どこかの本で引用されていて、とても気になったので、読みたくなった気持ちは覚えているのだけど、具体的に、何を知りたかったのは忘れてしまっていた。
そんな失礼な状況で、しかも申し訳ないのだけど、著者のことを知らないままだった。プロフィールでは1994年生まれだから、まだ20代のはずで、なんの事前情報もなく読み始めたのだけど、途中から、自分の視界が明るくなっているような気がしたのは、その書き方がとても明晰で、世界の見え方が少し変わったからだと思った。
『女の子の謎を解く』 三宅香帆
文章が冷たすぎず、かといって湿り気が多すぎない。
対象から遠すぎず、近づきすぎない。
不思議な感触のある文章だと思った。
これが「まえがき」で、やや熱を感じるのだけど、その一方で「あとがき」には、こうした表現もある。
「まえがき」の微妙な熱量と、「あとがき」の適度な冷静さに象徴されるような感覚が、この作品の明晰さを生んでいるのかもしれない。
いろいろな謎
謎の設定が、とても魅力的だと思った。
それらが、具体的な映像作品や、漫画や小説を通して、解き明かされていく。
それぞれの章立てが、疑問形で提示されるが、私のような、昭和生まれの男性にとっては、「謎」自体が見えていないことに気づきつつも、さらには、そこに挙げられた作品自体を知らなくても、時代の変化も含めて、理解に近づけるような記述も続く。
その分析は、どれも明快だから、こちらが少し頭が良くなったような錯覚さえ覚えるほどだった。
なぜ2010年代になって大人数のアイドルが流行ったの?
それほど関心がないとしても、特に2010年代になって大人数のアイドルを目にすることが多くなり、そして、当初は、「AKB48」が人気の中心だったのに、だんだん「坂道グループ」と言われるアイドル集団に人の注目が移って行ったのは、知識としては知っていたのだけど、この批評的な作品によって、初めて、その謎が明らかになった気もした。
最初は「AKB48」についての分析から始まる。
その次に「乃木坂46」への流行の移行についても記述される。
さらに、「欅坂46」の突発的な登場と注目についても、触れる。
そして、コロナ禍の2020年代には「日向坂46」の存在について、語られる。
時代の見方は、単純化しすぎるのかもしれないが、著者は、そのことにも自覚的でありつつ、アイドルの在り方との必然性も論じていて、とても説得力を感じたし、この視覚が明るくなる感覚は、このことだけではなく、他の「謎」を解き明かす過程でも共通していた。
そして、ここ20年の様々な事象に対しての心理的な距離感が近く、それだけに、さらに未来まで思考が届きやすくなっていて、それは、まだ20代である有利さを、とても適切に活用していると思えた。
おかげで、悲観的になりやすい現実の中で、少し暗い霧が晴れたような気持ちになれた。
おすすめしたい人
2020年代の現在、魅力的で、しかも考えさせてくれるような作品のことを知りたい人。
現実の未来のなさに、絶望しそうな人にも、即効性はないかもしれませんが、気持ちが少し明るくなるように思いました。
さらに、自分が年齢が高くなり、もう現代の様々な作品については理解できなくなってきた、と感じている方にも、おすすめしたいと思っています。
(こちら↓は、電子書籍版です)。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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