マガジンのカバー画像

フィクションとか

5
特にお題が無かったりあったりするフィクション置き場。
運営しているクリエイター

記事一覧

酔と夢

酔と夢

安い焼酎を呷れば咽とはらわたがじわりと灼けた。黒い血や重たいものが有耶無耶になって、それからずしりとまた胎に溜った。健康と正常を刮げていくわるいくすりは、健康と引き換えに異常を掻き消す、然れど善いものであるとおれは思った。人生は地獄である、然して恋は地獄である。生きていくのは罪悪である。おれは罪悪のなかで筆を執る、生きるためには金が要る。しあわせな文学なんてないと思った。不幸のなかにこそそれがある

もっとみる
ざざ、みなも

ざざ、みなも

なぎの夜、川面は淡々と時を流れていた、向こうにみえる、ゆら、揺らぐのは水の性か、あるいは、泪の所為か。うつくしいものばかりが透ける、半透明なのは記憶、思い出になるにはまだあざやかすぎるものたち。枯れ往く花に、あの窓際の花に、よく似ていると思いました。うつくしいものの消費期限はきまって厭にみじかい。儚いから美しいのなら、みらいや、遺ったり遺してきたものは、執着や嫉みだとか、いたみだとか、そういったあ

もっとみる
とろ

とろ

にがてなの、と零すから、そうなのだろう、と思った。半額のパック寿司の赤と白とが入れ替わった。それは生臭くて、血のかよっていたことを思い出す。言葉を吐いて命を呑み込む。ぼくたちはそうやって生を続けてきた。向き合う程に分からなくなった。言葉のない時間が少しずつ増える、それが幸福というものなのか、大人になるということなのか。飲み込むばかりが増えていって、醜いところばかりが肥っていく。好しとするものは増え

もっとみる

才能と創

「ものを作り出すことが才能であるとしたら、ぼくはとうにその資格を喪っていると思う」のだと、手遊びに角砂糖を転がしながら彼は言った。闇いろのコーヒーが甘く濁りながら温度を無くしていく。声色は、酷く退屈そうだった。乱雑に伸ばした前髪が遮って、表情ばかり伺えなかった。何も言えないのをいいことに、こう続く。「違うね、最初から、持ち合わせてすらいなかったんだよ。」何も言えないのは無責任だと思った。それでも、

もっとみる
彗星の夜明けに墓標を

彗星の夜明けに墓標を

音楽も文学も、救いでこそあれど味方ではなかった。

午前4時、空が徐々に白んでゆく。それを、黙って見ていた。夜が明ける。最後の夜が明ける。振り返ると柔く東雲の風が撫ぜて、藤色の長い髪をゆら、と揺らした。心臓が頼りなく脈を打つ。表情の見えない顔は、伺っても覗かなかった。何も言わないで、何も聞きたくないから、それも多分お互い様だ。BPM80。確かないのちだった。歌詞をつけるなら何が似合うだろう、とぼん

もっとみる