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炬燵の上のミカン
炬燵の上には27インチのiMacがデンと乗っているのだが……もう一つ、この時期に必要なモノをつい忘れていた。
そう。炬燵の上には……なんと言っても「ミカン」が乗っていなくては様にならないだろう。
……だと言うのに、うっかり、今に至るまで「ミカン」のことをすっかり忘れていたのだ。
家族でもいるのなら、誰かが「ミカン、ミカン!」と言ってくれるのだろうが、独り身だと、知らず忘れっ放しという事態にも陥ってしまうらしい。
だからと言って、「ミカン」が嫌いなわけではなく、柑橘類の中では一番の好物なのだ。
実際、自分では「甘夏」も「オレンジ」も「グレープフルーツ」も買ったことはない。
そう。「ミカン」の持っている庶民的な、ジャンク的な風味をこそ愛するのだ。
夏場にはキンキンに冷やした「ミカン」の缶詰めの……あの、安っぽい甘酸っぱさは、酷暑を乗り切る相棒と言える。
冬場はもちろん、生のありきたりの「ミカン」に限る。大きさも、あまり大きくなく、皮がユルっと剥ける感じのがいい。
今では剥いた後、筋を少し取ってから薄皮のまま頬張るのだが……子供の頃は、確か薄皮を剥いていたと思う。たぶん、お袋のお節介だったのだろう。
そう言えば、火鉢が日常であった昔日のことだが……「ミカン」の黒焼というのも懐かしい。確か、火鉢の熱い灰の中に埋めて、黒く焼き上げるのだが……糖度が増す上に、民間薬として風邪にも効果があると聞かされたはず。
とにかく、黒焼にした「ミカン」をティーカップなどに入れ、そこに熱湯をそそいで、スプーンで潰す。さらに、砂糖も加えたと思う。
薬効の程はどうか知らないが、こ洒落たお菓子なんぞより、僕には俄然マッチした心地よい庶民の味であった。
オーブントースターでも作れるのかどうか疑問だが、やはり風情に欠ける。
なんだか、今思い出してみると……ガキの頃、「ミカン」はやたら大量にストックしてあったような気がする。箱詰めだったのかも知れない。底の方のミカンに、少しカビが生えていたのも覚えている。
食べ過ぎなのか……爪が黄色くなった記憶もあるのだが……
僕はついつい、食い物と人生に起こった出来事を結びつけるクセがあって、時には「涙と共に……」という感傷に陥ることもあるのだが……こと「ミカン」に関しては、ひたすら「幸せ」のイメージしか浮かんでこない。
いかなる「気取り」もなく、いかなる「思い入れ」もなく、……「ミカン」はそっと人を幸せにしてくれる。
「ミカン」には涙は似合わない。そう。「ミカン」には笑顔こそ相応しい。
明日こそは、何を忘れても「ミカン」を買うつもりだ。多少持て余しても、大きな袋の奴を選ぼう。なんだか、「ミカン」の数だけ「幸せ」が待ち構えているような気がしてならないのだが……
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