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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(2)感謝祭の大魔術

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1)
<少年編>マガジン

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 空気が切り裂かれ震えている。拳のスピードが人間のものとは思えない。
 ヌイは自室のベッドに腰かけてバルダンの動きを見ていた。気合が入っているなあ。感謝祭で披露する新しい演武だという。

 さて、僕らのデュエットはどうなるだろう。坊ちゃんはいい声をしている。本人さえやる気になれば、トリオも出し物としては面白い。
 と思ったところへ、がっくりと肩を落としてレイターが入ってきた。一目でわかる。坊ちゃんに断られたな。
「出ないと言ったら出ない、だってさ」
 力なくドアに寄り掛かるレイターにバルダンがすかさず蹴りを仕掛ける。レイターが反射的に型で受け返した。そのまま基本形の動きを二人で続ける。組演武か。
「そうだ、坊ちゃんにバルダンと一緒に演武をしてもらったらどうだい」
「それ、いいじゃん」
 僕の提案にレイターの目が輝いた。バルダンが肩をすくめた。
「残念だな。アーサーは俺の勧誘をすでに断っている」
「え?」
「創作組演武の相手を探していてな。アーサーに声をかけたんだが、仕事に関わることは出し物としてやりたくない。と断られた」
 真面目な坊ちゃんらしい。
「代わりに俺が演舞の相手してやろっか?」
 レイターが続く突きを打つ。バルダンが受けながら返す。決まった動きとはいえ、レイターは器用だ。バルダンの攻撃を上手くいなしている。
「お前はチビ過ぎだ。俺がいじめているように見える」
「フン」
「坊ちゃんは仕事に関わらなければ、出てもいいという反応だったのかい?」
 蹴りかけた足を止めてバルダンは答えた。
「出たくない、とは言わなかったぞ」
「あいつ、誰にも誘われねぇからな。ほんとは出たいんじゃね?」
「じゃあ、歌と仕事以外の何かを探してみないかい? 彼の趣味は何だろう?」
「あいつの趣味と言えば、仕事だぜ。世界平和が大好きなんだ。あとは難しい本を読むことだな」
「うーん。出し物としては微妙だな」
 レイターがはっと顔を上げた。
「趣味じゃねぇけど特技を知ってるぜ。宴会芸にもってこいだ」

「何だい?」
「暗記術だよ。よく番組でやってるだろ。みんながトランプを引く時にちらりとカードを見せて、後で誰が何を持っているか当てるやつさ。あいつなら百発百中だぞ」
「確かに」
 バルダンも相槌を打った。アーサーの記憶力は高性能のカメラ並みだ。見たものすべてを暗記する。天才と呼ばれる所以だ。けど、僕は賛同できない。
「それ、誰も驚かないよ。隠し芸でも何でもないし、坊ちゃんがやりたがるとも思えない」
「隠し芸か。じゃあ、音楽が苦手なのに実は音階暗号譜の解読ができるってのは?」
「それは仕事」
「早食いは? あいつ食べるの早いぜ」
「俺は負けんぞ」
 バルダンが手を挙げた。白兵戦部隊は大食いで早食いだ。
「ですよねぇ」
 早くも煮詰まった。

「お前たちは、何歌うんだ?」
 子どもの頃に合唱団にいたというバルダンは歌に興味がある。
「まだ、検討中さ。オリジナルも入れたいけれど、みんなが盛り上がれる曲がいいよね。リクエストあるかい?」
「レイター、お前、ギミラブ歌えよ。あれは盛り上がるぞ」
 銀河の歌姫の大ヒット曲で不倫のバラード『ギブ・ミー・ラブ』。レイターが路上ライブで披露したのを聞いたことがある。元歌手の僕が嫉妬するほどうまかった。バルダンもあの時のことが頭にあるのだろう。
「受け狙いに走り過ぎだろ」
「今更何を言ってやがる」
「みんなが知っている曲だし、いいかもね」
 僕も賛同した。
「俺がギミラブ歌うなら、隣でアーサーに歌姫の仮装させようぜ」
 レイターは次から次へとアイデアを思いつく。
「ふむ、確かに女装してもべっぴんさんだな」
 バルダンが悪乗りする。
(3)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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