ハイボールシンデレラ5〜流し込む1杯目のビール〜
そして今、僕は完璧な「女性ウケ コーディネート」で新宿に立ち、「童顔の美女」が存在しない。という現実を知ってしまうという結果に至るのだが、
さて、どうしよう。
もう会ってしまったからには、デートを進行しなければいけない。
デートを進行する。という事は、しばらくこの女性と過ごす時間が続く訳で、そんな時に「写真と全然違いますね。」などという事を言ってしまうと、この先の数時間が地獄へと変わる事であろう。
「…じゃあ、行きましょうか。」
僕は予約を取っていた店へと歩み出した。
彼女が遅れた30分の間で、店への到着時刻も遅れてしまうため、僕は少し遅れる旨を電話で伝えたのだが、「童顔の美女」のためなら何も苦ではなかった。
しかし会ってしまった今、どうして30分も遅刻してこんなに余裕を感じているのだろう。と急激な苦痛が襲ってきたのだった。
僕が選んだのはハワイアンテイストなダイニングバー。
ハイビスカスや、リゾート風の家具で雰囲気を演出しているかと思えば、何故か唐揚げ、海鮮丼、ピザ、なども出る、メニューの世界観にはこだわりのない店である。
もちろん予約していた。
僕は数年ぶりのデートに向けて、有料記事の「デートマニュアル」を課金し、徹底的に計画を立てていたのだ。
全ては「童顔の美女」のためであった。
「本当すみませんー!仕事が思ったよりも終わらなくてー。」
童顔ではある女性がそう言った。
「いや、大丈夫っす。」
僕はあからさまに嫌な態度を取ってしまっていたと思う。
「…なんか頼みましょっか。」
童顔ではある彼女はそう、言った。
童顔ではある彼女は、「マキ」という。
マキさんは、僕に気遣って色々と話を振ってくれているようだったが、僕はショックを隠しきる事ができず、簡単な相槌を打つ事しかできなかった。
僕達は「ハイボール」を頼んだ。
僕はビールがあまり好きではなかった。そもそも、お酒の味があまり好きではない。
職場の飲み会で、皆がビールを頼み、1人別の物を頼むのは気まずいため、1杯目はいつもビールを頼み、あまり好きではない味の液体を無理に流し込み、その後はグレープフルーツサワーや、レモンサワーに飲み変えていた。
大前提として、お酒の味があまり好きではないので、飲み進めるスピードが遅く、あまり酔う事もなかった。
マキさんはハイボールを頼んだ。
僕も同じ物を頼んだ。
僕は実のところ、ハイボールを飲んだ経験が無かったのだが、1杯目を流し込む事には変わりない。
同じ物を頼めば、酒のセンスで悪い印象を抱かれる事は無いであろうという打開策で選んだドリンクだ。
席に届いたハイボールには、なにやらピンク色の造花が乗っていたが、それを隅に退かし、マキさんと乾杯をし、口に運んだ。
「美味しい。」
つい、声に出た。
僕は、「お酒」が嫌いだという固定概念があったため、あまり飲んだ事のない酒を飲もうとする挑戦心が無かった。
26歳。「アラサー」というモノに差し掛かり、「大人になった」から、美味しいと感じたのか、単純にハイボールの味が好きだったのかは分からないが、初めて「お酒」が美味しいと感じたのだ。
「初めて飲んだみたいですねー!」と、マキさんが笑った。
本当に初めて飲んだのだが、それは言わずに「アハハ…」と笑って見せた。
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