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源氏物語 宴の夜に始まる幻想的な恋
源氏物語を原文で読んでみよう、ということで今回は第8帖花宴です。
この章は名前の通り、春に桜の花の宴が催されるところから始まります。
そして宴が終わった夜に、光源氏の新たな恋が始まります。
朧月夜との出会いの場面です。
いと若うをかしげなる声の、なべての人とは聞こえぬ、「朧月夜に似るものぞなき」とうち誦じて、こなたざまには来るものか。
いとうれしくて、ふと袖をとらへたまふ。
(略)
あさましきにあきれたるさま、いとなつかしうをかしげなり。
わななくわななく、「ここに、人」とのたまへど、「まろは、皆人にゆるされたれば、召し寄せたりとも、なんでふことかあらん。ただ忍びてこそ」とのたまふ声に、この君なりけりと聞き定めて、いささか慰めけり。
じつに若く美しい感じの声で、しかも並の身分とは思えぬ女が、「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさんで、こちらに近づいてくるではないか。
(光源氏は)じつにうれしくなって、ついと袖をおとらえになる。
(略)
あまりのことに呆然としているさまが、ほんとに人なつこくいかにもかわいい感じである。
わなわなふるえながら、「ここに、人が」とおっしゃるけれども、「わたしは、誰もとやかく言う人はいないのですから、人をお呼びになっても、なんにもなりませんよ。そっと静かにしていらっしゃい」と仰せになる声に、源氏の君だったのか、と分かって女は少し気持が静まるのだった。
この場面の「朧月夜に似るものぞなき」から、女性は朧月夜と呼ばれるようです。
きれいな名前ですね。
意外だなと思ったのが、いちばん初めに女性の方から近づいているし、
「この君なりけりと聞き定めて、いささか慰めけり」
光源氏ならいいか...
と乗り気になっているように見えること。
後々、明かされることですが、朧月夜は東宮(次の天皇)の妃になることが決まっています。
でも、光源氏を好きになったら素直になびいてしまう人なんだろうなと思います。
光源氏も光源氏で、
「まろは、皆人に許されたれば」
自分は何をやっても許される
と、かなり強気に見えます。
素直に心を許してくれそうな朧月夜に対して自信たっぷり、という印象です。
若い女性を見つけたとたんに、宴の後のほろ酔いに任せて、よろこんで近づこうとする光源氏。
嫌な奴だなぁ。
若気の至り。
この後、2人は扇だけを逢瀬の証に取り換えて別れます。
大河ドラマ『光る君へ』でも道長からまひろへ、2人が初めて出会った場面を描いた扇を贈る場面がありました。
当時は、扇を贈ることも大事なコミュニケーションだったのかもしれません。
詳しくは知らないけど。
そして、今度は宮中で藤の花の宴が催されます。
こっそりと席を立った光源氏は朧月夜と再会し、歌を詠み交わします。
ただそれなり。
いとうれしきものから。
(訳)
紛れもなくあの夜の女君の声である。
じつにうれしく思うものの......。
光源氏は、うれしく思ってどうなったの?
というところで花宴は終わります。
余韻をもたせて終わるのが幻想的です。
2人がこの章で会うのは、2回とも宴の後。
非日常の中でなおさらロマンチックな気分になっていそうです。
はじめて会ったときに
「をかしげなる声」
に惹かれて、再会したときも声を聞いてすぐに朧月夜だと分かった様子。
きっと声がきれいな人なのかな、って想像しました。
ここまで読んだ印象だと、かわいらしくふわふわしたイメージの女性です。
この秘密の恋がばれないはずもなく...。
もちろん、光源氏は後々痛い目に遭うのですが
それはまた今度。
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これからも少しずつ読み進めていきます。
今までの源氏物語の記事はこちら↓
また次の記事でお会いできますように♪