頼り続けることになる。(中略)
水循環は地球温暖化によって否応なく盛んになる。気温が上がると蒸発量が増えるからだ。(中略)
降水量が増える場所の多くでは、降水が不規則になる。雨や雪の頻度が減るものの、1回の量が増え、壊滅的にさえなるだろう。(p.304-306)

・呼吸と水分摂取と食料摂取という、生きていくうえで必須の3要素を、このように正しい情報に基づいて眺めてみると、結論は一致する。
2030年あるいは50年(IPCCが二酸化炭素削減の指標とした年で、30年に2019年のCO2排出量から48パーセント、50年に99パーセントの削減を提示している)までに破局を迎える必然性はない。
酸素は、依然として豊富であり続ける。水の供給に関する懸念は多くの地域で増大するが、それはあらかじめわかっていることなので、命を脅かすような大規模な不足をすべて回避するのに必要な手段が講じられてしかるべきだ。
そして、私たちは低所得国での1日当たりの平均的な食料供給を維持するだけでなく改善する一方、富裕国では過剰な成案を減らすべきだ。
とはいえ、これらの措置を取っても、世界人口を養うための食料生産における、化石燃料補助への直接的・間接的依存を軽減することはできても、なくすことはできないだろう(第2章を参照のこと)。
そして第1章で説明したように、化石燃料の使用の削減は、迅速に行うことはできない。
つまり、今後何十年にもわたって、化石燃料の燃焼が世界の気候変動の原動力であり続けるということだ。(p.308)

・1月にブルーベリーをペルーからカナダに、サヤマメをケニアからロンドンに空輸する必要があるのだろうか?
これらの食品が提供するビタミンCと食物繊維は、他の多くの食品から摂取することが可能であり、そうすればカーボン・フットプリントを大幅に減らせる。
そして、途方もないデータ処理能力があるのだから、食品の値段をもっとうまく柔軟に設定し、30~40パーセントという廃棄率をそうとう下げられるのではないか?
さらにモデル化が行われるのを待つのではなく、できることをただちにやって恩恵を受ければいいではないか?
できていたはずなのに、まだ手をつけていないことのリストは長大だ。(p.312-313)

・あいにく、これらの魔法のような処方箋を詳しく読むとわかるのだが、現代文明の素材の四本柱であるセメント、鋼鉄、プラスティック、アンモニアを再生可能な電力だけでどうやって生産するのかの説明はまったくないし、現代経済のグローバル化を支える飛行機や船やトラックによる輸送の炭素排出量をどうやって2030年までに80パーセント削減するかの、説得力ある説明もない。それらの処方箋はただ、そうできると主張するだけだ。(中略)
ドイツは21世紀の最初の20年間に、風力と太陽光を使って、前例のない脱炭素化を試み、風力発電と太陽光発電の割合を全体の40パーセント以上に高めることに成功した(第1章を参照のこと)。
ところが、一次エネルギー利用における化石燃料の割合は、約84パーセントから78パーセントへと下げるのが精一杯だった。
現在、一次エネルギーの供給の90パーセントを化石燃料に頼っているアフリカ諸国には、莫大な金額を節約しつつ、10年以内にその依存度を20パーセントに下げるような奇跡的な選択肢など、どこにあるというのか?
そして、ともに採炭も石炭による火力発電も依然として増やしている中国とインドが、どうやって突然、石炭の消費量をゼロにすることができるのか?(中略)
国際エネルギー機関(IEA)の最も野心的な脱炭素化の筋書きでさえもが、2040年に世界の一次エネルギー需要の56パーセントを化石燃料が供給するとしていることは見逃せない。
同様に、素材とエネルギーの需要の規模とコストはあまりに莫大なので、全世界の迅速な脱炭素化の決定的な要因として、大気から二酸化炭素を直接回収する方法に頼るのは不可能だ。(p.321-323)

