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浮遊する

 横浜の南の方に住んでいた頃は、休みの前日に仕事を終えると、よくそのまま一人でドライブに行った。まだ車の運転自体が楽しかったから、行先も決めず適当に走って、大体いつも鎌倉か横須賀の辺りで一休みして帰っていた。
 だから鎌倉も横須賀も随分行ったけれど、着く時間が早すぎて、観光などは全くしていない。何だか勿体ない事をしたように思う。

 ある時、行き着く所まで行ってみようと延々走ったら、とうとう漁港に行き着いた。どうやら三浦半島の先っぽだったらしい。
 幼い頃に住んでいた町に似ているようで、初めて来たのに懐かしい心持ちがした。

 自分は二歳頃まで海辺の町に住んでいた。
 家はお好み焼き屋の二階だった。店の脇のドアを開けるとすぐ階段で、時折蟹が入り込んでもぞもぞしていた。
 隣家にタケシ君という、くりくり坊主の子が住んでいて、自分と同い年か一つ上ぐらいだったので、よく一緒に遊んだように思う。
 一度、遊んでいる間にブリキの電車の取り合いになった。最初はタケシ君に取られた。それからタケシ君が離している隙にこちらが取ったら、奪い返そうとして来た。それで電車で頭を叩いたら血が出た。くりくり坊主だから余計に血が出やすかったかも知れない。
 母が先方の親へ随分謝ったのに違いない。

 この家では他に、体がすぅっと浮いたことを覚えている。
 その時は床に座ってテレビを観ていた。そのまま放屁をしたらお尻がすぅっと浮き上がって、ストンと戻った。
 なるほど、座ったままおならをするとこうなるのかと納得したけれど、そんなことは後にも先にもこの時きりである。



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百裕(ひゃく・ひろし)
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