プレーンノットにこんにちは
ネクタイがやや短い男性を見た。たぶんヘソのちょっと上くらい。いや、もう少し上、乳首のやや下くらい。誰かに対する何かのメッセージなのかと思い、邪魔してはいけないと離れたところからしばらく観察していたがどうやら違うらしい。シャレたパーティーに参加するためのドレスコードかと思ったが、同じような格好をしている人もいなかった。
しばらくぼーっと見つめていたのだが、そのうち真っ赤なコートをお召しになられた女性と合流し、楽し気にネオン街の中へ消えていった。
明らかに短いおかげか、人ごみの中でも見つけやすかったようで、そのネクタイは目印として十分な機能を果たしていた。
ビジネスマナーなど知らぬ存ぜぬで生きてきた私なので、世の中で良しとされている(そうすべきとされている)ことはなんとなく知っていても「なぜ」「どういう経緯で」それが良いとされているのかはさっぱりわからないことが多い。
ネクタイが短いことはマナー的にどうなんだろう。やっぱり駄目なのかな。
でも聞いたことないな。短すぎるネクタイのせいで相手方の社長を怒らせて営業が破談になった、みたいな話。
「君、なんだねそのネクタイは。そんな短いネクタイで会いに来るような奴がいる会社と契約をするわけにはいかない。この話はなかったことにさせてもらう。私は君のネクタイより気が短いのでね。」
今日の彼は何て返すんだろう。
「すみません、自分の至らなさで、自ら首を絞めてしまっていました。ネクタイだけに。このまま会社に帰ると、私はクビになってしまいます。ネクタイだけに。もう一度考え直していけませんか、そしてこの商談をしっかりと結びなおしてくださいませんか。ネクタイだけに。」
ネクタイが短いくらいで特に失うものなどないだろう。
いや、私のような人間に日記の題材にされてしまってちょっとだけかわいそうか。