
#472 管理職の「セルフ・コンパッション」が大切な3つの理由
先日、管理職向け研修の一環で「セルフ・コンパッション」の研修を受けてきました。最近、「管理職が大変」ということが以前よりフォーカスされるようになってきたのをすごく感じます。
例えば、「働き方改革」が進み、メンバーの労働時間は全体で削減傾向にあるものの、それを吸収するために管理職の労働時間が伸びているという話。人材の流動性が高まり、優秀な中堅・その手前くらいのメンバーがいなくなったチームで、プレイヤーとしての仕事を補填するために管理職の労働時間が伸びているという話。経験者採用の受け入れも増えて、仕事の進め方や価値観が異なる人のマネジメントが求められ、「量」と「質」の両方で求められる能力が高まっています。リモートワークが一般化し、物理的に同じ空間にいないメンバーとも積極的にコミュニケーション機会を作り、1on1などで信頼関係を作ることが必須になっているなど、コミュニケーションが多様化している面もあります。
このように「管理職の大変さ」は、挙げればキリがないのですが、それを嘆いていても何も変わりません。「そういう時代になった」のだから、そこで自分ができることをコツコツやっていくしかありません。
管理職の仕事が大変なのは事実ですが、結局はマインドセット次第です。どんなに忙しくても、その状況を楽しめる人は楽しむ。それは性格ではなくスキルです。
「自分には無理・・・」と諦めるのではなく、そのような状況への向き合い方を武器として持っているか。ここが大切です。今日は、そんな武器の1つになり得る「セルフ・コンパッション」について取り上げ、なぜ管理職に「セルフ・コンパッションが大切なのか」、私なりの意見をまとめます。
セルフ・コンパッションとは何か?
コンパッション(Compassion)とは、直訳すると「慈悲」とか「慈しみ」、「思いやり」のようなニュアンスの言葉です。
「セルフ・コンパッション」ですから、「自分自身に対する思いやり」といった定義で使われます。
あなたは、親しい友人が仕事で上手くいかなかったり、悲しいことが起こってひどく落ち込んでいる姿を見ると、どのような姿勢・身振り・言葉・口調で接するでしょうか。
おそらく多くの方が、ゆったりとした言葉で、あまり色々と詮索することなく、全力の思いやりと優しさをもって接するのではないでしょうか。
しかし、大切な友人が苦しんでいる時には、思いやりと優しさをもって接することができる人も、最も大事で身近な場所にいる自分自身に対しては、なぜか厳しくなってしまうことが少なくありません。
他人に対しては「そんなこともあるよ」、「気にしなくていいよ」という言葉をかけられるのに、自分に対しては原因思考が働き、「なぜこうなってしまったのか」「なぜこんなことも出来ないのか」「私はダメなやつだ」と詰めて追い込んでしまう。これは「自動思考」であり、意図的にトレーニングして矯正しないと、思考の癖から抜けられないのです。
鍵となる考え方は、「1. マインドフルネス」、「2. 誰しも経験する」、「3. 自分への優しさ」の3つです。
「マインドフルネス」では、思考とは現実そのものではなく、現実を説明するための1つの見方であるということに気付いていること。
「誰しも経験する」では、誰しもが例外なく人生には困難が伴い、間違うことがあるということに気付いていること。
「自分への優しさ」では、自分の欠点を厳しく批判することなく、攻撃して非難することなく、自分自身に対して共感の言葉をかけてあげること。
このような考え方を知識として身につけ、モヤモヤする出来事が起こった時に、この3つの観点で自分自身に声かけをする。これが「セルフ・コンパッション・エクササイズ」であり、定期的にこのような時間を取ることで、「自分に厳しい」自動思考の癖を矯正していくのです。
管理職のセルフ・コンパッションが大切な3つの理由
「セルフ・コンパッション」は、特に管理職にこそ大事です。
1. 「自分への思いやり」→「他人への思いやり」の順でないと自己犠牲になる
「セルフ・コンパッション」において最も重要なのは、まずは自分自身のことを思いやれるからこそ、自分のメンバーのことも思いやれる、という順番です。
冒頭に述べたような、「労働時間制約上、メンバーには仕事を振れなくなったから自分で巻き取らざるを得ない」みたいな状況で、「管理職の自己犠牲の上で行うメンバーへの思いやり」に持続可能性がないのは明らかです。
必ずどこかで綻びが出て、チーム運営が上手くいかなくなるのは目に見えています。「どうして自分の貢献に対して、メンバーは応えてくれないのか?」と無意識にリターンを求めて、管理職がさらにストレスを強めてしまう可能性が高い。
管理職が、まずは自分に思いやりを持つ。上手く物事を進められない場合でも、そんな自分を許す。ある程度仕事に慣れてきた自分でも失敗する、全てを上手く進められるわけないね、と思っているからこそ、メンバーに対しても嘘偽りなく、寛大になれるはずです。
2. 管理職がゴキゲンかどうかで、チームのパフォーマンスが変わる
自分自身も経験がありますが、「自分の上司が機嫌が良いかどうか」で、コミュニケーションコストが大きく異なりますよね。
「機嫌が良さそうな日」であれば、少し困っているようなことであっても、心理的ハードルは低い状態で「ちょっとした相談」が出来ます。
一方で「今は話しかけない方がいいな」という時であれば、「今日は、この話を持ち出すのはやめとこう」となります。
でも、仕事の生産性をミクロで捉えて行けば、メンバーが「これってどう進めれば良いのかな?」と悩んでいる時間というのは、アイドリング時間です。朝に管理職が来たときに「どうしよう?」と感じていることが解決されれば、その方針に基づきメンバーは朝から動け出せますが、「今日は機嫌悪そうだから明日にしよう」となってしまうと、その仕事は1日寝かされてしまいます。
スピードは、大きな価値です。チームとしてのスピードという成果には、このような形で「上司の機嫌」が影響しているのです。だから、管理職がセルフ・コンパッションのようなメンタルトレーニングを通じて、常に心の余白を持つことはとても大事です。
3. 成果を出す過程で起こる苦難の中で、心を折られないようにする
みんなが「これっておかしくないか?」と感じていることを大きく変えたり、新規事業立ち上げなどを通じて新しい価値を生み出す瞬間というのは、当然ながら「変化に対する抵抗勢力」と対峙したり、「それは儲かるのか?」という社内の上層部を説得したり、というプロセスが必ず伴います。
そこで直面する様々な反対やモヤモヤする事案に対して、全てを「自責思考」で受け止めていては、成果が出るまでとても走り切れません。
そんなときに「今直面していることは、挑戦する人がみんな経験している(2. 誰しも経験する)」とか、「あえて困難な道を選んでいる自分、頑張ってる!(3. 自分への優しさ)」という思考になるだけで、一歩先に進めるのです。
チームで何かに挑戦するとき、管理職の心が折れてしまうと、頓挫する可能性が高い。先頭を走る役割の管理職も、一人の人間です。日々悩みながら、「これで良かったのだろうか」と自問自答を繰り返している方も多いと思います。
だからこそ、「セルフ・コンパッション」を身につけて、明るくしなやかに日々を乗り越えていく強靭さが大切だと考えます。
いいなと思ったら応援しよう!
