1. 心不全の症状――あとから思えばあれもこれも
2023年3月22日、私は近所のクリニックで胸水がたまっていることを指摘され、大学病院に救急搬送されました。
そこでくだされた診断は、なんと心不全。
もう驚いたのなんのって。
そもそも胸水がたまっていたこと自体びっくりでした。
そんなことが起きているとは夢にも思わず、なんだか胃が痛くて喘息っぽいからお薬を出してもらお、と最初はそれだけのつもりでクリニックへ行ったのですから。
でも、あとから思うと、異変は2カ月ほど前からチラホラ出ていました。
なかには「これが心不全の症状になるの?」というものもあり、自分が経験しなければ知り得なかった知識を、ぜひともここで皆さんにもお伝えしたいと思います。
救急搬送2カ月前
胸の痛み
さまざまな症状のなかで最初に感じたのは胸痛でした。
といっても、はっきりした胸の痛みを感じたのはこのとき1回きり。
よくドラマなどでは、心臓病患者が「ううっ」と苦しげに胸をかきむしる様子が描かれますが、そういうのは心筋梗塞とか狭心症のときで、心不全の場合はそれほど激しい胸の痛みというのは少ないように思います。
でも、このときの痛みはけっこう強く、散歩に出て5、6分ほどした頃に、突然、ズキンときました。
2015年に大動脈解離の手術を受けて以降、たまに胸痛らしきものはありましたが、正直、胸の痛みって本当に心臓が痛いのかどうかイマイチ曖昧だったりするんですよね。
心臓かもしれないし、胸筋かもしれないし、どっちかなあ、なんて。
ところがこの日は、最初の「ズキン」のあとも、歩くごとに鼓動と合わせてズキンズキン……。それも、はっきりと「心臓が痛い」と感じられる痛みで、怖くなってすぐに家へ引き返しました。
幸い家に着く頃には痛みがおさまり、その後はなんともありませんでしたが、たまたまその数日後に大学病院の受診予約が入っていたので主治医にこの話をしたところ、すぐにレントゲンを撮ってくるよう言われました。
先生曰く――
あなたは3カ月前に自転車との接触事故で肋骨を折っているから、その影響で肺気胸になっている恐れがある。
肺気胸はマルファン症候群の患者によくある症状でもあるから念のため、とのこと。
(病歴については下記の自己紹介ページをご覧ください)
肺気胸というのは、肺に穴があいて空気が漏れ、胸痛や息切れを起こすもので、マルファン患者ではそれが起こりやすいといわれているんですよね。
ただし、マルファンの場合は自然気胸という分類になり、一般的には交通事故などによる外傷性気胸が中心。
今回はそのどちらにも該当し得るということで、上のような主治医の判断になったものと思われます。
自転車との接触事故についてはいずれあらためて記事をアップする予定ですが、とりあえずこの日のレントゲン検査の結果はシロ。
最初に書いたとおり、胸痛があったのは散歩のときの1回きりで、その後は同じ痛みを感じることはありませんでした。
救急搬送1カ月前
だるさと疲れやすさ
胸痛があってから1カ月ほどあとのことです。
買い物があって地元のショッピングモールへ行ったのですが、ブラブラ歩いていてもなぜかすぐに疲れてしまい、途中で何度もベンチを見つけて座り込んでいました。
おかしいな、運動不足で体力が落ちているのだろうか。それともこのだるさは風邪のひきはじめ?
