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人の視線は道徳的な行動を促進する

周りからの目線によって見られている人物の行動が変わるという趣旨の論文があったのでメモ(1)。

私たちは周りからの目が存在している場所では周りに得がある行動(協調的な行動)を取るようになることが知られています。具体的には以下のようなことが分かっています。

・周りからの目があるとお金の分配をする際に周りからの目がない場合に比べて約2倍の金額を相手に渡す(2
・目線を感じると嘘をつく回数が減る(3
・周りからの目線を感じると,寄付する金額が増える(4

このように周りからの目線は自分自身に対する意識を促進させ,道徳的で社会的に望ましい行動を取るようにさせる効果があると言われています(5)。

しかし,今までの他者の目線が協調的な行動を促進することを示した研究が実験室で任意に設定された空間で行われたものでした。今回紹介する論文は実際の日常的な場面で周りからの目線が他者と協調的な行動を引き起こすのかを調べています。

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2006年にニューキャッスル大学のメリッサ・ベイストンらが日常的な場面でも周りからの目線は道徳的な行動を促進するのかについて調べるために実験を行いました。

実験の対象になったのは,実験期間中(10週間)に大学の一角に設けられたコーヒーなどを飲める場所を利用した大学生でした。この飲み物が飲める制度はお金を払ってもよいですし,無料で利用してもよいことになっていました。

実験期間中にはお茶やコーヒーの値段表の上に2つのパターンの壁紙を設けました。2つのパターンは以下のようになっています。

<パターン1>
人間の目

<パターン2>
植物

これら2つのパターンを1週間ごとに切り替え,それぞれの実験期間中に利用者の支払った金額を比較しました。

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実験の結果,人の目の壁紙に貼られていた場合には植物の壁紙が張られていた場合と比較して支払った金額が約3倍になった。

つまり日常的な場面でも人は目線を感じることで社会的に望まれる行動を取る傾向があることが示されました。

この他にも日常的な場面で周りから観察されている環境では道徳的に良い行動を促進した以下のような例が報告されています。

・人間の目の壁紙を貼ると食べ終わったトレイを片付ける割合が増える(6
・寄付額が人間の目の壁紙が貼られていると約1.5倍になる(78

私たちは顔や目に特化して発火する神経細胞を持っており(9),周りからの目線によって取る行動は無意識に,そして自動的に引き起こされている可能性があります。

なぜ周りからの目線に対して無意識・自動的に反応するのかの説明としては他者と協調的な行動を素早くとるために備わっている機能なのではないかと考えられています(10)。

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(1)Bateson, M., Nettle, D., & Roberts, G. (2006). Cues of being watched enhance cooperation in a real-world setting. Biology letters, 2(3), 412-414.

(2)Haley, K. J., & Fessler, D. M. (2005). Nobody's watching?: Subtle cues affect generosity in an anonymous economic game. Evolution and Human behavior, 26(3), 245-256.

(3)Hietanen, J. O., Syrjämäki, A. H., Zilliacus, P. K., & Hietanen, J. K. (2018). Eye contact reduces lying. Consciousness and cognition, 66, 65–73. 

(4)Nettle, D., Nott, K., & Bateson, M. (2012). ‘Cycle thieves, we are watching you’: impact of a simple signage intervention against bicycle theft. PloS ONE, 7.

(5)Pfattheicher, S., & Keller, J. (2015). The watching eyes phenomenon: The role of a sense of being seen and public selfawareness. European Journal of Social Psychology, 45(5), 560–566.

(6)ErnestJones, M., Nettle, D., & Bateson, M. (2011). Effects of eye images on everyday cooperative behavior: a field experiment. Evolution and Human Behavior, 32(3), 172-178.

(7)Powell, K. L., Roberts, G., & Nettle, D. (2012). Eye images increase charitable donations: Evidence from an opportunistic field experiment in a supermarket. Ethology, 118(11), 1096-1101.

(8)Ekström, M. (2012). Do watching eyes affect charitable giving? Evidence from a field experiment. Experimental Economics, 15(3), 530-546.

(9)Emery, N. J. 2000 The eyes have it: the neuroethology, function and evolution of social gaze. Neurosci. Biobehav. Rev. 24, 581–604.

(10)Burnham, T. & Johnson, D. D. P. 2005 The evolutionary and biological logic of human cooperation. Analyse Kritik 27, 113–135.

■Tapスマホで買ってしまう9つの理由/アニンディヤ・ゴーシュ (著), 加藤 万里子 (翻訳)

■影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか/ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 (翻訳)

■情報発信者(メッセンジャー)の武器:なぜ、人は引き寄せられるのか/S・マーティン (著), J・マークス (著), 安藤 清志 (翻訳), 曽根 寛樹 (翻訳)

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