・(前略)熱帯の森林破壊や生物多様性の喪失、土壌侵蝕、地球温暖化の、迅速で普遍的で多くの場所でたやすく実行できる解決策などない。
だが、地球温暖化が並外れて困難な課題を突きつけてくるのは、それが真に地球規模の現象だからであり、人間に由来する原因のうちで最大のものが、エネルギーの面で現代文明の大規模な土台を成す、燃料の燃焼だからだ。そのため、わずか10~30年で化石炭素を完全に非炭素エネルギーに置き換えることができるとすれば、それは富裕国のすべてで生活水準をかなり下げ、アジアとアフリカで現代化を進めている国々に、1980年以降に中国が成し遂げた進歩のほんの数分の1さえ許さないだけの覚悟がある場合に限られる。(p.327-328)

・最も大きな疑問が残るのは、決定的に重要な課題の少なくとも一部に効果的に対処するという、私たちの集合的な決意、この場合にはグローバルな決意に関して、だ。
解決策も調整策も適応策も、すでに存在している。
富裕国は、1人当たりのエネルギー使用量を大幅に削減しても、依然として快適な生活の質を維持できるだろう。
三重ガラスの窓の設置を義務づけることから、より耐久性の高い自動車を設計することまで、単純な技術的改善策を広く普及させれば、大きな累積効果が出るだろう。
食品廃棄を半減させ、世界の食肉消費の構成を変えれば、食料供給の質を落とさずに炭素の排出量を減らせる。
驚くべきことに、こうした措置は、来るべき低炭素「革命」の典型的な説明には出てこなかったり、下位を占めるにすぎなかったりする。
そうした革命は、まだ利用可能な大規模な電力貯蔵や、非現実的なほど大量の炭素の回収と恒久的な地下貯留を頼みとしている。(中略)
充分効果的な措置はどれも、断じて魔法のようなものではなく、段階的でコストがかかるというのが現実だ。(中略)
変化の影響を減らす方法はあるが、必要な規模でそれを実施する決意が、これまでは欠けていた。
そして、充分効果的な形で行動を起こし始めるのなら、今やグローバルな規模でそうせざるをえず、かなりの経済的・社会的代償を払わなければならない。(p.333-334)

<問1>
メモの冒頭で挙げた、プラネタリー・バウンダリー(人類が地球上で生き延びられる限界)の9つのカテゴリーについて、今回の範囲にはさまざまな話が紹介されていました。

例えば、「1月にブルーベリーをペルーからカナダに空輸する必要があるのだろうか?」といった具体的な問いも挙げられていて、こうした内容であれば、何か新しく大きな施設を建設するなどといった費用も時間も要せずに、私たちが日常生活を送るうえでの選択を変えることで、輸送に関わる脱炭素やフードロスの削減といった貢献が可能だと思えました。

あなたの暮らしや仕事では、どんな形で「持続可能な生物圏の実現」に貢献できそうだと思うか、教えてください。

<問2>
今回の範囲では、繰り返し、「時間やコストがかかっても段階的に取り組む覚悟」や「経済的・社会的代償を払う、集合的な(グローバルな)決意」の必要が訴えられていました。

一方で、2025年1月20日、米国のトランプ大統領は「米国はパリ協定離脱により1兆ドル(約155兆円)以上を節約できるでしょう」といった発言をして、気候変動対応への国際的枠組みのパリ協定から再離脱するという大統領令に署名しました。
(私がこの記事を書いているのは、2025年1月25日です。)

これは、環境問題の解決という視点に立つと、後退に向かう動きだとは思いますが、そもそも、パリ協定の「拘束力のない、任意の約束」がすべて守られたとしても、2050年までに二酸化炭素排出量は(2013年度比で)50パーセント増加するという内容でしかないことを再認識し、本書で紹介されていたような、より深刻な世界の実態認識に見合った対策が求められると思います。

