青池勇飛

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青池勇飛

小説家 野球⚾ フリーター 小説を書いて連載しています! ジャンルはミステリー、悲劇、青春ものが主となっています! 第34回小説すばる新人賞三次選考 第68回江戸川乱歩賞二次選考 第69回江戸川乱歩賞三次選考

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小説『地獄の門』

私事ですが、昨年よりAmazonで小説を出版しております。 タイトルは『地獄の門』 ペンネームは使用せず、本名「青池勇飛」で出版しております。 https://amzn.asia/d/4SVP0Nf 面白い。泣ける。そして衝撃の結末であることは作者である僕が保証します。 おもんなかったらどうすんねん! という絡みはやめていただいて…😅 少なくとも僕の追い求める面白い物語、感動する物語として皆さんに届けたいと思える一作になったと思えたからこそ、今回は出版しようと決意したの

    • 連載長編小説『滅びの唄』第二章 歌姫の声 5

       水垢が付着した自動ドアの前で杉本は一つ息を吐き出した。注意して見ないと気がつかない程度しか水垢はついていないのに、杉本にはそれがはっきりと目に映った。水垢のせいでガラス張りのドアが濁って見える。その濁りの中に、蒼白とした自分の顔が浮かび上がっている。  杉本は無理に笑顔を作った。口角が不自然に吊り上がったのを見て平手で頬を打った。じーんと波打つような鈍痛が頬に赤く残った。一歩前に進むとドアが勝手に開いた。杉本は翠風荘の中に入るしかなかった。  エレベータで二階に上がると、引

      • 連載長編小説『滅びの唄』第二章 歌姫の声 4

         それからというもの、杉本は日常業務の傍ら、直近半年間の劇場の使用状況について調査を行った。半年間に開催されたコンサートは全部で十六回あった。内訳はこうだ。  株式会社清樹二ヶ月ごとに計三回のコンサート。  室内管弦楽団の特別屋外四重奏演奏会一回。  アマチュア・バンド三組、その内の一組が二度コンサートを開いて計四回。  学生バンド四組がそれぞれ二回ずつの計八回。  平均すると一月に二回から三回、公演が行われていることになる。  この内入場無料の公演は株式会社清樹の三度だけで

        • 連載長編小説『滅びの唄』第二章 歌姫の声 3

           歌声を耳にした三日後、高橋によって杉本達班員が集められた。来週に迫った建設会社との打ち合わせに向けて細々としたことの確認をするとのことだった。  杉本は今朝小会議があると聞かされて、ある決心をしていた。灰の劇場に語られる伝説の正当性を主張するのだ。杉本は歌声を聴いた次の日もその次の日も劇場に足を運んだ。が、いずれも歌声を耳にすることはできず、昨日に至ってはアマチュア・バンドが屋外で騒々しいコンサートを開いていた。  杉本は、この前女性の歌声を録音あるいは撮影しておくべきだっ

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        小説『地獄の門』

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        • 滅びの唄
          11本
        • 怪女と血の肖像
          44本
        • 別嬪の幻術
          27本
        • 美しき復讐の女神
          41本
        • 黄金の歌乙女
          21本
        • 赤い糸
          24本

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          連載長編小説『滅びの唄』第二章 歌姫の声 2

           森閑としている、と杉本は思った。夕闇迫る空の下で劇場は斜陽と歩調を合わせて夜陰に沈もうとしていた。  側の道路の交通量は少ない。街から少し外れていることもあって人通りも多くはない。その中で虫の鳴き声だけが響いている。まだ薄っすらとその形を留める山々の存在もあって、今まさに自然の中に立っているような心地が杉本はした。そして改めて思った。株式会社清樹のコンサートの日とはまるで雰囲気が違う、と。  人の気配がない、温度をまるで感じない、それでいて木々のざわめきや轟々と吹く風の音は

