琉姫は自分を愛してくれるファンと対面し、「受け入れがたいもう1つの自分」を受容し始める|『こみっくがーるず』(15)
本記事は、アニメ「こみっくがーるず」を徹底分析する特集の……第15回である★
第1回からご覧になることをオススメします!
今回のテーマは……!
そして今回は……琉姫!
かおすらと共に「女子まんが家寮」に住み、マンガ家として活動する彼女の人となりに迫ってみたい。
※左:見た目からして大人っぽい琉姫。かおすと並ぶと保護者にしか見えない。
「こみっくがーるず」において、琉姫はどのように描かれているか?
「『こみっくがーるず』において、琉姫はどのように描かれているか?」と問われれば、私は以下のように回答したい。
ここからは、これらについて詳しく見ていこう。
【Point 1】真面目で現実的で頑張り屋
何よりもまず……琉姫は真面目で、現実的で、そして頑張り屋である!
該当するエピソードは無数にあるが、いくつか象徴的なものをご紹介しよう。
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例えば……マンガの締め切りが迫り徹夜が続こうとも、琉姫は決して学校を休まない。そして、しっかりと授業を受ける(対照的に、翼は授業中いつも眠っている)。
また、成績は優秀で、テスト前はかおすらに勉強を教えてやる。
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あるいは、小夢と恋愛トークをする中でこんなことを言っている(第5話)。
琉姫「もし彼氏できても、徹夜明けのボロボロの姿でデートとかできないわ。1週間前からコンディションは整えたい」
小夢「乙女ー!」
琉姫「でも、そうなったら原稿できなくなっちゃうし、睡眠時間削って半身浴とかでコンディション整えるだろうし……そうなったら授業中ふらふらだろうし……死んじゃう……」
琉姫の真面目……というか「真面目すぎる」ところが伝わってくるエピソードだ。
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続いて、「進路希望調査票」に関するエピソードを見てみよう(第11話)。
琉姫は高校で配布された調査票を取り出して、かおすらに問う「ねぇ、みんな。書いたこれ?」
小夢が即答「マンガ家だよー」
翼「当たり前じゃん」
かおす「……」
琉姫「さてはちゃんと読んでないわね。第2希望まで書くことになってたじゃない」
たったこれだけの会話から、
……という4人の性格が読み取れる大変面白いシーンである。
さらに、このあとのやりとりも見てみよう。
小夢「琉姫ちゃんは何て書いたの?」
琉姫「私?第2希望は保育士よ」
琉姫「人手不足で需要あるし、資格を取ればいろんな就職先があるからね。それに子ども好きだしね。マンガ家で一生食べていけるかなんてわからないし、資格は取っておこうと思ってるわ」
琉姫の現実的な……というか、高1にしては「手堅すぎる」とも言える人となりがおわかりいただけたかと思う。
【Point 2】面倒見がよく、頼られることに喜びを感じる
上述の「Point 1:真面目で現実的で頑張り屋」とも関連するが……琉姫は面倒見がよく、頼られることに喜びを感じるタイプのキャラだ。
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彼女の「面倒見のよさ」を伝えるエピソードは少なくない。
例えば、寝坊助の小夢を起こしてやったり、かおすの髪を結ってやったりするシーンが多数見られる。
また、琉姫と翼は小学生以来の付き合いのようだが、幼い頃から彼女は翼に世話を焼いてきたようだ。
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続いて「頼られることに喜びを感じるタイプ」だが……こちらは第2話に象徴的なエピソードがある。
「女子まんが家寮」に入り、東京の高校に転入したかおす。
かおすはクラスメイトに馴染めず、辛そうに言う「知らない人……怖いです……」
琉姫は心配して「先生に頼んで席近くにしてもらう?」
かおすは心から嬉しそうに微笑む「琉姫さん……ありがとうございます。そう言っていただけるのすごく嬉しいです……」
琉姫の顔が上気する
かおす「お気持ちは嬉しいのですが……迷惑なのでは?」
琉姫「そんな!迷惑だなんて!もっと!もっと私を求めてー!」
【Point 3】かわいいものが好き
琉姫はかわいいものが好きだ。
詳細は後述するが……そもそも、彼女は絵本作家を志望していた(第1話)。
琉姫「本当は、ほのぼのとした動物さんのマンガ描きたかった……」
また、彼女のベッドカバーやイスは、ファンシーなピンク色で統一されている。
あるいは、ウサギのぬいぐるみがお気に入りで、いつも抱いて寝ているというエピソードもある。
※ウサギのぬいぐるみを抱く琉姫。
さらに、かおすがランドセルを背負ったり、小学生にしか見えぬワンピース水着を着たりした時には興奮気味に写真を撮っているが、これも「かわいいものが好きだから」だろう(小夢のような「百合的嗜好」を示すエピソードは見当たらない)。