こういった状況もある中で、もしあなたが、国際的に影響力を持つ、気候変動会議の議長などの役割を担う人物であったとしたら、グローバルなレベルで、「持続可能な生物圏の実現」に向かうため、各国の代表者などにどのような働き掛けを行うか、教えてください。
過去に、異なる価値観を持つ人々を束ねて、ひとつの方向に導いたエピソードなどがあれば、それと併せてください。

【今回の成果共有】
芸術家:赤松さん
今回のメモを読むなかで、芸術的観点から環境をとらえる大切さを再認識しました。知らない国の森林や海洋の変化を遠くの出来事として眺めるのではなく、感性を通して身近に捉える工夫が必要だと思います。理屈だけでなく、意志や情動を刺激する表現を模索することで、人々が自分の行動を「変えたい」と感じるきっかけを作りたいです。

実務家:青柳さん
グローバル企業での経験と読書メモの内容を重ね合わせて、国際的な受容の温度差や時間的な制約を痛感しました。ですが、段階的アプローチを重ねれば、企業の生産効率や人材育成でも環境負荷を削減できるはずです。現場が主体的に取り組む風土づくりや、より透明な指標化が取り組み推進のカギになると改めて感じました。

フリーランス:黄田さん
環境問題への関心を自分なりのスタイルで楽しみながら広げられたらと思いました。特にフードロスや輸送の話は、すぐにでもアクションにつなげられそうで、ワクワクします。技術が進化しても、本当に必要なのは人々の意識改革なんだと再確認しました。発信力のあるフリーランスとして、もっと柔軟なやり方を試してみたいです。

起業家:緑川さん
地球規模の課題を前にすると、詰め込み型の知識だけでなく、その先の「自分ならどう行動するか」という意識変容を促す教育が必要だと考えさせられました。環境に対する負荷を見える化し、子どもたちと一緒に対策を考えることで、エンパワーメントにつなげたい。世界の成長とバランスを問い直す仕掛けを続けていきたいです。

物理学者:白石さん
科学的視点だけでなく、人々の選択の実態や社会システムが複雑に絡み合うことを改めて痛感しました。一挙に解決できる魔法はないけれど、段階的・部分的な改善こそ、実際のデータに裏打ちされた有効なステップになります。学問の領域を超えて連携し、わかりやすく成果を示すことで、市民や行政を巻き込む動力にしたいです。

政府官僚:黒木さん
行政側としては、各国の価値観や経済状況を封じ込めるわけにはいきません。だからこそ、柔軟な制度設計とインセンティブづくりが大事になります。読書メモで触れられていたように、時間やコストをかけた段階的取組と、社会的合意形成が重要だと再認識しました。今後も公平性と実効性を同時に追求する政策を考案していきたいです。

主宰者:7人目
問2に書いていたようなトランプ大統領の動きを見ると…「ポスト成長型の需要削減を推進する国際協議の場の設立」や、「富裕国が率先して排出量を削減し、低所得国への財政的・技術的支援を強化すること」などは、非現実的なように受け止めています。

しかし、今回の範囲には「100年単位で影響を比べると、メタン1単位の排出は、二酸化炭素28から36単位の排出、亜酸素窒素265~298単位の排出に、それぞれ匹敵する。(P.295)」という記述もあったことを思い出しました。

そして、低所得国では、二酸化炭素よりも温暖化抑制効果の高いメタンなどのSLCP(Short-Lived Climate Pollutants)削減に優先的に取り組むと、グローバルな温室効果ガス排出削減と経済発展を両立しやすいのではないかと思いつきました。

二酸化炭素と比べて優先順位が低いと見なされがちで、政治的な関心が薄いですが、温暖化抑制効果の違いに着目して、費用対効果も高いと見込まれるSLCPの取り組みに力を入れることで、低所得国の健康被害の軽減や農業生産性の向上にも直接的に寄与することを狙ってみる価値はあるのではないかと考えました。

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