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銀河フェニックス物語Ⅰ【少年編】

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レイターとアーサーが十二歳から十五歳まで乗っていた、戦艦アレキサンドリア号での物語。
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銀河フェニックス物語 総目次

イラスト付き縦スク小説『銀河フェニックス物語』の内容が一目でわかる目次を作ってみました。 <出会い編>第一話 永世中立星の叛乱 記念すべき第一話。新入社員のティリーが「厄病神」のレイターの船で初めての出張に出かけますが、革命規模の大規模デモに巻き込まれて…… 第二話 緑の星の闇の向こうに第一話の一週間後のお話。同期の代わりに出張へ出かけたティリーは、今度は環境テロに巻き込まれます 第三話 レースを観るならココ!と言われて宇宙船レースを観るのが趣味のティリーが、研究所のジ

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(2)感謝祭の大魔術

**  空気が切り裂かれ震えている。拳のスピードが人間のものとは思えない。  ヌイは自室のベッドに腰かけてバルダンの動きを見ていた。気合が入っているなあ。感謝祭で披露する新しい演武だという。  さて、僕らのデュエットはどうなるだろう。坊ちゃんはいい声をしている。本人さえやる気になれば、トリオも出し物としては面白い。  と思ったところへ、がっくりと肩を落としてレイターが入ってきた。一目でわかる。坊ちゃんに断られたな。 「出ないと言ったら出ない、だってさ」  力なくドアに寄り

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(1)感謝祭の大魔術

「二週間後に感謝祭を開く。それまでの間、一切仕事は受けない」  アレック艦長の命令は絶対だ。  戦艦アレクサンドリア号は久しぶりに宇宙空間へと飛び立った。  領空侵犯した敵機を捕獲した後、捕虜が死亡した。人権委員会が仲介に入り銀河連邦とアリオロン同盟の交渉が秘密裡に行われた。中継地点では面倒な尋問と事務作業に追われた。隊員たちには気分転換が必要だ。特にあいつにはな。 **  ほとんど船が通らねぇ辺境空域をパトロールだっつって慣性飛行してるが、これ、仕事さぼってるだろ。訓

銀河フェニックス物語【少年編】 第十五話 量産型ひまわりの七日間(まとめ読み版)

 絶対は絶対にない。 それでも将軍家は言い続けなくてはならない。 「絶対に勝利せよ!」と。  生命は不可逆だ。死んだ者は絶対に生き返らない。絶対に。 * 「ごめんな」  レイターはこっそりと格納庫を訪れた。  目の前のアリオロン機に心が痛む。噴射口ぶっつぶしちまってすまねぇ。無傷で手に入れられりゃよかったが、鮫ノ口に逃げられるよりマシだって思ったんだ。  小さな高重力ビスとワイヤで機体は丁寧に留めてある。  デジタル図鑑でよく見たアリオロンの戦闘機V五型。通称ひまわり。

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(31 最終回)量産型ひまわりの七日間

 俺は夢見心地で頷く。戦闘機乗りだったモリノ副長が「お前ならS1レーサーにだってなれる」って言ったのは本気だったのか。お人好しの副長。俺はずっとあんたを殺す方法を考えてたってのに。  ジュニアクラスではエース・ギリアムが連戦連勝中だ。  師匠のカーペンターに俺は聞いた。 「俺、エースに勝てるかな?」 「エースの持ち味は強さだ。お前は速いがまだ無理だな」  あれからどれだけ経っただろう。俺はこの艦で戦闘機に乗った。地球にいたころより実機の操縦感覚が鋭くなった。エースを打ち破

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(30)量産型ひまわりの七日間

**   俺はアレックの部屋でじっと気配を消してた。  アーサーは俺が撮影した座標の画像を秘匿通信で送って、鮫ノ口の捜索をさせた。ひまわりが持ってたデータはこの艦の通常回線では伝えられねぇほど秘密で重要なものだってことだ。  モニターに映るフチチの殿下は生意気で頭が悪そうだった。あいつ、操縦も下手くそだったもんな。 「中継地点に着陸します」  艦内放送でヌイの声が流れた。やばい。着いちまった。こっそりとアレックの顔をうかがう。俺の身柄はどうなるんだ? 「お、レイター、

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(29)量産型ひまわりの七日間

**  アレック艦長の前にレイターを突き出し、動画を再生する。腕から通信機を外す時間ももったいない。  ここに記された鮫ノ口暗黒星雲の座標点こそ、星間物質の観測機設置場所だ。艦長は頭の回転が速い。すぐに状況を理解した。 「秘匿の緊急通信を使え」 「はい」  艦長室からフチチ駐留連邦軍のクナ中将とハヤタマ殿下にホットラインで直接連絡を入れる。 「今、送信した三十の座標点へすぐ向かってください。観測機を発見次第、回収を願います」  フチチ軍と連邦軍の方面本部が共同で鮫ノ口暗黒星