※かおすを抱きしめる琉姫。
【Point 4】恋に恋している
琉姫は恋に恋している。
象徴的なのが、第10話の以下のエピソードだ。
クリスマスが近づき、琉姫は当てもなく「女子まんが家寮」の前をウロウロするようになる。
翼「寮の前でウロウロしてたって、クリスマスを一緒にすごしたい王子様は現れないからね」
琉姫が叫ぶ「やめてー!別に彼氏ほしいとかじゃなくて……ただやっぱり、この時期意識しちゃうっていうか……」
そんな琉姫に対して、小夢が共感を示す「私は琉姫ちゃんの気持ちわかるよ。クリスマスって恋愛マンガじゃ定番だし、特集とかもあるし、やっぱりクリスマスデートって憧れちゃうよねぇ!」
考えてみれば、琉姫ら4人は高1(15~16歳)女子なのだ。
恋愛に関心があっても何ら不思議ではない。
むしろ、「恋愛なんて一切眼中にない!」といった様子のかおすや翼の方が変わり者と言えそうだ(かおすはオッサンオタクだし、翼はマンガに命を懸けているので、恋愛なんてつゆほども興味がないのだろう)。
【Point 5】TLマンガ家としての才能がある
琉姫はTL(ティーンズ・ラブ)マンガ家である。
上述の通り、彼女は元々絵本作家を志していた。
しかし中学生の頃、出版社に作品を持ち込むと……(第1話)。
琉姫の作品を読んだ編集者A「絵柄が大人っぽいから別の雑誌紹介するね」
琉姫の作品を読んだ編集者B「天才的に色気があるわ。特に巨乳が巧いわね!巨乳主人公で連載狙おう!」
琉姫「えっ!」
海千山千の編集者をして「天才」と言わしめる画力の持ち主なのだ。
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こうして、琉姫はTLマンガ家の道を歩み始める。
琉姫「私も最初は悩んだけど……でも応援してくれるファンがたくさんいると知って……今はやり甲斐を感じてるわ」
琉姫は早々に連載を獲得し、高校1年生にして単行本第1巻を刊行するのだが……これが大人気!
熱狂的なファンを獲得している。
【Point 6】意図せずして、エッチな妄想を広げるクセがある/意図せずして色っぽい
これも「TLマンガ家としての才能」と言えるかもしれないが……琉姫には、意図せずしてエッチな妄想を広げるクセがある(そしてすぐに我に返り、「私は一体何を考えてるの!」と赤面するのがお約束)。
さらに……これまた意図せずして、言動の端々に色っぽさが漂ってしまうのも琉姫の特徴だ。
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まず、「意図せずして、エッチな妄想を広げるクセがある」の方だが……例えばこんなシーンがある(第1話)。
琉姫が、初めてかおすを見たときのことだ。
琉姫のモノローグ「ちっちゃくてかわいい!……着ぐるみとか似合いそう」
琉姫は妄想を膨らませる。
妄想の中では……うさぎの着ぐるみを着たかおすが、森の中で楽しそうに遊んでいる。
琉姫のモノローグ「森に暮らすうさぎさん!今日は森のみんなでお茶会なの。……しかし、それは狼の罠」
妄想の中で……狼に押し倒されるかおす!そんなかおすの首から下にはモザイクがかかっている。
要するに琉姫は、うさぎに扮したかおすが狼にレイプされるシーンを妄想しているのだ。
琉姫が叫ぶ「そっちに行くな!私のバカァー!!」
※赤面する琉姫。
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あるいは、小夢と共に洋服を買いに行ったときのこと(第5話)。
小夢がセーラー服風のワンピースを試着する。
小夢「琉姫ちゃんもお揃いで買おうよ!」
琉姫「私はこういうの似合わないから……」
小夢「えー!」
琉姫が不意に頬を染めて呟く「でも……制服風の服って脱がせるときワクワクするわよね……」
そばにいた店員が驚いて「お客様!?」
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続いて、「意図せずして色っぽい」に該当するエピソードをご紹介しよう。
琉姫は学校では、自身がTLマンガ家であることを隠している。
しかし、あふれ出る色気はいかんともしがたいようで……(第2話)。
琉姫を見かけた同級生が囁く「あっ!1組の琉姫さんだ!」
同級生「あの人、きれいだけど近寄りがたいよね。放課後忙しそうだし、いつも寝不足っぽいし」
同級生「なんかいやらしいバイトしてるって噂が……」
同級生「あー!そういうオーラ出てるもんねぇ!」
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そんな琉姫の色気は、特に締め切り前の寝不足時にピークに達するようで……(第4話)。
英語の授業で英文を読んだり、体育の授業でマラソンしているだけなのだが……そのあまりにも色っぽい言動に、クラスメイトからは悲鳴が上がり、かおすは「あばばば」と大興奮!
