第20回 『沖で待つ』 絲山秋子著
こんばんは、JUNBUN太郎です!
今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
ラジオネーム、ボッチチェリさん。
JUNBUN太郎さん、こんばんは。
わたしは社会人3年目の営業職女子です。
うちの会社は中堅の文具メーカーなのですが、ちょうど就活してた頃、不況だったようで、わたしの代に採用されたのがわたし一人だったんです。先輩の代にも、後輩の代にも、男女混合で数人はいるのに、わたしにだけ同期社員がいない。
同期がいれば、仕事の愚痴もこぼせるし、なんだったら恋愛に発展したりなんかして、そのまま結婚するってことだってあるかもしれない。その可能性がまさかのゼロ。
もうなんだかなーと学生時代からの仲でフリーターやっている女友達と飲んだ時にぼやいたら、後日、本を貸してくれました。
『沖で待つ』という小説です。
どんな素敵な同期と巡り会っちゃうんだろう、わたし?!──そう期待して読み始めると、冒頭の3ページ、太っちゃんと呼ばれる男性が、主人公である私の前に情けない顔をして突っ立っている。なんだかオカシイぞと思いつつ読んでいけば、太っちゃんはなんと3ヶ月前に死んでいる! えっ、幽霊なの? 私の同期、大丈夫か? って不安になりながら、おそるおそる読み進めていきました。
すると──。
同期入社の男女の間に結ばれた絆を描いた友情小説『沖で待つ』をまだ読んでないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!
なるほど、同期って、男女の友情が成立する世界でもあるんだなーって思いました。
夜遅くまで残業してるとさりげなく待っていてくれる存在。他愛もないことを飲み屋でくっちゃべっていられる存在。仕事でしでかしたミスを全力で助けてくれる存在──。学生時代までの、好きな人とだけ仲良くするっていう交友関係と違って、人事が勝手に選んで引き合わされてるわけだから、ある種ドライで、さっぱりとした関係。でも、仕事っていう共通の揺るぎない土台があるから、同じ方向に熱くなれる。そういうのって、友達とも、恋人とも、家族とも似ているようで違う。唯一無二の存在なんだなって。
以来、わたしの中には、というか傍には、太っちゃんがいるんです。見積書の記入ミスとか、得意先とのアポをすっぽかすとか、仕事で失敗すると、何をしてくれるわけでもないけれど見守ってくれる、寄り添ってくれる存在を感じるようになりました。そうなると、以前よりも仕事のことでくよくよ悩んだり、落ち込んだりすることがなくなりました。周りの同僚にも、なんか前よりも仕事前向きだねって褒められたりなんかして。
本を貸してくれた女友達の傍にも、太っちゃんがいるみたいなんです。だから最近では、仕事上がりに落ち合って、二人で酒のつまみに、今日の太っちゃんはこうだった、ああだったって、太っちゃんトークをよなよな馬鹿笑いしながら繰り広げていて。これって太っちゃんが幽霊だからできることなんだなって、最後に二人で手を合わせたりなんかして。
あんな形で死んでしまって太っちゃんは無念だろうなと思います。でもわたしにとっては幽霊でも構いません。それはなぜかというと、同期であることの一番の存在価値って、現在とか未来とかではなく、過去の原点を一緒に共有していることにあると思うから。
3年前の春、入社式に一人で臨んだ時の、不安とか希望とか憂鬱とか焦燥とか、そういう全てをいま分かち合っているって思える太っちゃんという同期に出会えて、わたしは本当によかったです。
読書deコスプレ最高! でもやっぱりリアルな同期も欲しい!!笑
ボッチチェリさん、どうもありがとう!!
本って、現実ではどうしても手に入れられないものを手に入れることができる、そんな場所でもありますよね。
ぼくも本で手に入れた宝物がたーっくさんあります。
小説の世界では、太っちゃんの他にも色んな同期のひとたちが暮らしているから、よかったら「同期読書」続けてみてくださいね。いつかリアルになっちゃうかもしれませんよ?!
また来週!