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2019年6月の記事一覧
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (19/23)【傷痕】
【目次】
【離別】←
「ヌあ……っ!?」
間抜けな声を上げながら、アサイラは空間に放り出される。円形状で、中央に天蓋付きのベッドが置かれた『淫魔』の部屋だ。
アサイラたちを転送した『扉』は、相変わらずノイズまみれで、床と斜め向きになるような位置で空中に浮かんでいる。
「あー、ひどい目にあったのだわ」
『扉』の内から身軽に着地した『淫魔』は、じゅうたんのうえに転がるアサイラを横切り、
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (18/23)【離別】
【目次】
【合流】←
「ちょうど、こいつを倒したところだ。推定、セフィロトエージェント」
「それは僥倖だわ。うら若い乙女に暴行するのは、感心しないけど」
「死にものぐるいでやって、このザマだ。そうでなければ、こっちが死んでいたか」
「……ふうん」
『淫魔』はすました表情で、ガレキ野原を見やる。
「そういうおまえこそ、よくここまで来れたな」
「苦労したの。感謝するのだわ」
「互いの
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (17/23)【合流】
【目次】
【逆手】←
「おまえ……セフィロト社のエージェント、か?」
アサイラは、会敵したときに口にした質問を、再度たずねる。獣耳の女性は、返事をせずに沈黙を守り続ける。
(まあ、聞くまでもない……か?)
女の首から下には、黒光りする装甲のコンバットスーツが身をおおっている。なにより、彼女が使った各種の兵器は、セフィロト社のものと考えるのが自然だ。
(……だが)
年の頃は二十前
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (16/23)【逆手】
【目次】
【双巴】←
「う……ッ!?」
エージェントは、苦しげにうめく。再度の空転ののち、ガレキの地面に背を突いたのは自分のほうだった。
右脚を『固着』したまま落下したため、関節を痛めたようだ。鈍痛が響いてくる。
「……ガぼオッ!!」
コンバットスーツ越しでも吸収しきれない衝撃が、腹部を襲う。ターゲットの右ひざが、落下の勢いごと叩きつけられた。
胃酸が逆流し、ガスマスクの内側
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (15/23)【双巴】
【目次】
【打破】←
ほとばしるマズルフラッシュ。牽制の三点バースト射撃が、汚染空気を引き裂く。
アサイラは、敵の動きを察知して事前に横っ飛びし、銃弾を回避する。着地と同時に、左足に違和感を覚える。『固着』だ。
「ワッカ!」
「おうだら!」
背におぶさった小人は、アサイラの肩に両手を突き、空中ブランコのような動きで背中を蹴る。その衝撃を受けて、アサイラの左足が前へと踏み出す。
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (14/23)【打破】
【目次】
【固着】←
「ずいぶんと丈夫だな。やりすぎて壊す心配がない点は、安心した」
ガスマスク越しに、無感情な声が聞こえてくる。
「生け捕りにする気か。ここで殺しておいたほうが、安全じゃないのか?」
「こちらが判断することだな。そちらが、先のことを案じる必要はない」
アサイラは、敵エージェントをにらみ返し、立ち上がろうと左手を地面につく。先ほどと同じ違和感が走る。今度は、左手が離
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (13/23)【固着】
【目次】
【穴掘】←
「このワタシは、『シフターズ・エフェクト』と呼称しているかナ」
独力で世界間移動を果たした人間──パラダイムシフターは、世界法則に囚われない特異な能力に覚醒することがある。
その能力は千差万別で一概に分類することは出来ないが、おそらく、次元世界<パラダイム>のくびきから解き放たれたことが原因だと推測できる。
以前、ドクターがそのように言っていた。
─────
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (12/23)【穴掘】
【目次】
【要撃】←
「ギ、ギィ……この穴、ワッカが……掘ったのか?」
「穴掘りは、発掘者<スカベンジャー>の得意技だら!」
誇らしげな声のワッカは、酸素ボトルを差し出す。アサイラは、感謝の言葉を告げる間もなく、荒く息継ぎをする。
清浄な空気が、アサイラの思考をクリアにしていく。
(あの野郎は、当然、このくらいで見逃してはくれないだろう……)
アサイラとて、やられっぱなしで終わ
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (11/23)【要撃】
【目次】
【瓦礫】←
「……ここらへんに、落ちたはずだら」
すでにガレキの山に頂にだいぶ近づいた地点で、ワッカはつぶやく。汚染の程度は、アサイラが落下した場所と同程度だ。
すでに防護服では遮断しきれなくなっているが、アサイラにとっては、軽減してくれるだけでも十分ありがたい。
「あんだけ大きな布がくっついていたんだら。すぐに見つかりそうだら……」
手にしたスコップでガレキの表面をか
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (10/23)【瓦礫】
【目次】
【猟犬】←
「集落ちかくの空気は、まだ汚染が弱いだら。これが、ガレキの山のいただきに近づくほど濃くなっていく」
つぎはぎだらけの防護服に身を包んだ発掘者<スカベンジャー>、ワッカは、手にしたシャベルで前方を指し示す。
現在地点は、地面がガレキにおおわれてこそいるが、まだ平地といえる程度だ。眼前には、見あげんばかりの廃棄物の山がそびえ立つ。
山裾のところどころから噴き出す紫
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (9/23)【猟犬】
【目次】
【潜行】←
巨大な円筒状の空間だった。
十分な照明が確保されているにも関わらず、上を見ても天井は霞の果てに溶けこんで視認できず、下を見でも穴の底は闇の向こう側に隠されている。
セフィロト本社の『ダストシュート』。巨獣のごとくうごめく経済活動の末に産み出された大量の廃棄物を、ただ投棄するための施設だ。
円筒空間には一本橋がかかり、そのうえには二つの人影がある。
「……以
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (8/23)【潜行】
【目次】
【禁則】←
『淫魔』は、オペレーターの前にひざをつくと、目と鼻の先にあるズボンのベルトを外し、股間のチャックを降ろす。
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管制室に爆発音が響き、バリケードが押さえていた職員ごと吹き飛ばされる。
続いて、プロテクターとアサルトライフルで完全武装した警備兵たちが、管制室になだれこんでくる。
「フリーズ!」
先陣を切った警備兵が、銃口を構えつつ
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (7/23)【禁則】
【目次】
【潜入】←
「それじゃあ、みなさ~ん。聞こえてますかぁ?」
幼児に語りかけるような、間延びした『淫魔』の声が管制室に響く。
「入り口をロックして、その上から、いすとか、机とか、書類棚とかかき集めて、バリケードを作るのだわ。あ、システム制御が得意な人、一人は残ってね」
『淫魔』の命令に従って、職員たちは、のろのろと立ち上がり、管制室の入り口を閉鎖しにかかる。
壁一面に張りつ
【第7章】奈落の底、掃溜の山 (6/23)【潜入】
【目次】
【途絶】←
「……私は、やりかけたことを途中でやめるのが、大キライだからだわ!」
整った指の爪先に『淫魔』は、力をこめる。空間が歪み、なにもない場所に『扉』が現れる。
「寸止めは、ナシだわ! 最後までやるのが、私の主義!!」
『淫魔』は、自らが作り出した『扉』を押し開き、くぐる。その向こう側に伸びる亜空間の通路は、小刻みに、不安定に振動しつづけていた。
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