連載長編小説『滅びの唄』第一章 灰の劇場 5
慌てて帰り支度をして市役所を出たのだが、空の明るさに思わずほっとした。杉本の頭上天高い雲はまだまだ昼間のように太陽を透かして見えた。しかし遠くの空は茜色に染まり始めていた。これから杉本が向かう方角も黄昏始めているところだ。夕焼けの羽衣に撫でられる山頂付近の緑には、そこに神が降り立つのではないかと思わせる神聖さを感じさせられる。
空はまだ明るいが、時間に余裕はなかった。一昨日枝野にチケットを渡された時は午後七時の開演であれば一度帰宅してからか、あるいは翠風荘に立ち寄ってから