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憧れが夢に変わったきっかけは、君だったのかも。
19歳の頃、付き合っていた女の子と一緒に東京に旅行に行った。
お互い親には内緒の、はじめての旅行。
ベタだけど、行き先は東京ディズニーランドだった。
好きな人と二人きりで旅行できることに、ドキドキが止まらなかったけど。
僕には、もう一つワクワクする理由があった。
『ディズニー行った次の日さぁ。
俺、どうしても行きたい場所があるんだけど付き合ってくれない?』
『珍しいね。
良いけど、どこ?』
『”マッスルパーク”っていうところなんだけど…』
マッスルパークは、かつてSASUKEが好きだった人間からすると憧れの場所。
実際のSASUKEエリアを体験できるアミューズメントパーク。
2010年に閉園したが、今もSASUKEファンの間では語り継がれているスポットだ。
『ほんと、oilくんってSASUKE好きだよね。
いつか出たいと思ってるの?』
その時の僕は、彼女の問いかけをはっきり否定した。そのことは、今もしっかり覚えている。
『出れるなんて思ってないよ。
俺、スポーツあんまり得意じゃないし。
あくまで観るのが好きなだけ。
マッスルパーク、お台場にあるんだよ。
観光にもちょうど良くない?』
当時テレビっ子だった僕は、お台場という場所自体にも憧れがあった。
そんな僕を、マッスルパークは強く惹きつけていたのだ。
彼女は、僕の誘いを快く受け入れてくれた。
ジョイポリスに一緒に行く、というオマケ付きだったけど。
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旅行は、とても楽しいものだった。
初めての夜行バスは中々眠れなくて、ディズニーの途中で何度か倒れそうになったけど。
それでも、好きな人と行くディズニーは最高だった。
ディズニーで一日遊び尽くした次の日、僕らはお台場に向かった。
初めてのゆりかもめ、初めてのレインボーブリッジ。見るものすべてにテンションが上がった。
そして、到着したマッスルパーク。
僕は一目散にSASUKEの体験エリアに向かった。
張り切って挑んだけど、結果は散々。
5エリアのうち、クリアできたのはひとつだけ。
しかも、誰でもできそうなやつだった。
クリフハンガーは、テレビで観ているイメージの何十倍も難しくて。
3秒ほどぶら下がった後、一歩も進むことはなく僕は情けなく地面に落ちた。
『やっぱ、SASUKEは観る専だな』
息も絶え絶えな僕がそう言うと、彼女は微笑みながらこう言った。
『そんなこと言ってるけど、
本当はいつかは出たいんでしょ?
頑張ってる姿、カッコ良かったよ』
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その日から、約15年が経った。
19歳の頃、3秒で落ちたクリフハンガーを34歳の僕は往復している。
あの日はほのかな憧れだったSASUKE。
それを、今の僕は夢として、実現できるものとして追いかけている。
今の僕の原点は、もしかしたら15年前のあの日なのかもしれない。
もしもあの日、君が『カッコ良かった』と言ってくれなければ僕はSASUKEに挑戦しようと思わなかったかもしれない。
あのまま君と付き合っていれば、僕は地元の企業に就職して年相応に家庭を築いていたかもしれない。
でも、『もしも』なんて考え始めたらキリがないから。
僕は今、目の前にある夢を必死で追おうと思う。
今考えたら、憧れを夢に変えてくれたのは君だったのかもしれない。
もう、絶対に届くことはないけど。
僕にきっかけをくれてありがとう。
15年後の僕は、君と過ごした日々の先にいる。
確かにいる。