寺岡政敏

寺岡政敏

最近の記事

散歩と雑学と読書ノート

今年のノーベル賞 10月はノーベル賞受賞者が次々と発表される月である。スウェーデン王立科学アカデミーによって発表された物理学賞と化学賞がともにAIに関連したものであったことをはじめ、今年のノーベル賞はいつにもまして、時代の風の動きを感じさせるものであった。 (以下の記述は主に北海道新聞の記事を参考にさせていただいた) 1 ノーベル生理学・医学賞 まず初めにノーベル生理学・医学賞が10月7日に発表された。遺伝子制御に関わる微小な生体分子「マイクロRNA」を発見した、アメリ

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      読書ノート1 光る君へ 私はこの数年、NHKの大河ドラマや、朝ドラのけっこう熱心な視聴者である。現在の大河ドラマ「光る君へ」や朝ドラの「虎に翼」の放送時間を私は楽しみにしている。「光る君へ」は紫式部と藤原道長を主人公にしたドラマであり、「虎に翼」は日本で初めて女性として法曹界に飛び込み、家庭裁判所設立や原爆裁判などに関与した三淵嘉子をモデルにしたドラマである。 普段はテレビを見て本を読んで散歩するくらいしかしていない自分に「喝」を入れてやりたい気がしているが、こうしてno

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        精神科臨床の現役を引退してから二年を過ぎた。さすがに仕事のオファーもこなくなった。自分では少し意外であったがこの間にもう一度現場に戻りたいという気持ちは浮かばなかった。もう臨床の現場に戻ることはないだろうという気がしている。精神科専門医の再申請も断念した。しかし精神医学に関する関心がなくなったわけではもちろんない。後ほど読書ノートのところで少し精神医学のことにふれてみたいと思っている。 約52年間の現役時代を通じて、私はずいぶんたくさんの患者さんからさまざまな話を聞かせても

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          読書ノート 「初めて語られた 科学と生命と言語の秘密」 (3)   松岡正剛X津田一郎 文芸新書、2023 前回は、第3章「編集という方法」と第4章「生命の物語を科学する」を読み進めた。第3章では松岡が自分の専門である編集工学の方法論に関する説明を展開しているがさすがに見事な説明であった。私は読みながらいろいろと考えさせられた。第4章では生命や脳の科学を推し進めるために解釈学や物語性に注目する必要性があるという津田の問題意識に私は強く共感した。津田は脳科学者デヴィッド・

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          読書ノート 「初めて語られた 科学と生命と言語の秘密」 (2)   松岡正剛X津田一郎 文芸新書、2023 前回は本書の「あとがき」から読み始めた。それを「まえがき」とさせさせてもらって、第2章の「情報」の起源と「生命」の起源にまつわる対話の部分を紹介した。 今回は第3章「編集という方法」、第4章「生命の物語を科学する」 第5章「脳と情報」へと読み進めたいと考えている。 1 編集という方法(第3章) 第3章では、松岡が自分の専門分野である編集工学や編集の方法について

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          読書ノート 初めて語られた 科学と生命と言語の秘密」 (1) 「松岡正剛X津田一郎     文芸新書、2023 1 はじめに 先日久しぶりに札幌に出掛けて、紀伊国屋書店で本書を見かけた。私は内容を確かめることなくただちに買い求めた。随分以前から私は二人の著者のファンであり、その二人の対談というので読む前からわくわくしてしまった。 内容は私が予想した以上の広がりがあり、いろいろと連想を刺激されるものであった。もちろん十分理解できないところも多くあった。ただし内容的に

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          読書ノート 「街のカフェ」、「町の本屋さん」、「まちライブラリー」 1 はじめに 私が街に出掛けて、最もよく立ち寄る場所は喫茶店(カフェ)と書店(本屋さん)である。そこは私にとって大切な居場所である。さらに、図書館(ライブラリー)と映画館もまた私の大切な居場所であり、若いころは飲み屋さんも大切な居場所だったが、最近は足が遠のいたままである。 今回は喫茶店と本屋さんと図書館という三か所の居場所に関連したことを書かせていただきたいと思う。 私は喫茶店をほとんど読書のため

          散歩と雑学と読書ノート

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          読書ノート「ヤーコブソン レヴィ=ストロース  往復書簡 1942ー1982」  E・ロワイエ/P・マニグリエ編、みすず書房、2023 本書は20世紀の偉大な言語学者ロマーン・ヤーコブソンと偉大な人類学者クロード・レヴィ=ストロースが1942年にニューヨークで出会い、1982にヤーコブソンが亡くなるまでの間に交わした書簡群を始めて編み、2018年に公刊された著書の邦訳である。 ネット環境のゆきわたった現在では、メールなどで情報は瞬時に伝えられてしまうが、書簡という形式での

