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#79 偽物の自然に閉じ込められた、遊べない子供達

(1309字・この記事を読む所要時間:約3分 ※1分あたり400字で計算)
 
 先日、隣町にあるおしゃれなカフェに行ってみた。
 内装がキャンプ場を模したデザインになっているとネット上でも有名なお店だったので、一度は実際に見てみたいと思ったのだ。
 
 移動すること30分。
 ワクワクしながら入口の扉を開くや否や、思わず「おお!」と声が出そうな程、店内の景色に目を奪われた。
 
 室内なのに大きなテントとタープ、キャンプ場用のミニチェアやデスク、バイクまでも置いてある。
 壁に沿ってぐるっと配置された植物に囲まれると、まるで本当に自然の中にいるような気分になって、床は川辺のように一面の砂利が敷かれていた。
 
 
 コーヒーもお料理も申し分無かった。
 
 実に良いお店を見つけたと、しばらくゆっくりとくつろいでいると、子供連れのお客様が入店し隣の席に座った。
 幼稚園年長か、小学1-2年生のように見えたその子は、不思議と年相応でない落ち着いた表情をしていて、食事中もあまり話したり騒いだりしなかった。
 
 大人しい性格の子なのだろう。
 そう思いながら本でも読もうかとすると、どこから「かつーんかつーん」と石がぶつかり合う音が聞こえてきた。
 
 頭をあげると、例の子だった。
 床の砂利を拾っては投げ、拾っては投げて遊び始めたのだ。
 
 
 ひやひやした。
 幼い子供だ、そんな力強く遠くに投げてはいないのだが、他のお客様もいる空間で石を投げる行為はやはり危険だ。
 特に私としては隣席なので、いつ石が飛んでくるかも分からない。
 
 見ると、子供の母親らしき方は同行者とのお喋りに夢中だ。
 すぐ側でわが子が何をしているのかも全く見えないかのように、子供の方を見向きもしない。同行者も同じくそうであった。
 
 これを見た店員が止めに入った。
 子供はチラチラと店員が離れて行ったのを確認すると、また投げ始めた。
 他人に言われてしまったということで申し訳ないと思ったのか、母親らしき人物も大声できつく叱った。
 
 親のお叱りの方が効いたようで、子供は石を投げるのを止めて席に戻った。
 けれどもやはり暇なのか、ソワソワと身体を動かしている。
 「お母さん、お母さん」と母親を呼んでも全く返事をもらえない。
 
 そしてしばらくすると、また石を投げて遊び始めてしまった。
 遠くから別のお客様がわが子を叱る声が聞こえてくる、「ちゃんと座っていなさい!あの子の真似しちゃダメよーー」
 
 
 なんだかやるせない気持ちになった。
 決して躾の無い、わがままを言うような子には見えなかったのだ。
 
 母親は見向きもしてくれない、大人の会話にも入れない。
 食事はとっくに終わってしまった、何もすることがない、家にも帰れない。
 暇つぶしをしようと、一人で何か遊ぶことにする。
 
 大人達の邪魔にならないよう、本人は静かにしているつもりのはずが、何故かそれでも怒られてしまう。
 叱られて席に戻るも状況は変わらず、かと言って別の遊び方を提示されることも無く放っておかれる。
 
 もし私がその子の立場だったら、私もきっとひどくつまらなく、そして寂しかったに違いない。
 
 
 カフェからの帰り、近所の公園で軽く散歩をした。
 その公園には大きな池があって、何人かの子供達が集まって大声で叫びながら真っ黒になって水遊びしていた。
 
 ああ、ここでならあの子もたっぷりはしゃげて、怒られずに済んだろうにと思った。

📚子供らしく遊べる環境が減った現代

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