          連載長編小説『滅びの唄』第二章 歌姫の声 2

          連載長編小説『滅びの唄』第二章 歌姫の声 1

          第二章      歌姫の声 「昨日はごめんね」  翠風荘に来て祖母の部屋に入った杉本は、謝意を述べた後で羊羹の入った紙袋を手渡した。祖母は、月に一度孫が買って来るこの羊羹が大好物なのだ。昨日のお詫びという意味も込めて杉本は今日持参したのだった。 「無理はしなくていいの。ちょこっとなら顔を出せるかもって言ってたから来ないなあとは思ってたけど、友達との予定があったんだから仕方ないねえ」  祖母には枝野からチケットをもらった日に、コンサートに行く予定ができたことを伝えていた。本来

          連載長編小説『滅びの唄』第二章 歌姫の声 1

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 5

           慌てて帰り支度をして市役所を出たのだが、空の明るさに思わずほっとした。杉本の頭上天高い雲はまだまだ昼間のように太陽を透かして見えた。しかし遠くの空は茜色に染まり始めていた。これから杉本が向かう方角も黄昏始めているところだ。夕焼けの羽衣に撫でられる山頂付近の緑には、そこに神が降り立つのではないかと思わせる神聖さを感じさせられる。  空はまだ明るいが、時間に余裕はなかった。一昨日枝野にチケットを渡された時は午後七時の開演であれば一度帰宅してからか、あるいは翠風荘に立ち寄ってから

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 5

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 4

          「みんな事前に渡した資料には目を通してきたな」という高橋の一言から会議は始まった。  会議といっても、オフィスの端に設けられたスペースに集まっただけだ。見たところ若い職員が集められており、このプロジェクトに参加する者の中で最年長なのが高橋だった。髙橋はもちろんリーダーを務める。  事前に配布された資料を基に、高橋は早速プロジェクトの概要を説明した。  杉本達が携わるのは劇場撤去、また商業施設建設の際の近隣住民への対応、そして建設着工後の市の広告作成が主である。撤去建設について

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 4

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 3

           吹き抜ける風が鼻の頭をかすめた。風のくすぐったい感触を確認するように杉本は親指で鼻を弾いた。午前中は屋内でずっと雑務をこなしていたためか、外の空気が気持ち良い。微粒子を吐き出しているように思わせる空調の稼働音が聞こえないのに爽やかな春風が吹くとは、不思議な心地がした。  今日は気圧線が離れているため穏やかな風が吹くと気象予報士は言っていた。空は青く澄み、厚い雲が太陽を隠しては覗かせる。たしかに穏やかで、昼下がりに上質な仮眠を取りたくなる春の陽気だった。杉本は日陰から出た。

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 3

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 2

           竹藪が琥珀色だった。夕闇を背景に浮かび上がる琥珀色の竹は清らかさと物々しさを感じさせ、荘厳としていた。窓から見下ろすと、一階から竹がライトアップされているのだった。竹の節から伸びる枝葉がふわりと揺られた。 「お帰り」  部屋に入った祖母が言った。祖母は杖を突きながらゆっくりとⅤ字に背が上げられたベッドに近寄った。祖母の側には、祖母の担当介護士であり、杉本の幼馴染でもある寺井千鶴がいて、祖母の杖を持っていないほうの手を握っていた。  ベッドに手をつくと、これから四つん這いにな

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 2

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 1

               滅びの唄 第一章      灰の劇場  疲労にも似た脱力を感じると柱に寄り掛かっていた。掲示板の緑が真っ白に見えた。腹十分までで抑えた昼食の牛丼が、胃の中で不味くなった。  辞退できるならそうしたい、と杉本凌也は切に思った。あるいはメンバーを再編成してほしい。いや、そこまで大掛かりなことをする必要はなかった。杉本を憂鬱にするのはただ一人、たった一人の存在だからだ。杉本が辞退するか、鬱元凶の一人が退くか。二つに一つだ。  しかし後者はあり得ない。なぜなら杉本はS市

