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百卑呂シの『なんのはなしですか』

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なんのはなしです課長コニシ木の子氏に回収された文章。
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#ふるさとを語ろう

最後のこと

最後のこと

 昨日から帰省している。いつもnoteに書くので昔の記憶を掘り返しているけれど、実際に帰って来るとやっぱり違った心持ちになる。

 町の外れに水源池があって、ブルーギルがいたので、よく釣りに行った。見たことはないが、ブラックバスもいたんじゃないかと思う。
 小学校の遠足でも一度行った。昼食後、トンビが弱った魚を捕らえに降りて来たのを見て、随分大きなものだと感心した。あんなに大きいのでは、小林の年端

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百洋

百洋

 中学生の時、何年生の時だったかもう忘れたけれど、二年か三年だったろうと思う。理科室の掃除をしていたら、靴裏の異物感に気が付いた。どうも何かが貼り付いたような感じである。
 きっとテープの塊でも踏んだのだろう。取ろうとして靴裏に手をやると、何だか丸いものに触った感触と、一瞬遅れて痺れるような痛みが走った。
「痛っ!」
 慌てて離したら、果たして触った所から血が溢れ始めている。靴裏にはガラスの破片が

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浮遊する

浮遊する

 横浜の南の方に住んでいた頃は、休みの前日に仕事を終えると、よくそのまま一人でドライブに行った。まだ車の運転自体が楽しかったから、行先も決めず適当に走って、大体いつも鎌倉か横須賀の辺りで一休みして帰っていた。
 だから鎌倉も横須賀も随分行ったけれど、着く時間が早すぎて、観光などは全くしていない。何だか勿体ない事をしたように思う。

 ある時、行き着く所まで行ってみようと延々走ったら、とうとう漁港に

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カブトムシ

カブトムシ

 独身の頃、住んでいたアパートの玄関前にカブトムシがいた。
 もうカブトムシで喜ぶ年ではないし、あんまり虫に触りたくもないのでそのまま放っておいたら、翌日もまだそこにいた。さらにその翌日もいた。
 死にかけているのではないか知らと思ったが、別段弱っているようでもない。普通にのそのそ動いている。きっと夜にはどこかへ行って、食事を済ませて戻って来るのだろうと得心した。
 一番奥の角部屋だったから、人に

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BMW

BMW

 小学生の時、隣に先生が住んでいたことがある。
 女性の先生で、石田ゆり子に似ていたように思うが、随分昔のことだからあんまり判然しない。担任ではなく、受け持ちの学年も違っていたから、関わることはなかった。ただ隣に住んでいただけである。
 隣は元々別の人の家で、暫く貸家にしていたらしい。先生は一年か二年ぐらいでよそへ引っ越したようだった。

 やっぱり近所に、高校の世界史の先生が住んでいた。この先生

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メロン

メロン

 娘を連れて帰省した際、山陽道のサービスエリアに立ち寄ったらアンデルセンの店があった。
 アンデルセンは広島の大きなパン屋で、子供の頃に何度か連れて行ってもらったことがある。クリームパンが大いに美味かったように思う。
 ちょうど昼時だったから、そこでパンを買うことにした。

「アンデルセンはね、クリームパンが美味しいのだよ」と娘に教えてやったけれど、娘はあんまり興味もない様子で、別のパンを指差す。

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鳥の声

鳥の声

 今の家に住み始めて十年ほどになる。
 最初は随分鳥の多い所だと感じた。雀のような小鳥ばかりでなく、白鷺も青鷺も雉もいる。
 それから、何だか知らないけれど鷺より少し小さめで嘴が黄色いやつもいる。この鳥を妻と娘はキイバシと呼んでいるから、てっきりそういう名前の鳥だと思っていたが、それは勝手に付けた名前で、本当はケリというのだと、先日たまたまテレビで知った。
 近頃はどうやらこのケリが近くの田圃に巣

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新宿に至る道

新宿に至る道

 小五の時に藤本の家で遊んでいたら、先方のお母さんがおやつにと、マクドナルドのポテトを買って来てくれた。
 ちょうど、マクドナルドが近くに初めてできた頃である。それまでは広島市内の中心部にしかなくて、自分らのような田舎の子供はあんまり目にする機会もなかった。
 藤本のお母さんは、その近くにできた店で買ったのだと云った。近くとは云っても隣町だったから、もうきっと冷めていたと思うのだけれど、この時は随

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蛇と魂

蛇と魂

 中学校三年生の時、先生に云われて校庭脇にあるバレーコートの草刈り・草むしりをやった。
 バレー部でもないのにどうしてそんなことをさせられたか、もう判然しないけれど、三年生全員がどこかの掃除を割り当てられて、たまたま自分がバレーコートのグループに入ったものだったろう。

 数人でだらだらやっていたら、一人が突然「おわ!」と大声をした。
「蛇じゃ!」
 見ると確かに蛇がいた。ちょうど草を刈ったところ

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祭りと逃走

祭りと逃走

 中三の秋、三年生と二年生の間でケンカがあった。放課後に学校裏の神社で決着を着けると聞いたから、古元と一緒に見物に行った。

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気持ちの悪い犬

気持ちの悪い犬

 子供の頃は犬が苦手だった。犬が来ると、噛まれるんじゃないかと思う。舐めてくるのも気持ちが悪い。走って逃げると追いかけて来るし、こちらよりもよほど速いからきっと追いつかれる。全体、何がしたいものだか、意味がわからない。
 小学校の三年生ぐらいまでは、そんな感じで苦手だったように思う。あるいは、自分の前世は犬に噛まれて死んだ人だったかも知れない。

 ある時、母とどこかへ出かけた。まだ妹がいなかった

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