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#2 旅の支度

旅の前夜、部屋の片隅にひっそり佇んでいるキャリーケースを引っ張り出し、荷造りをするひとときが私にとって至福の時間である。

 普段は黒子として部屋に溶け込んでいるキャリーケースが、一気に主役になり輝く瞬間なのだ。
 
フィルムカメラ、一眼レフ、チェキ、旅日記、万年筆を1つ1つ大切に詰め込むといった光景は、第三者からすれば、「単なる荷造りの作業の1つ」としか見えないと思うが、私にとってこの数秒間は全く違う意味をなしている。

それは、「レトロなトロッコ電車に乗り、窓の外に一面広がる田園風景をゆったり眺めながら、明日から始まる旅に想いを馳せている心情」と類似しているかもしれない。

そんなことを考えながら、私は旅に向かうわくわく感を、しっかりと噛み締めながら夜を過ごしている。

また、出発前の晩の自分の心の状態を比喩でたとえるならば「真っ白なキャンバス」という言葉が私の中でしっくりくる。つまり、何も描かれていないキャンバスだからこそ、一歩旅に踏み入れた途端、無限の絵を描ける可能性を存分に秘めていると捉えることができるだろう。

旅は想像可能な範囲の出会いに加えて、予想不可能の出会いに巡り会えたときが、嬉しさが何十倍も掛け合わさり、充実度を覚えるものとなると確信している。

想定外の絶景との出会い。ルートを急遽変更したことによって生み出された温かい人間関係。列挙すればきりがないが、今までの数えきれない旅路の途中、私は予想不可能な出会いにとても心がほっこりする瞬間が多々あった。

「何もないから、全てが始まる。」
これは、私が好きな言葉で、旅を表す言葉でもあるような気がしている。

あぁ。。。
幸せな溜息が、ふと出てしまう。
こんなふうに、明日から始まる旅のことを考えている時間でさえ、既に愛おしくて幸せになっている。ずっとこの想いに浸っていたい気持ちは山々だけれども、気づけば太陽が昇り朝になってしまいそうなので、今日は窓の外の三日月をじっくり眺めて部屋の灯りを消すのであった。

おやすみなさい。





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