          連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 1

          長編小説連載『滅びの唄』

          ほろびのうた と聞いて多くの人は某アニメの某モンスターが使う技を連想するでしょう。 実をいうとこの作品はその某アニメの某モンスターの技名からそのまま拝借したタイトルをつけているのです。 ただ、内容はまったく関係ありません! 当然ですが…。 がっかりしないでください。 面白いのは間違いないのです。なぜならこの作品は江戸川乱歩賞で一次選考を通過しているからです。 僕は乱歩賞で最終選考の手前まで作品が残ったことがあるのですが、この作品はそれより前、初めて乱歩賞の一次選考を突破で

          長編小説連載『滅びの唄』

          【最終回】連載長編小説『怪女と血の肖像』第三部 怪女と血の肖像 38

                  38  科捜研に呼ばれて足を運んだ。何用かと思ったが、特殊な装置が並べられた部屋に入ると、自分がなぜ呼ばれたのかがすぐにわかった。顕微鏡の傍に、一つの髑髏がこちらを向いて置かれている。  事件からはすでに半年以上が経つ。古藤が捜査一課に引き上げられ、捜査員は補充されたものの天羽の仕事量は倍増していて、あまりの忙しさに科捜研に調査を依頼していたのを忘れていた。やはり頭蓋骨の一部は割られている。  こちらを上目遣いに見る髑髏の前に天羽は立った。 「これが?」 「

          【最終回】連載長編小説『怪女と血の肖像』第三部 怪女と血の肖像 38

          連載長編小説『怪女と血の肖像』第三部 怪女と血の肖像 37

                  37  堂島妙子を逮捕した。桐谷香澄の自殺について堂島翼が証言したことを聞かせると、母親は意外にもあっさりとそれを認めた。息子が証言したのなら仕方がない、そんな様子だったと古藤は話した。ただ、逮捕したのは桐谷香澄の自殺についてではなく、車乗り捨て連続失踪事件の件だ。堂島妙子は桐谷香澄を自殺に追いやったことを認めると、そのまま車乗り捨て失踪事件についても言及した。  一言で言えば、堂島妙子が末包有紗の誘拐殺人を幇助していた。悪夢の始まりは、最初の出張診療の日だ

          連載長編小説『怪女と血の肖像』第三部 怪女と血の肖像 37

          連載長編小説『怪女と血の肖像』第三部 怪女と血の肖像 36

                  36 「桐谷香澄さんがモデルを務めた『血に溺れた女』、今どこの誰が所有しているか、ご存知ですか」  一課の捜査員と交代し、取調室に入ると天羽は訊いた。堂島翼に任意同行を求めてから二日が経つ。天羽が求めている堂島妙子の証言が未だ取れておらず、堂島翼も黙秘を続けている。変化があったことといえば、脳外科医の口回りに無精髭が伸びていることくらいだ。 「いいえ」  予想していた答えが返って来た。天羽は一つ頷いてから、「永川雄吾さんの自宅です。永川さんが知り合いから安値

          連載長編小説『怪女と血の肖像』第三部 怪女と血の肖像 36

          連載長編小説『怪女と血の肖像』第三部 怪女と血の肖像 35

                  35  任意同行を求めると、堂島翼は納得がいかないと言って抵抗した。それ以上に、堂島妙子が天羽の腕にすがりつき、なぜ息子を連れて行くのかとしつこく食い下がって来た。お話を伺うだけですからと何とか宥めようとしたが、院長は泣き落としでどうにかなると思っている子供のように、今にも泣き出しそうな顔をしていた。天羽はそっと堂島妙子を自分から離すと、部下に彼女を任せた。  堂島翼は取調室に入ると体を斜に構えて腰を下ろした。左肘をテーブルにつき、手で顎を触っている。銀縁眼

          連載長編小説『怪女と血の肖像』第三部 怪女と血の肖像 35