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あらよさん
2024年9月4日 00:14
時刻は19時。今、僕はガードパイプに腰をもたれさせながら1人の女性を待っている。日が落ちて間もない新宿駅の、JRと小田急線の間にはギターを弾きながら懸命に歌う若者の歌声が響いていた。僕は持っているスマートフォンのカメラをインカメにして、髪の毛を整えると、画面を変えて時間を見直した。遅い。僕が新宿駅に到着したのは今から約1時間前の18時7分で、待ち合わせ時刻は18時30分だった。
2024年9月4日 11:09
「は? 誰と?」自分の服に少しかかってしまったグレープフルーツサワーをおしぼりで拭き取り、僕はそう聞いた。「誰とって、普通に彼女とだよ。」彼に「普通に彼女」と言う概念があった事にまず驚いたし、そんな存在が居た事も知らなかった。タツヤとはだいたい月1、2ペースで顔を合わせるのだが、その度に違う女性の話をしていたし、その女性達の統一性の無さにいつも疑問を感じていた。5つ下の女子大学
2024年9月4日 19:34
大学時代、僕には「ヒロ」という太った友人が居た。ヒロは身長も割とある上に横幅がかなり広いため、かなり大きく「横幅がヒロ」という別名も持っていた。ヒロはいつも食事をしていた。大学近くの食堂の人気メニューであった唐揚げ定食の大盛りを、一瞬でたいらげると、食後のデザートにラーメンを食べていた。その後しばらくしてから、お腹が空いたと言ってコンビニでフランクフルトを2本つも買ってコンビニ前で食べ
2024年9月4日 23:00
駅に着くと、僕は検索画面で店を調べ、泣きながら電話をかけて予約を取った。そのまま涙ながら店まで歩き、中に入ると待機室へと案内された。待機室では、ガタイの良いおじさんが紙煙草を吸いながら不思議そうに泣いている僕の事を見ていた。店員に呼ばれ、僕が選んだ女性の元へと行き、同じ部屋に入った。カオルさんという名の彼女は、泣いている僕を見て「えー、どうしたの?大丈夫?」と、半笑いではあったが優し
2024年9月5日 18:55
そして今、僕は完璧な「女性ウケ コーディネート」で新宿に立ち、「童顔の美女」が存在しない。という現実を知ってしまうという結果に至るのだが、さて、どうしよう。もう会ってしまったからには、デートを進行しなければいけない。デートを進行する。という事は、しばらくこの女性と過ごす時間が続く訳で、そんな時に「写真と全然違いますね。」などという事を言ってしまうと、この先の数時間が地獄へと変わる事であ
2024年9月6日 00:40
ハイボールの味を気に入った僕は、いつもよりお酒が進んだ。「食べ物と酒が合う」という事が、僕はいまひとつ分からなかったのだが、テーブルに置かれた唐揚げを食べ、ハイボールを飲むと、いつもより唐揚げの旨さが増した感じがした。これか。タツヤは食べ物に合わせていつも酒の種類を変えていた。いつもグレープフルーツサワーを頼む僕に「おいお前、食いモンと酒をコーディネートしないと、食いモンにも酒にも
2024年9月7日 15:34
僕はラブホテルには来た事がある。しかしその時は1人で入室した。理由はデリバリーヘルスの利用だ。僕はあれ以降ソープランドへは行かなかったのだが、デリバリーヘルスを利用した事が1度だけあった。その時は受付の従業員の顔のみ見えないタイプの作りだったのだが、今回利用するホテルは従業員の顔が見えるタイプのスタイルであったため、少し気まずかった。しかも若い女性なため、より一層恥ずかしかった。
2024年9月8日 15:56
「男」になった僕は、マキさんがシャワーを浴びた後、続けて僕もシャワーを浴びた。その後、なにやらマキさんが話していたが、丁度良い反発のキングサイズベッドに横になると、気付けば深い睡眠に入っていた。電源が落ちたかのような入眠であった。目を覚まして、ベッドサイドに置いていたスマートフォンを手に取ると、時刻は午前9時だった。隣にはマキさんが居なかった。僕は飛び起きてまず、おもむろに財
2024年9月10日 12:02
あれから2週間が経つ。僕が送った、マキさんへのメッセージに既読が付く事は無かった。僕は仕事終わりに自宅で、部屋にあるTVの画面に向き合い、コントローラーを操作し、ゲームの中の薄暗い舞台の中を彷徨っていた。僕はまだ、敵の姿を見ていない。しかし先程、姿を消す能力を持つキャラクター特有の、不穏な音が聞こえたので、そのキャラクターであろう。……このキャラ、マキさんが最近使ってるって言ってた
2024年9月11日 10:19
僕はあの日から2週間と1日。マキさんの事を考える事が多かった。もう会えないのだろうか。もし、あの日あの時あの場所でマキさんに会わなかったら、こんな気持ちになる事もなかったと思う。僕は社員食堂で、少しアンニュイな顔を作って、食後の自販機のコーヒーを飲んでいた。そんな時だった。僕のメッセージアプリの通知音が鳴った。マキさんからである。「ユウくんごめんーっ!ちゃんと追加できて
2024年9月12日 10:48
割としっかりとした作りのエレベーターに入り、僕はマキさんが住む階数のボタンを押した。到着を知らせる音と共に、エレベーターの扉が開くと、割としっかりとした扉が並ぶ道へと続いていた。その道を、割としっかりとしたライト達が照らしていて、僕は割としっかりとした作りの道を進んだ。確実に僕よりも良い所に住んでいるな。……「保育士」は、多忙だというしな。その割には、低所得なので早期退職する保
2024年9月12日 13:13
「じゃあ、ハイボールいただこうかな!」太ももに目が行ってしまうのを誤魔化すように僕は思ったよりも大声で答えてしまった。あまりの大声に少し驚いていた顔をしていたマキさんだったが、「…あぁ、うん。…じゃあ作るね。」と、準備を始めてくれた。2つ並んだ同じデザインのグラスに、マキさんがウイスキーを注ぐと、大きな氷がカランッと音を立てた。それを小さな蝶のモチーフが付いた、可愛らしいマドラーで