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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(29)量産型ひまわりの七日間

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」(1)  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8) (9) (10) (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27) (28)
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 アレック艦長の前にレイターを突き出し、動画を再生する。腕から通信機を外す時間ももったいない。
 ここに記された鮫ノ口暗黒星雲の座標点こそ、星間物質の観測機設置場所だ。艦長は頭の回転が速い。すぐに状況を理解した。
「秘匿の緊急通信を使え」
「はい」
 艦長室からフチチ駐留連邦軍のクナ中将とハヤタマ殿下にホットラインで直接連絡を入れる。
「今、送信した三十の座標点へすぐ向かってください。観測機を発見次第、回収を願います」
 フチチ軍と連邦軍の方面本部が共同で鮫ノ口暗黒星雲の大捜索に入った。

 グリロット中尉は鮫ノ口に浮遊している観測機のデータを一つずつひまわりを使って手作業で回収する任務に就いていた。その痕跡を一つでも発見したい。観測機が見つかれば、亜空間破壊兵器についてどこまで研究が進んでいるか把握できる。
 
 だが、グリロット中尉を拘束してから一週間。すでに同盟軍によって観測機は回収されたあとだった。
「鮫ノ口の全三十地点の確認終了。発見物なし」
 連絡がクナ中将から入った。

 敵も馬鹿ではない。それでも肩を落とさずにいられない。
「仕方あるまい。ま、三十地点の座標情報を我々が入手している、という事だけでも利用価値は十分にある」
 アレック艦長の声は明るかった。不可抗力とは言え、捕虜を死なせたという事実は交渉を複雑にする。艦長はこの座標情報を裏交渉で使うつもりなのだろう。

 その時、ハヤタマ殿下から秘匿通信が入った。
「トライムス、そちが伝えてきた座標点とは別の地点で、我は観測機を発見したぞ」
「え? 別の地点ですか」

 殿下の言っている意味がよくわからない。
「そうだ、暗黒星雲内は地点の特定が難しくてな。少々探査地域を広げておったところ網にかかったのだ」
 どうやら殿下は慣れない暗黒星雲内の飛行でルートに迷ったようだ。
「しかも、手作り品ぞ」
「手作り品とは、どういう意味ですか?」
 芸術家である殿下の話す内容は時々意味不明だ。浮揚する宇宙ゴミを拾ってきたのではないだろうか。
「文字通りだ。工業製品ではない。自由研究で作るようなものだ」
 手袋をはめた殿下はバスケットボールほどの大きさの球体を重そうに抱えてカメラの前に置いた。観測機だ。だが、軍が使う観測機ではない。確かに学生が作る手作りの実験用機器と似ている。

 軍人ながら研究者でもあるグリロット中尉の顔が浮かんだ。
 殿下の手元にある観測機は中尉が自作したものに違いない。自分の観測データが何に使われるのか。おそらく多くは知らされていなかったのだろう。彼は科学者として、その目的を調べずにはいられなかったのだ。
 ひまわりの極細コネクトケーブルを使えばデータは取り出せる。この情報を使えば、亜空間破壊兵器の開発競争を鈍化させることができるかもしれない。
「殿下、それをすぐにこちらへ送って下さい」

「言われんでも送るわい。ブラックボックスになっておってこちらでは何もできんのだ。ところで、そちには礼を言う」
 高慢な殿下が頭を下げた。何のことだろうか。
「捕虜の兵士を殺してくれたそうだな。そちも知っておろうが、あやつ、フチチ大空襲の爆撃に加わっておったのだ。これも運命よ」
 一瞬、息が止まる。大丈夫だ、聴力に異常はない。
 
 広い暗黒星雲の中で、ハヤタマ殿下が偶然グリロット中尉の観測機を発見した。殿下が言う通り運命というものを感じずにはいられない。

「中継地点に着陸します」
 ヌイ軍曹の明瞭な声が艦内に響いた。

(30)へ続く


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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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