【読書記録#82】 北天の星
<2023年7月3日にインスタに投稿したものをシェアしています>
北天の星
吉村昭 著
鎖国令下にロシア艦が蝦夷に来襲し、拉致された五郎治はオホーツクに連れて行かれ、そこで貧困や差別など、壮絶な経験をしながらも、同じく拉致された左兵衛とともに逃亡を試みるが、途中で五兵衛は命を落としてしまう。一人残された五郎治はその後、捕らえられ、オホーツクに戻る。そこで、ロシア人医師から天然痘のワクチンの方法を学び、帰国後、松前で天然痘の種痘に成功する。本人は知らなかったが、日本で最初に天然痘のワクチン接種を広めた。そんな中川五郎治の壮絶な一生のお話。
以前、吉村先生の、笠原良策が主人公の「雪の華」を読んだのだが、彼よりも前に、実は東北で天然痘の種痘が行われていたことや、下巻の最後の方に「笠原良策」が登場したり、先日読了したばかりの「落日の宴」に登場する「プチャーチン」や「ディアナ号」にもちらっと触れられている部分があり、本書とリンクしていて更に面白く感じた。
「落日の宴」や本書を読んで感じたのは、当時の日本人は、今の日本人にありがちな外国人、特に欧米人い対して、馬鹿みたいにヘラヘラ愛想笑いをしてみたりせず、誠実でありながら、言うべきことははっきり言い、決して妥協しない姿勢に好感を持った。
鎖国下で、外国人との交流も漂流民や、一部の外国人に限られていたが理由の一つに挙げられるかもしれないが、「日本人としてのプライド」や「日本を守る」と言う強い思いがあったからなのではないかと思う。
また、読み書きそろばんができた彼を対日インテリジェンスの活動要員とさせるべく、ロシア政府は、五郎治のように拉致された日本人で既に洗礼を受け、現地人と結婚し帰化した日本語教師の日本人たちに会わせたり、若くて美しいロシア人美女をお手伝いとして自宅に送りハニトラにかけたりしたが、そんな誘惑に負けない五郎治の心の強さにも好感を持った。
帰国後の五郎治の生活は、辛いロシアでの生活と一転して、順調にを出世し、家族も持ち、奇跡が重なって、天然痘の種痘所を開く。そして、種痘業で、金銭的にも余裕のある生活を送ることになる。しかし、ロシアにいた頃は、種痘を日本に広めて、多くの日本人を救いたいと思っていたが、年を重ねるごとに、それで生活を支えていた彼は仕事を取られることを恐れ、種痘の方法を他人に伝授することに消極的になり、尋ねてきた医者の雄蔵に方法は教えたが、肝心な種苗を譲ることはしなかったことによって、せっかくの種痘が、松前や函館の限られた地域にとどまり、残念ながら全国的に伝わらなかった。
長崎で最初に種痘に成功したと言われたのが日本で初めてのケースと言われていた25年前に実は既に五郎治が東北で種痘をおこなっていたと言う事実が後に知られるのだが、もし、五郎治が初心を忘れず、利他的でいたら、もっと多くの日本人を天然痘から救えたであろう。しかし、学んだ技術をそう簡単に他人に伝授しない時代であったので、五郎治を攻められないなと思った。
過酷なロシアでの生活を生き抜き、言葉の壁がありながらも怖気付くことなく、毅然とした態度でロシア人と接した姿や、限定的ではあるけども、天然痘を広めた中川五郎治と言う日本人が先人にいたことを知れてよかった。
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