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#395 NETFLIXのカルチャーメモに見る強い企業文化と人事施策

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

1998年に郵送によるDVDレンタルサービスから始まったNetflixは、2007年にDVD配送とセットになった定額制のストリーミングサービスを誕生させ、現在は映像配信サービスの世界最大手企業となりました。

2024年の第一四半期時点で、世界に2億6,000万人を超える会員がおり、つい先週、日本における有料会員数が1,000万世帯を突破したことが公表されました。もちろん、ホテルなどの法人契約のものもあるとは思いますが、1世帯2人と見積もった場合、2,000万人がNetflixを利用していることになり、日本の総人口の5分の1〜6分の1にあたる驚異的な数字です。

2013年の「HOUSE of CARDS」を皮切りにオリジナル作品に進出し、ストリーミングサービスの急成長で得た潤沢なキャッシュを活かし、「ウォルト・ディズニー・スタジオ」や「ユニバーサル・ピクチャーズ」をはじめとするハリウッド映画の5大スタジオなどの競合他社とは桁違いのコンテンツ制作予算を投じて次々と新作を発表してきました。

Netflixは、なぜここまで急成長できたのか?を語る時に頻繁に論点となるのが、その企業文化と人事施策です。
私はまだ読んでいませんが、Netflixの"No rules rules" (ルールがないというルール)に対する書籍まで出ています。

今日は、「強い組織作り」をテーマにして、いきなり全社的にNetflixのカルチャーを取り入れることはできなくても、部分的にでも取り入れられると良いのでは?と考える組織作りのヒントについて、考えてみたいと思います。


"Netflix Culture"の概要

現在のNetflixの組織文化の根底となっている考え方は、2023年1月にCEOを退任し会長となったNetflix創業者のリード・ヘイスティングス氏が、2009年にネット上で公開した社内向け資料が起源となっています。

現在も当時からアップデートを繰り返しながら公表されていますので、誰でもアクセスすることができます。

"we model ourselves on a professional sports team, not a family." (私たちは自分たちのことを家族ではなく、プロのスポーツチームと捉えている)と表現されているように、とにかく最高に有能な社員だけを集めて、妥当なレベルのパフォーマンスの人には、十分な割増退職金を支払って去ってもらう考え方です。

また、よくある業績連動性による評価の形は取っておらず、社員の市場価値を上回る給与を支払う代わりに、現場リーダーによる"Keeper Test"が行われます。これは、「その社員がNetflixを離れることを希望したら、自分は必死に引き留めるか?」「今分かっている社員の情報を採用時に知っていたら、この人を再び雇うか?」を定期的に問い、答えがNoであれば速やかに退職してもらう、というものです。

プロ野球選手やプロのサッカー選手と同様、パフォーマンスを出していれば一軍としてレギュラー出場を続け高い報酬が得られますが、そうでない場合は、他の有能な選手と入れ替えさせられるシビアな世界です。

一方でこれは"Dream Team"の考え方でもあり、社員に対して提供する最高の職場を、素敵なオフィスや無料の食事やマッサージなどの福利厚生ではなく、「個人でも成果を上げて、チームになるとより大きな成果を上がられる優秀な同僚たちと働ける環境」と捉えています。

また、"Free & Responsibility"と呼ばれていますが、通常の会社に存在する休暇取得、経費支出などに対する上司の事前承認・決裁は不要になっています。
これは単に「性善説のもと、個人の良心に委ねる」ということではなくて、「リーダーや上司がコンテクストを説明し、それが組織に浸透していれば、いちいち上司が個別に承認する必要はない」という考え方に基づいたものです。規律やコントロールではなく、コンテクスト(判断における基本的な考え方)により組織を引っ張る考え方です。
まさに自己組織化したチームといいますか、個々の自律的な判断を促し、全体の秩序が維持される文化が浸透しているようです。

社内では、ランクを問わず徹底的に本音で話す風土作りが推奨されており、CEOであれ役員であれ、プレゼンや社内会議での振る舞いに改善すべき点があると思えば、それをフィードバックすることが歓迎されます。このため、Netflix幹部でいるには、よほど人間ができていないと務まらないと言われているほどだそうです。

シビアに見えるけど健全な組織の形

"Keeper Test"のようなやり方では「いつクビになるか分からない」という恐怖があるのではないか?と感じられるかもしれませんが、私はむしろ、会社にとっても個人にとっても健全な形だと考えています。

モチベーションもパフォーマンスも低く、組織の足を引っ張る人でさえも解雇規制のもとで簡単に辞めさせられない状況では、社会全体でより生産性の高い領域へのリソースシフトが起こらず、非生産的な仕事のプロセスがなくならないからです。

先日ご紹介した「紙ベース」の仕事や、「やった感」出すための仕事がなかなか無くならないのは、「その仕事は本質的にどのような価値を生み出しているのか?」ということを適切に問う機会が失われていることに原因があります。

個人の視点でも、「やった感」出すための仕事や、全く生産的でない仕事しか出来ないまま歳を取ってしまったら、誰からも求められなくなってしまいます。後で気付いてもリカバリは難しいですから、環境を変えるなら早い方がいいし、会社に飼い殺しにされている状況よりもよほどマシだと考えます。

コントロールか、コンテクストか

最後に、"People over Process"(プロセスより人)のところで述べられている"Context not Control"(コントロールでなくコンテクストを)のところは、なかなか考えさせられるポイントでした。

ヘイスティングス氏は、コンテクストが効果的に働くのは、有能な人だけで構成されたチームにおいてイノベーションを目的とする経営であり、ミスを起こさないことを最大の目的にするならば、むしろ規律とコントロールによる経営を志向すべきと言っています。

例えばパイロットの知り合いは、「パイロットは、全てマニュアル通り動く究極のサラリーマン」だと話していました。

確かに、人命を預かる職業においては、個人による勝手な解釈が入る余地はゼロにすることが理想で、完璧なプログラムのごとく、全ての想定エラーに対するエラーハンドリングが正しく挙動できるように訓練を積むことが重視されるよなと。

一方で、規律やコントロールによる統制に限界が来ていることも事実だと考えます。同じ動作をひたすら訓練できる時間的余裕と予算があればいいですが、現実は必ずしもそうではありません。問題が起こるたびに新たなルールが追加され、とても人の頭では覚えきれない量になり、それならばチェックリストに、というアプローチで作られた100項目も200項目にもなる手順が形骸化せずに、毎回効果的に機能するとは思えないからです。

そのため、いかなる状況においても、コンテクスト型の組織文化やマネジメントはより求められるようになってくると考えます。職場のプロセス改善が進み、無駄に思えるコンプラチェックや社内稟議のプロセスがなくなってもガバナンスが適切に効いた組織文化を維持するためにも、"Netflix Culture"から学ぶ組織運営、マネジメントの考え方は多いと感じています。

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林 裕也@IT企業管理職 ×「情報×探究」
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