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とろ

にがてなの、と零すから、そうなのだろう、と思った。半額のパック寿司の赤と白とが入れ替わった。それは生臭くて、血のかよっていたことを思い出す。言葉を吐いて命を呑み込む。ぼくたちはそうやって生を続けてきた。向き合う程に分からなくなった。言葉のない時間が少しずつ増える、それが幸福というものなのか、大人になるということなのか。飲み込むばかりが増えていって、醜いところばかりが肥っていく。好しとするものは増えないのに、どちらでもないが増えて、苦手なものも増えた。世界はどんどんちいさくなっていく。憧れは案外味のしないものだ。憧れは存外、美味しくない。熱いお茶で流し込んで、美味しいものだと、幸福なのだと自分を諭す。ごちそうさまと席を立てば、もう何も残っていない。にがてなの。同じものを食べても、その腹の内は幾分も分からない。ぼくだって歳を重ねるごとに、苦手になっていく。甘ったるいクリーム、焼けるほどのあぶら、嬲るような辛さも。わかるよ、のひと言だって難しい。そうね、にがてなの、吐露は苦手だ。言葉は不味い。感情は生臭い。吐露することが苦手になって、胎を腐らせて、苦しくて吐きそうで、それをどうにか飲み下して、繰り返して、そうしてぼくたちはおとなになっていく。

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