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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2023年6月の記事一覧

【詩】暁に薮を睨む

【詩】暁に薮を睨む

もう夜になる/埋め込まれている
そうやって薮の中に踏み込んでゆく

君が帳に差し出した手を
色めく街を俯瞰して伸ばした手を
僕の本心は【掴む】だったけれど
愚かにも僕は躊躇した

君が全霊で救おうとした君の手は
誰の【掴む】でも良いものなのだと
賢明にも僕は正確に分析した

今睨みつけたい道理があって
今睨みつけるべき論理があって
今睨みつけるはずの倫理があって

最も憎むべきものは良識であり

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【詩】幸福な重力

【詩】幸福な重力

産まれた瞬間に人間は
zero-Gravityから解放され
ママのはち切れそうな胸は
柔らかい意味のGravity
自動車は高速移動手段の
加速する機械の意味のGravity
ママの再度膨らんだお腹は
新たな生命の意味のGravity
先生や友達という意味のGravity
教育機関という意味のGravity
そんな感じで
Gravity Gravity Gravity
Gravity Gravi

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【詩】traceⅡ

【詩】traceⅡ

俺は既に生きる為の
目的を何も持たないが
あちらから雌の
匂いだけはする

痩せた一匹の尨犬が
砂っぽいアスファルトを
左後ろ脚を引き摺り行った
引き摺り引き摺り無自覚に
陽だまりのほうへ向かった

【詩】trace(再掲)

【詩】trace(再掲)

熱帯の蒸れに溺れ
舌から滴る放熱処理
猟犬の群れのしんがり

鹿の眷属たちが
わたしたちをtraceする
どこまでも執拗に

四肢と連動した蹄が
獣道の巨石を直に穿ち 掴み
美しい腿肉の緊張はどうだ

究極の美しさ 自然が
粘り強くtraceしてくる
鹿の眷属たちが

全ての愛すべき猟犬よ
最初に殺られるのは
どうやらわたしのようだ

ただ一つの僥倖は最前線で
見物できるという事だ
自分自身の呑ま

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【論詩】フィルター

【論詩】フィルター

世界は必ずフィルター越しに認識される。
必ず何かしらに検閲されると言っても良い。
それはTVの放送コードであったり、
脳内のお花畑というスラングであったり、
カエルが見る世界や猫が見る世界の差異、
生物学的な認識機構の多様性であったりする。
物質として個である限り必ずそれを有す。
その万有のフィルターに孤独を連想するとき、
私のフィルターは常に憂鬱を 濾滓とする。
濾し採られた憂鬱は皮肉にもそれ自

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【論詩】味方の実在論

【論詩】味方の実在論

共有空間に味方が誰も居ない
それは最も恐るべき事態だ
あなたが自明としていることが
其処では疑わざるを得なくなる
『俺が間違っているのか?』
『俺は頭がおかしいのか?』
確かめる術は必ずあるだろう
然しその術の信憑性に味方する
他者が抑々共有空間に居ないのだ
それは屡々家庭であったり
学校であったり会社であったり
あなたの脳内だったりする
『俺は俺だ、俺だから俺なんだ』
思考は意味を成さなくなる

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【詩】王

【詩】王

馬鹿には見ることが
出来ない服を着た者は
裸でいるのと同じことだ
詩作の王はそう断言した

馬鹿には理解することが
出来ない詩を作る者は
表現しないのと同じことだ
衣服の王はそう息巻いた

衣服の王も詩作の王も孤独だった

民衆は意見を1つにした
アイツら王は真に馬鹿者だ
裸であること 表現しないこと
それに何の問題がある?

2人の王はそれぞれ思った
『燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや』
2人の王は

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【詩】責任

【詩】責任

女は無自覚に
心臓を抉ってくる

男は優越感で
浅はかに嘲笑う

愛されたことが
とても嬉しかった

頼られたことを
疎ましく思った

固く握り締めた
柄杓の異様な冷たさ

柔らかく掲げた
榊の霊的な温かさ

庭園墓地の上空に
一羽の烏の一声

「ガア」

産まれたからには
希望が託されていた

だから生きている
これからも生きてゆく