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          精神医学史の中のクレペリン(2) 前回の記事は昨年の12月25日のものである。つづきを書き進めたいと思う。 前回も述べたとおり、中井久夫はフロイトとクレペリンを精神医学における偉大なパラダイム・メーカーと呼んでいる。フロイト(1856ー1939)とクレペリン(1856ー1926)は同じ年の生まれだが、フロイトの神経症中心のパラダイムとクレペリンの精神病中心のパラダイムという二つのパラダイムがはじめから必ずしもうまくかみ合うことなく進行してきたことは精神医学にとって不幸な出

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          本年もよろしくお願いいたします。 新年早々の能登半島地震には驚かされました。被災にあわれた皆様には心からお見舞い申しあげます。 私は2018年9月6日に千歳の隣町を震源とする北海道胆振東部地震を体験した。震度は6近くであった。さいわい水道は止まらなかったが、3日間停電が続いた。もし地震が冬に起きていたらどうなっていただろうと恐怖を感じたことを思い出す。いまは、電気がなくても使用可能な灯油ストーブと簡易のガス台とガスボンベは用意してあるが、水や食料の備蓄が不十分になっている

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          精神医学史の中のクレペリン 1.はじめにーパラダイム・メーカーとしてのクレペリン パラダイムという概念はよく知られているように、トーマス・クーンが「科学革命の構造」という著書の中で提示した概念である。この「科学革命の構造」の新訳が今年(2023年)の6月に青木薫訳でみすず書房より出版された。新訳のなかではクーンを一貫して支持してきた科学哲学者イアン・ハッキングが序説を書いている。岩波の「思想」10月号で新訳をめぐる特集が組まれていて、野家啓一がハッキングの序説の末尾に触れ

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          読書ノート1.「日経サイエンス」2023、12 「日経サイエンス,2023 ,12」に「ノーベル賞詳報」という記事が載っている。簡単な紹介と感想を述べておきたい。 また同誌の「量子もつれは何を語るか ベル不等式が問う人間の直感」という記事は興味深く考えさせられるものであった。  ノーベル賞詳報    ● 今年のノーベル生理学・医学賞は、新型コロナウィルス感染症に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾の発見に対して、米ペンシルベニア大学の、カリ

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          「脳のリズム」をめぐる読書ノート 生物が生きている環境は多様なリズムに満ちている。一方生物もまた多様な様相で固有のリズムを形成している。そして生物は環境のリズムを引き込むなどによって環境とリズム的関係をとり結んでいる。たとえば概日リズムに対応する生物時計は人間の場合は特に意識や睡眠リズムや行動や身体機能の様々なありかたに概ね24時間の周期性を与えている。さらに、概日リズムの振動に関与する遺伝子も同定されている。 生物の持つリズムの中では特に脳のリズムは多彩で重要である。脳

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          「北の縄文世界と国宝」展をめぐって1.縄文とアイヌとの関係及び縄文とケルトの比較考古学  2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコの世界文化遺産に登録された。それを記念して2023年7月22日から10月1日にかけて北海道博物館で特別展として「北の縄文世界と国宝」展が開催されている。主催は北海道新聞社とNHK札幌放送局である。 私は9月1日に娘の夫と二人で北海道博物館に出かけた。特別展での縄文遺跡の数々は期待通り圧倒的な存在感を発揮して遥かな縄文の世界に私達を

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          読書ノート 6月の読書ノートで雑誌について触れたが、今回も雑誌に関連したことを幾つか書かせていただこうと思う。 1.  「世界」(岩波書店)の7月号で「狂騒のChat GPT」と言う特集が組まれていた。その中でナオミ・クラインの「『幻覚を見ている(ハルシネート)』のはAIの機械ではなく、その製作者たちだ」という記事が面白かった。ここでは、記事の始めの項である「幻覚と現実」からその内容の一部を引用しておくことにする。 「幻覚を見る」という単語は、「チャットボットが出力して

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          再生可能エネルギー、食糧、半導体と北海道の未来  1.再生可能エネルギーと食料の基地としての北海道の未来 私には、まだ幼い二人の孫がいる。最近になって、孫たちが成人になったころには、この日本はどうなっているだろうと考えることがある。特に私の住む北海道の未来はどうなっているだろうか。 私は北海道の未来に以前から一つの夢を持っている。それは、北海道が日本のエネルギーと食料をささえる基地となっていてほしいという夢である。 私の夢の中では北電さんには申し訳ないが泊原発は必要が

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