銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(23)量産型ひまわりの七日間
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料理長のザブの許可をもらって、トウモロコシを食糧庫から持ってきた。皮のままグリルで焼く。香ばしい匂いが漂ってきた。
久しぶりに身体が軽い。きのうはぐっすり眠れた。『赤い夢』も見なかった。
アーサーのことは好きじゃねえが信頼できる。あいつがごちゃごちゃと聞いてきた時にはどうなるかと思ったが、俺のためだったってことだ。
それにしても、アーサーの奴は基本的に嘘が下手だ。あんなんで将軍家が務まるんだろうか。軍師としては優秀だが、軍の組織をまとめる力があるとは思えねぇ。黙々と研究してるのがお似合いだ。
あいつよりダグなら最強の軍隊を作り上げるだろうな。
って考えたところで身体がブルって震えた。何でダグのこと思い出しちまうんだろ。まあ、いいや「無理に忘れる必要はない」ってアーサーも言ってたしな。
トウモロコシを転がすと、いい感じに焼けてきた。
アリオロン人って何味で食うんだろ。とりあえず、俺の好みのバターは欠かせねぇ。あのアリオロンのおっさんと話がしてみてぇな。アーサーにアリオロン語を教えてもらうか。っつっても、もうあしたには中継地点だ。
軽く塩を振る。あとは自分で味付けしてもらおう。調味料を少量ずつトレイに載せた。
食べる時に手が汚れねぇように持ち手の部分をホイルで巻いてやる。
きょうの尋問は終わってる。あったかいうちに持って行こう。夕飯の前だけど喜んでくれるといいな。
拘束室は自動管理だ。見張りはいない。許可はちゃんととってある。ドアの横の搬入口にトウモロコシをいれた食品コンテナをセットすると、吸い込まれるように消えた。
室内モニターを見つめる。食品コンテナがオートで机の上に置かれた。捕虜のおっさんが立ち上がって近づく。調理人としては喜んでもらう瞬間が何よりうれしい。
ん? 何やら様子が変だ。眉間のしわが深い。好きな食い物を前にしたって顔じゃねぇぞ。警戒してるのか?
おっさんは持ち手の部分を手にすると、親の仇、って表情でかぶりついた。調味料には目もくれずコーンを歯でもぎ取るようにして、猛スピードで食っていく。まったく味わってねぇ。これが、アリオロンの食い方なのか? どう見ても嫌いなものを食ってるようにしか見えねぇ。
おかしいだろ。俺は見つめ続けた。
食い終わった瞬間、アリオロン人はのどをかきむしるような仕草をして白目をむいて倒れた。
おいおい、毒は入れてねぇぞ。考えられるのはアレルギーだ。アナフィラキシーショックか。あいつ死んじまう。
「おい、処置ペンを出して開けろ!」
ドアに向かって叫ぶ。
コンピューターが命の危機を判断してキーを開錠した。処置ペンが搬入口にでてくる。俺は走って駆け寄り、アリオロン人の太ももに処置ペンを刺した。
「おい、大丈夫か?」
ヒューヒュー言っていた呼吸が治まってきた。よかった。
次の瞬間、何が起きたかわからなかった。頭に強い衝撃を受けて目の前が真っ暗になった。
(24)へ続く