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体験格差について
近年、体験格差という言葉をよく聞くようになったような気がします。
体験格差とは、
「学校外」の体験機会を得られるかどうかが、子どもによって格差が生じていること
です。
例えば、家族と旅行に行ったとか習い事をするといったものも含まれます。
このような「〇〇格差」といった格差の問題で必ず絡んでくる内容としては、「貧困」という問題です。
そこでまず確認する事としては
・果たして本当に格差が広がっているのか。
・また、貧困率というものは増えているのかということです。
第一に格差が広がっているのかということについては、ジニ係数というもので推移を確認してみましょう。
以下の表を見てみます。
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ここから言えることとしては、1980年から2020年にかけてアメリカと比較した時には広がっていないと言えます。
また、「厚生労働省,令和3年所得再分配調査 結果」の資料を見ると令和3年度における当初所得のジニ係数は0.5700であり、これを見ると格差はあるが、所得再分配によるジニ係数は0.3813で社会保障による格差の是正の効果があることがうかがえる。
推移に関しても当初所得のジニ係数も再分配におけるジニ係数も横ばいである。
https://www.mhlw.go.jp/content/12605000/R03hou.pdf
第二に貧困率は増えているのかということについては、以下の表から確認してみましょう。
ここでの「貧困」というものは「相対的貧困」の事を表します。
相対的貧困とは、世帯の所得が、その国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のことです。
令和3年度における貧困線は年収127万円以下の事を指します。
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推移だけで確認すると貧困率は増加しておらず、横ばいの状況にあると言えます。
しかし、令和3年度の子どもがいる世帯で大人が一人の世帯の貧困率に着目すると44.5%と非常に深刻な状況にある事は間違いない事です。
また、OECDの調査による相対的貧困率の国際比較をします。
このことから言えることとして、日本はアメリカや韓国、OECDの平均と比較しても相対的貧困率はかなり上位に位置する事が言えます。
ここに加えて物価指数を確認します。
「2020年基準 消費者物価指数 全国 2024年(令和6年)9月分」から確認します。
総合指数としては2020年を100として108.9であり、前年同月比は2.5%上昇しています。
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf
私達も肌感で分かる通り、前年度と比較した際に増加している事が分かります。
その影響として低所得世帯が物価上昇に追いついていない状況がうかがえます。
ただし、この記事での低所得世帯の定義は明確には記されていません。アンケート回答者の72.3%が世帯年収300万円未満という状況でした。
まとめると
・所得格差はアメリカと比べると広がっていない
・相対的貧困の推移は横ばいであるが、単身世帯での貧困率は44.5%と非常に高い
・相対的貧困率のOECD加盟国による国際比較では上位に位置する。
・消費者物価指数は上昇している。そのため、貧困層は最低限の生活を送るだけで必死である。
このことから格差は広がっていないものの、貧困の国になりつつあることは言えます。特に、単身世帯についてはかなり厳しい状況と言えます。
ここまでは、経済状況について確認をいたしました。
話を戻して、「体験格差」についてです。
貧困の世帯が物価の上昇に追いついていないことから最低限の生活だけで精一杯で他の事にお金がかけられない状況にあることが言えます。
そのため、学校外での体験というものができなくなってしまっている子どもが注目されるようになり、それが「体験格差」と問題視されるようになったのでしょう。
そうした「体験格差」という格差の問題を解決する為に活動されている団体がございます。
こちらの団体様の活動は、寄付者(個人・企業)からお金をいただき、経済的に困難の子どもたちに「スタディクーポン」を配布し、協力してくださる学習塾などで習い事といった体験を提供するというシステムになっています。
「スタディークーポン」は教育クーポンや教育バウチャーとも呼ばれています。
名前の通り使用用途を「教育」に限定したものになります。
上記の団体様は、「体験格差」の定義通り、学校外の格差に着目した活動をされています。
このスタディークーポンの導入は様々な自治体で展開されいることが確認されます。
余談を入れますと、使用用途を限定したクーポンはコロナ禍で自治体が行った事例もあります。
私の地元である愛媛県でもこのような支援が実施されました。使用用途は飲食店とガソリンスタンドの2つです。コロナ禍により、飲食店が極めて困窮状態であったためそれを少しでも是正する狙いだったのですが、ガソリンスタンドでの使用が多かったという結果も得られたりしました。
話を戻しますが、このスタディークーポンの配布先は前述にもあるように「経済的に困難な子どもたち」に限定しています。
この取り組みは「教育格差」「体験格差」の是正に大きく貢献するものだと考えます。
「平等」という一定の基準を作ることが私としては非常に重要だと思うからです。
最後にまた異なる格差問題として「情報格差」について少しお話して終了いたします。
ここでの情報格差というものはインターネットの利用率の差から考えることにします。
以下のデータを見てみましょう。
世帯年収別のインターネット利用率の調査結果です。
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先ほどの相対的貧困の定義から127万円以下に注目するとインターネットの利用率は5.4%です。
このグラフからもおおむね世帯年収が増加するにつれてインターネットの利用率が高い事がうかがえます。
現代において情報を入手する手段をインターネットに限定しましたが、そのうえで世帯年収別にみると情報を入手する機会がそもそも差があり、このようなスタディークーポンのことやそれに限らず子どもの貧困から抜け出す手段を知らない可能性があります。
実際に私が通信制高校の営業をしていて、学費面が懸念点として挙げられる方に就学支援金があることをお伝えしたところ、その制度自体を知らなかったと仰られていました。
このように情報格差も貧困や格差(教育格差や体験格差など)の拡大に繋がってしまう可能性がはらんでいます。
情報を入手することができれば、非営利団体の活動に参加してそこで体験格差や教育格差の解消になるかもしれません。
その意味でも今回の体験格差に限らずともあらゆる格差の中で情報格差の是正が鍵になってくるのではないでしょうか。
情報格差というものに関しては、まずは保護者の方や子どもたちで調べることが大切ですが、先ほどの世帯年収別のインターネット利用率を見ると、第三者が情報提供をしなければならないと私は思いますので、負担を強いるような言い方にはなりますが、学校や自治体で積極的にアナウンスする事が大切だと考えます。
体験格差について気になった方は以下の動画や本をご紹介いたします。