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フォリア工房のムラ染系の仕事について・1

*全面ロウムラ加工について*

「全面ロウムラ加工」というのは主に「白ロウ」という、防染力が弱めのロウを生地全面にベッタリと置いて、その上から染料を擦り込み、ムラ加工をする事です。

着物の表地ならだいたい38cm幅×13.5mぐらい、名古屋帯なら36cm×5.5mぐらいの長さ全部に、白ロウをベッタリと置きます。

その際、着物なら白ロウは2kg程度、ロウを取るためのわら半紙は500枚程度使います。

一度目の仕上がりが今ひとつの場合は、再度、同じ加工を繰り返します・・・実に多くの材料と労力を使う、かつ力技的な技法です。

「全面ロウムラ加工」という呼び名は、風情の無い実際の加工そのままの呼び名ですが、工房でそう呼んでいて、納品伝票にもそう書いていたら、そのまま業界に定着してしまい、その呼び名になってしまいました。

この技法についての詳細はこちらのnoteの記事に譲りますが(文章が長いです・・)今回の記事ではザックリと概要をお伝えいたします。

布にムラ系の加工をするのは「厚みのある雰囲気を出したい」「危うい感じを出したい」その他、いろいろな理由があります。

当工房が、ロウを使ってこのような加工をするのは「生地の風合いを可視化するため」と「後染め(いわゆる染め物)」ならではの危うさを出したい、という所が主眼です。

「生地の風合いの可視化」というのは、例えば生地が二種類あって、片方はザックリした紬、もう片方が繊細な感じの三越ちりめんといった場合、その個性をより強調する、という意味です。

紬生地に全面ロウムラ加工をしたもの。何もしない無地の状態よりも、紬のザックリした感じが強調されています。
三越ちりめんに全面ロウムラ加工をしたもの。細かいちりめんの凹凸が強調され、粉を吹いたようなニュアンスが出ています。

画像のような感じに「生地の風合いを可視化」出来るわけです。

それと、焼締めの陶器のような危うさが出ています。

日本人は伝統的に「素材感」が大好きです。ですから、特に工芸品や仏像、建築、その他の物事で、素材感が強く出ているものを好みます。そこで、布では今まで無かった素材感を乗せた「現代和装」を出して行きたいと思い、このような仕事をするようになりました。

これは「現代、なぜ手染めするのか?」という問の答でもあります。このような加工は、布や染材と対話しながら瞬間瞬間を観察し、手で仕上げて行く事で初めて可能になるからです。

無地だけではなく、柄物の背景に全面ロウムラ加工をする事もあります。

紬着物「早春の芽吹き」糸目友禅の文様の背景に全面ロウムラ加工(草木染)

例えばこの着物・・・
(古いフィルムをスキャンしたものなので、画像が悪いです)

こちらは、早春の植物の背景に、これから緑あふれる季節になる手前の状態・・・草と土との両方をイメージ出来るような背景を全面ロウムラ加工によって作りました。

紬名古屋帯「桃山の藤」糸目友禅に全面ロウムラ加工
上記名古屋帯の前柄部分

上画像は紬の名古屋帯です。

これは、桃山時代の着物の藤の文様・・・それは刺繍で、刺繍糸が経年変化で崩れているものでしたが、その崩れた糸の具合も魅力として文様に取り入れて制作しました。

桃山時代の文様の荘厳さをさらに強調するために、地色部分に「全面ロウムラ加工」をしました。

紬着物「流水」・全面ロウムラ加工に波線のエッチング加工

全面ロウムラ加工のバリエーションとして、こんなものも制作します。

こちらは大変手のかかった仕事で、一度、着物一反分全てに「白ロウ」を置きます。それから、特別に作ってもらった「波線の定規」をロウを置いた生地に当て、目打ちでロウを削って行きます。

その上から染料を擦り込む事によって、ロウを削った部分には染料が入り、版画のエッチングのような線が出ます。さらに、全面ロウムラ加工独自の生地の風合いが出ます。

紬着物「土の詩」白ロウによる線描きの上から染料の擦り込み

上画像は、全てロウを筆で一本一本、線を引き、その上から濃い染料を擦り込む事でこのニュアンスを出しました。

仕立で衿その他の段が合うように、仮絵羽してから加工してあります。

この仕事では、常に同じ方向に筆でロウを置く事により「ロウの線の濃淡のグラデーション」を出しています。それを仕立で互い違いになるようにしてあります。

紬ろうけつ着物「土の詩」着用例

着物だけを飾った感じでは、一見、抽象絵画のような感じですが、実際に着てみると、上画像のように、泥大島を着るのと変わらない感じに着られます。

三越ちりめん着物「石畳」マイクロワックスによる加工

上画像は、ちりめん地に、ロウをブロック状に置いて行ったものです。

こちらは、防染力が弱い「白ロウ」ではなく、防染力が強めで、かつ滑らかで割れにくい「マイクロワックス」(低温マイクロワックス)というロウを使っています。

なので、色のかぶり方が滑らかです。

この仕事では、まず下絵を描き、それからベージュ色に染め、その上からマイクロワックスを小さい四角形一枚分ずつ置いて行きます。それから、紺の染料を擦り込んでこのニュアンスを出します。

こちらも大変手のかかるものです。

これらの着物や帯を、単体で観ると「うわあ、激しいなあ」とか「こんな激しい着物、着られるの?」などど思われるところがありますが、実際に本仕立てをして、取り合わせると当たり前に着られるどころか「むしろ色々なものと取り合わせやすい」という事になります。

そのような「現代人が、現代の着物を手作りする意味」を追求する姿勢から、産まれた加工方法です。

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