見出し画像

過去を想えど、縋るな。

「昔のもの、少しは捨ててよ」

帰省の度に母親にこんなことを言われては、鬱陶しいなあと思っていた。

「学生時代のものは、全部大事なものなんだよ」

そうやって、いつも誤魔化す。

学生時代は、僕にとってかけがえのない思い出だ。
高校や大学の友達で、今も付き合いがある奴も多い。
思い出が詰まった写真や寄せ書き、教科書や文集はしっかり置いてある。

実家に帰るとたまに写真を見返したり、文集を読んでみたり。
あの頃を思い出して少し楽しく、少し切なくなっていた。

「昔のもの、少しは捨ててよ」

今回のお盆も、母親からお馴染みの文言が飛び出す。
僕の答えはいつも通り、に決まっていたはずなんだけど。

「大事なもの以外は、ほとんど捨てていいかもね」

自分から予想もしていない言葉が出て、僕自身が少し驚いた。

「…あ、そう」

母は母で、いつも通り僕が「学生時代のものは、全部大事なものなんだよ」と返してくる前提で言ったのだろう。
思ってもいない返答に、少し戸惑っていた。

その時、僕は気付いた。
自分が過去を大切にしているのではなく、過去に縋っていたことに。

僕の人生の全盛期は、間違いなく学生時代だった。
特に、大学時代は楽しかった。
迷いもなく好きなことを好きと言い、友人たちと振り返ることのない日々を過ごしていた。

でも、就職してからはあの頃を振り返ってばかりで。
楽しい日々を自分の黄金期だと思って、あの頃の思い出に浸るばかりの毎日だった気がする。

34歳の僕は、就職した頃のうだつの上がらない僕とは違う。
夢を目指し、毎日必死に努力している。
今が一番楽しいから、あの頃に戻りたいなんて思わない。

もちろん、学生時代が僕にとって大事な思い出であることには何の変りもない。
でも、今はあの頃に縋る必要はなくて。
あの時の大事な思い出と、大事な気持ちだけが残っていればそれで充分。

どんなに過去が楽しくて充実していたとしても、大切なのは今。
過去を大切にするのは良いけど、それに囚われて前を向けなくなっちゃいけない。

振り返ることなく、今を必死で駆け抜けて。
で、疲れた時やどうしようもなくなった時に少しだけ振り返る。
過去なんて、それぐらいで丁度良いんだと思う。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?