見出し画像

雨の日には冷えたスプーンを一発光少女に逢いたくて一

※お立ち寄り時間…5分

彼女とは、知り合ってかれこれ7年になる。

土地勘のない本社に配属され、懇親会の場所が分からず、あわあわしていたところ、一緒に行こうと声をかけてくれた。

可愛すぎる。

素直な第一印象はこれである。
我ながら、実に不毛だ。

7年前、バスの窓に映る彼女の横顔は
とびっきり可愛くて、発光していた。


最初は、推しを見つけた気持ちで
話すなんて恐れ多いとまで思っていた。
7年も仲良しでいることができるなんて
ゆめゆめ思ってもいなかった。

彼女との関係が大きく変わったのは
入社して2年ちょっとの時だった。


それは、それは、すっからかんの状態だった。
からっからに干上がっていた。
夜が長くなっていって、堪らず上司に数日の有給を申し出た。

薄暗い部屋で、ボーっとしていると、前触れもなく電話が鳴った。

「ちょっと、帰りに寄ってもいい?」 

彼女も、月80時間の残業をこなしており
ほとほとに疲れていたはずだった。

それなのに。

ちょっと話そうよ〜、と『いつも通り』訪ねてきてくれて、ずっと側に居てくれた。
そして、有給明けの出勤日、一緒に会社に行こうと、迎えにきてくれたのだった。

言葉が見つからないくらいに、救われた。
『いつも通り』に居てくれたことが。


彼女の帰宅後、嬉しいのに涙が止まらなかった。
あの日に、彼女の心根に惚れたのだと思う。
彼女の心の深淵には、綺麗な結晶が降っている。
そんな力が、彼女にはあった。

その彼女に会うことが、私の挑戦だった。

あの日みたいに
前触れもなく、電話がかかってきた。

「あら、電話出るの早いね」
「まだ、仕事?」
「うーん、今日はそろそろ帰るところ」
「稼ぐのう」

声のトーンが寂しかった。
仕事で嫌なことがあったのかな、と推測する。

「何かあった?」
「んー、あれ、携帯触れるようになったのね?」
「うん、少しだけYouTube見れた。」

その頃、妊娠、出産、育児で心がねじ切れてしまい、休息の薬を処方されていた。
彼女とは、実に数ヶ月ぶりの電話だった。

彼女は、弱音を滅多に吐かない。


そんな彼女の声がほんの少し、震えていた。
もしかしたら、気のせいだったかもしれない。

それでも。

今だと思った。
今しかない。

彼女に恩返しができるのは。
心の琴線が揺れた。

誰よりも頑張り屋さんで
自分のことは後回しで
どんなに辛くても
諦めずに歩いてゆく。

しなやかで
芯が通ってて
真っ直ぐで

それでいて

ちょっとだらしなくて
変なところ、抜けていて
ひっくるめて、全部大好きで。

彼女に会わなきゃ、
と脊髄が反応していた。


人に会うのも
情けない自分をさらけ出すのも
お風呂に入るのも
夜眠りにつくのも
家から出るのも
我が子に触れるのも
そして、生きているのも

全てが不安で、怖かった。

それでも、それでも。


居ても立っても居られなかった。
彼女の話を聴きたかった。
彼女とくだらない話をしたかった。
彼女の笑顔が見たかった。

だから
私は、彼女に逢いに行った。



「来月、いつ会う?」


『いつも通り』また、逢う約束をしていた。
なんと、彼女とは、約1年ぶりの再会だった。

楽しくて、涙が出て、たくさん笑った。
本当に久しぶりだった。

いつも通りの私に戻れたことが。

恩返しをしようとしていたのに
また彼女から
命の洗濯をしてもらっていた。

どんな自分でも、『いつも通り』に会ってくれる
彼女が側にいる尊さに。

彼女に会えたことで、着実に自分が前に進んでいる、という自信に。

彼女に会う『挑戦』に踏み出したことで、気づき、感じることができた。

私を突き動かしたのは、彼女に「ありがとう」が言いたいという感情だった。


もし、彼女が
打ちひしがれて
ボロボロになって
仮に人の道を踏み外したとしても

ずっと彼女の側に居続けるつもりだ。 

嫌いと言われても
憎らしいと言われても
私は、彼女をずっと推し続ける。
命を2度も繋いでくれた彼女を。

彼女は、今でもあの日以上に、発光し続けている。

だって彼女は、大切な友人であり、永遠の推しなのだから。



追伸 弱音、いつでも待ってるよ。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集