教師も動揺し、上ずった声で「風紀を乱すな!」
琉姫「そっ、そんなつもりは……」
【考察】琉姫の中には「2つの自分」がいて、彼女は葛藤を抱えている
以上、琉姫というキャラの6つの特徴をご紹介してきた。
……で、だ。
ここからが肝心なのだが、この6つの要素は大きく2つに分けることができるだろう。
すなわち、【1~4】の「真面目で頑張り屋!かわいいものが好きで、恋に恋する高1女子・琉姫」と、【5~6】の「TLマンガ家として多くのファンを熱狂させるアダルトな琉姫」だ。
※以降、前者を「高1琉姫」、後者を「アダルト琉姫」と呼ぶことにしよう。
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つまり……琉姫の中には「高1琉姫」と「アダルト琉姫」という2つの「琉姫」が存在しているのだ。
そして、真面目で常識的な「高1琉姫」からすれば、「アダルト琉姫」は受け入れがたいものがある。
とはいえ、現実として彼女はスケベで色っぽい。さらに、TLマンガ家として多くのファンを抱えている。
……ここに彼女の葛藤があるのだ!
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すでにご紹介した通り……TLマンガを描くことについて、琉姫は以下のように話している。
琉姫「私も最初は悩んだけど……でも応援してくれるファンがたくさんいると知って……今はやり甲斐を感じてるわ」
これは第1話のエピソードだ。
アニメ制作者が視聴者に対して、「琉姫というのはこんなキャラです」と紹介する場面である。
要するに琉姫は、私たち視聴者の前に「かつて葛藤を抱えていたものの、いまはそれを乗り越えたキャラ」として登場するのだ。
……が!
これは真実でない。
第1話時点の琉姫は、まだまだ葛藤を抱えたままなのだ。
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彼女が葛藤を乗り越えるのは、第4話である。
第4話。
琉姫の単行本第1巻が刊行され、それを記念してサイン会が開催されることになる。
しかし、葛藤を抱えた琉姫は、ファンの前に出たくないと嘆く。
彼女は「高1琉姫」と「アダルト琉姫」という2つの自分の間で悩み、苦しみながら、サイン会当日を迎える。
そして初めてファンと対面し……琉姫は、自分のマンガ(すなわち「アダルト琉姫」)が多くのファンから愛されていることを実感する。
そして思わず涙を流す。
※サイン会の琉姫。寮母の力を借りて、いつになく大人っぽい(=「アダルト琉姫」っぽい)格好をしている。
※サイン会には、たくさんの熱狂的なファンが押しかけた。
サイン会の休憩時間、琉姫はかおすらに向かって言う。
琉姫「マンガ……描いててよかった。熱出て寝込んだ日も、実家のわんこ死んじゃった日も泣きながらエッチなマンガを描いて……。私、ずっと間違った道を歩んでるって思ってた。なりたかったマンガ家と全然違うって。……でも、なんか吹っ切れた。私、もう自分のマンガを恥ずかしいと思わないことにする!」
これぞ、「高1琉姫」が「アダルト琉姫」を認めた瞬間である!
この時、琉姫は初めて自分を丸ごと受け入れることができたのだ。
無論、「葛藤」とはそう易々と乗り越えられるものではない。
ここに至っても、まだ「高1琉姫」が「アダルト琉姫」を完全に受け入れられたとは考えづらい。
しかし、少なくとも「葛藤を乗り越え始めた」とは言えるだろう。
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以前の記事で、「『こみっくがーるず』は少女たちの成長譚である」と申し上げた。
主役・かおすのみならず、小夢、翼、そして琉姫も、それぞれ作中で成長を遂げていることがおわかりいただけたと思う。
補足
補足①
琉姫を見ていて、私はとあるアニメのキャラによく似ていると感じた。
すなわち、「中二病でも恋がしたい!」の丹生谷森夏(モリサマー)である。
「真面目で、優秀で、頑張り屋。……しかし、じつはもう1つの自分を持っており、両者の葛藤に悩んでいる」という点で、琉姫と森夏はよく似ていると思うのだ。
補足②
サイン会当日、琉姫が鏡の前で髪型に悩むシーンがあるのだが……これがとんでもなく素晴らしい演出・作画である!
これから視聴される方にはぜひご注目いただきたい!
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アニメ「こみっくがーるず」の研究(全15回)はこれで終了です。ありがとうございました!
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関連
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(担当:三葉)