餞 生田亜々子
ひとくちを残したコーラでつなぎとめもうしばらくを此岸で暮らす
目を閉じてまた開く時明るさが増して私にはまだ開くまぶたがある
秋雨は静かに降っていくつかの記憶の端も濡らしてしまう
声が似ていて これは旅を終えた人から渡された餞のひとつ
封筒の自分の名前の部首までもわからないよう殺す 生きるため
撮るだけで終わる風景ばっかりのカメラロールに私がいない
すぐさみしい方向に行く魂の矯正 街の右岸に降り立つ
胎児、否 屈葬の形で眠れば圧迫されておしっこしたい
初出『かばん』2022年12月号