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(28)量産型ひまわりの七日間

 天才も大変だということを俺は初めて知った。あいつはすべての物事を記憶する。それは便利なだけじゃないらしい。 「感情の振れ幅が閾値を超えると、その記憶が何度も目の前に再現されることがあるんだ」  銃でおっさんを撃ったシーンが、壊れた再生機のように何度も目の前で繰り返されてたっていう。恐ろしくリアルで、血の一粒一粒の飛び散る先まで見えるデータ量の詰まった映像が。  その間も日常生活を送るための脳は別に活動していて、一見何の問題もないるように他人には見える。 「前にもあったの

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(27)量産型ひまわりの七日間

** 「中継地点宙域の管制下に入ります。あと二時間で本艦は着陸します」  艦内放送を聞きながら、俺は左手に着けた通信機の動画再生ボタンを押した。カラフルな短い映像が手首の上の空間に立ち上がる。中継地点に着く前に、こいつをアーサーに見せたほうがいいな。    それにしてもやべぇ。  アリオロンのおっさんが死んで、艦内は大変なことになってる。敵とはいえ捕虜が死んだんだからな。しかも俺のせいだ。俺がおっさんに興味を持ってトウモロコシを持ってい行ったせいだ。しかも、頭殴られて気ぃ失

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(26)量産型ひまわりの七日間

 棺に入れられたグリロット中尉は眠っているようだった。格納庫脇の断熱されていない空間に天然の冷凍保管庫がある。その一角が霊安所となっていた。この艦には全員分の棺が用意されている。出航以来、最初の利用者が敵兵というのは、我が軍にとって悪いことではないはずだ。   グリロット中尉の冷凍された遺体はこのまま人権委員会に引き渡され、家族のもとへと帰る。  彼は娘のことを「宇宙一可愛いです」と目を細めていた。僕と同じ年の彼女はどうなるのだろう。アリオロンでは子どもの幸せは最大限に尊重

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(24)量産型ひまわりの七日間

**  緊急の艦内放送に耳を疑った。 「グリロット中尉、逃走中。レイターを人質に取っている」  何が起きた? 考えるよりも早く僕は走りだした。中尉の目的はわかっている。ひまわりだ。 * 「アーサー、あんた、あのひまわり、咲けねぇって知ってたか?」  宇宙船お宅のレイターはV五型機を鋭い観察眼で見ていた。 「咲けない? どういう意味だ」 「機体の先端に、黄色いひまわり型のバリアがでる送出口があるだろ。あそこが改造されてんだよ。カバーの感じからして、多分、コネクトケーブルが

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(23)量産型ひまわりの七日間

**  料理長のザブの許可をもらって、トウモロコシを食糧庫から持ってきた。皮のままグリルで焼く。香ばしい匂いが漂ってきた。  久しぶりに身体が軽い。きのうはぐっすり眠れた。『赤い夢』も見なかった。  アーサーのことは好きじゃねえが信頼できる。あいつがごちゃごちゃと聞いてきた時にはどうなるかと思ったが、俺のためだったってことだ。  それにしても、アーサーの奴は基本的に嘘が下手だ。あんなんで将軍家が務まるんだろうか。軍師としては優秀だが、軍の組織をまとめる力があるとは思えねぇ

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(22)量産型ひまわりの七日間

** 「坊ちゃん大丈夫ですか?」  馬乗りになったバルダン軍曹が僕を見ている。 「僕は殺されましたね」 「そうですな。俺は逃しませんから」  白兵戦の訓練中だった。僕が集中を欠いた一瞬だった。軍曹に背後を取られ転がされた。 「珍しいですな。坊ちゃんに隙があった」  僕が身体を起こすと軍曹は隣に座った。 「考え事をしていました」 「訓練中に?」 「これは、実際の戦地でも考えることかも知れません」 「ほう、何を考えていたんですか?」  僕は正直に答えた。 「人を殺すということ

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(21)量産型ひまわりの七日間

 拘束室へと戻る帰りの廊下で、自分は驚くべきことを目撃した。  この戦艦に幼い子どもが乗っていたのだ。男の子は走って近づいてくると、高い声で自分に話しかけてきた。語尾が上がる疑問形。何かをたずねているようだ。  くりくりとした目で自分を見つめる。敵意は感じない。  ヌイ軍曹が少年をたしなめる。 「すみません、騒がしい子で。ひまわりが図鑑と違っていたようで気になったようです」 「ひまわり?」 「ああ、我々はV五型機のことをひまわりという黄色い花の名称で呼んでいるんです。明るく