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【短編集】 誰でもない誰かの話

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音楽に乗せて読み進める暗がりに転がった 小さなストーリーを書いています。 少し未来が見える話たち
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#これからの家族のかたち

【短編】1個だけなら持ってけるよ

【短編】1個だけなら持ってけるよ

もし、無人島に何か1個だけ持って行けるなら何を持って行きますか?

良くある質問。

そうだな。




え?

なんも思いつかないんだけど。

制限時間とかあるの?
ないか。

そうか………
………。

あ、兄貴だったら…アイツは1個だけならって言われて
わかりました!新生活セットを持っていきます!
とか、絶対言うわ。

いや、それ、1個じゃなくて一式だからな!
ってそばで俺、説教しちゃう

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【短編】とびこめよ、世界の果てに。

【短編】とびこめよ、世界の果てに。

飛べる。どこまでだって。
行ける。もっと遠くに。

そんなことを思って、電車を乗り継いで、誰のことも知らない街に来て。

橋から川に飛び込んだ。

思春期のどうしようもないメンヘラな感じ。
僕って何?僕なんかいなくたって良いよね?どうして生まれたの?僕は僕じゃなきゃ良かった。違う人になりたい。違う誰かになれたら良いのに。

乗り継いで来たのは結局、2つ隣の街だったし。
助けてくれたのは、親戚の叔父

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【短編】浮かべた空は何よりも 約9000字

【短編】浮かべた空は何よりも 約9000字

世界は驚くほどに穏やかだ。

今日がどんな日であれ、それはきっと変わらない。

抜けるくらいの青空には雲がなかった。
青の濃いとこ薄いとこ。それしか目に映らなかった。
もしできるなら、僕を一緒に吸い込んで欲しいと思う。

庭の木も、芝生も、太陽の光によく映えて萌黄色の鮮やかなこと。

空気は暖かくて、ただじっとベンチに座っていた。

僕の反対側のベンチの横には、アジサイが咲き始めている。

「もう

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【短編】梨花さんと僕

【短編】梨花さんと僕

「家にまっすぐ帰りたくないの。
休みの日に夫と出かけるのも嫌。
深夜帰って夫が起きてると、なんで?って思うの。
ゾッとしたのは、パスタ。
わざわざ作って置いてあったの。
もう、うんざりよ。
深夜に帰ってパスタ一人前食べると思う?」

ファミレスに僕を呼び出して、梨花さんが言った。
僕は夜9時前にはお風呂に入って、10時からはドラマを見ながらウトウトして、半分くらいでもう寝よって、眠りに就くのが至福

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