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三叉路で、檜山はわざと右に曲がった。家を出て五分、普通に歩けば約束の時間に充分間に合う…
ゆっくりと傾く地球に合わせて、千夏の肩へ頭を預けようとしたときだった。死や、虹や、愛に…
橙色に染まったカーテンが揺れ、土埃のにおいが鼻先に漂ってきた。それは鼻腔でもわりと膨ら…
燈子が大阪を発ってから、一ヶ月と少し経つ。卒業式の翌々日、燈子はフェリーに乗って故郷へ…
窓を見遣る。空はレトロなフィルターをかけたように色が薄く、燈子の写真を彷彿とさせる。三…
「桜って三月に咲くもんやっけ」 「今年がおかしいんよ」 テレビ画面には桜の蕾が映っていた…
この教室はいつも真昼間だ。太陽のような青年、森崎光のまぶしさで、里恵の目はすっかりやられてしまった。 里恵の席は、黒板から見て右端の一番後ろにあった。そのおかげで、里恵は光を直視することができる。笑ったときにちらりと見える白い歯、薄くなる唇、陶器のように滑らかな鼻、ガラスペンでなぞったような輪郭の指。 話せなくていいし、話さなくていい。見ているだけでいい。脳みそまでやられてしまっている里恵は、光と目が合うだけで嬉しいのだ。 里恵には日課があった。通学路に咲いている数本