首をかしげつつも、このときはまだ異変とはいえないくらいの、ごくささやかな体調の変化でした。
痰が増える
ちょうど同じ時期から、とにかく痰が多くなりました。
これが心不全の症状であることを知っている人は、あまりいないのではないでしょうか。私も入院して初めて知りました。
痰が出るのは、心臓の働きが悪くて血液を充分に送り出せず、肺に水が溜まるのが原因とのこと。
つまりこの頃から胸水がジワジワと溜まりはじめていたということですね。
痰が特にひどかったのは夜、寝ているときです。
喉がふさがれたような息苦しさで目が覚め、明け方に起きて洗面所へうがいをしに行く。そんなことが何度となくありました。
朝起きたときも、まずは洗面所に直行。
おかしいなあ。なんだろうこれ。
徐々に体調に不安を覚えることが増えはじめた時期です。
救急搬送2週間前
片頭痛
この頃から、片頭痛が頻繁に起こるようになりました。
片頭痛って、閉経後にはあまり出なくなることが多いらしいですね。
かくいう私もそういうお年頃。
40代に入った頃からさんざん悩まされた片頭痛も、気がつけば症状が出るのは年に数回、病院へ薬をもらいに行くのは数年に1度となっていました。
それが、搬送2週間前の頃から毎朝、目が覚めるたびに頭が痛い。
二日酔い? いやいや、そんなに呑んじゃいないぞ(お酒は毎晩飲んでいました)。
やっぱり風邪気味なのかな。それとも花粉症の影響?
そんなに強い痛みではないし、もしかすると普通の頭痛かとも思いました。
でも、専用の薬(私が服用しているのはクリアミンAという薬です)をのむとおさまるので、やっぱり片頭痛のよう。
そしてこの痛みは、しだいにひどくなっていったのです。
あ、でも――。
片頭痛が心不全の症状であるとは、たぶんどこを調べても出ていないと思います。
これはあくまで私個人の体験としてお読みください。
血圧の上昇
血圧が少しずつ上がりはじめたのも同じ時期でした。
大動脈解離後は、主治医の指示で毎朝、血圧を測っています。再解離を予防するために降圧剤をのんでいるせいか、普段の数値は上が110台前半、下は60台後半といったところが平均値。
それがこの頃から毎朝、上が120を超えるように。
数値的にはまだたいした変化ではありませんが、今、記録を見直してみると、この時期を境にはっきりと血圧が上がりはじめているのがわかります。数日後には140を超える日も出はじめました。
救急搬送11日前
体重の増加
私は2年ほど前に糖質制限をして、いちばん太っていたときから体重を15キロ減らしました。
その結果、身長175センチで体重は57キロ台。BMIは18台後半に。
2年も制限していると体が慣れてくるのか、少々多めに糖質をとってもあまり体重が変化しなくなりました。
それなのに、この時期は1週間かそこらでいきなり60キロを超えたんです。
そう、次なる心不全の兆候は体重の増加でした。
むくみ
たしかにこのところ糖質をとりすぎていたかも、とひそかに反省した私。
ずっと一緒に暮らしていた息子は前年から一人暮らしをはじめましたが、ときどきわが家に来ては夕食をともにしています。
2日前には夜更けまで2人で酒盛りもしたしなあ。
反省反省。もう一度しっかり褌の紐を……いや、ベルトの穴を縮めよう。
でも、問題はそこではなかったのですね。
体重が増えたのは、むくみが原因でした。
救急搬送10日前
心窩部痛(みぞおちの痛み)
少し前から胸焼けは感じていましたが、それが胃痛らしきもの(と自分では思っていた)に変わったのがこの頃。
ある夜、布団の中で仰向けの体勢から左向きに寝返りを打った瞬間、みぞおちから喉元まで突き抜けるように、ズッキーンと激痛が走りました。
ありゃ、これはマズいな。本気で節制したほうがいいかも。
でもこれ、胃じゃなくて逆流性食道炎かもしれないなあ。去年、胃カメラを受けたときに軽くその傾向があると指摘されたし。
そう思って、とりあえず毎日の晩酌をやめてみました。
でも、これも〈あとから思えばシリーズ〉のひとつで、ズッキーンと痛んだのは胃でも食道でもなく、心臓だったのではないかという疑惑。
よく言うじゃないですか。
心臓が悪いからといって、必ずしも心臓が痛くなるわけではないって。
救急搬送9日前
頭痛、胃もたれ、脚のむくみ
少し前から感じていた片頭痛、胸焼けや胃の痛み、そして脚のむくみがいよいよ本格的になってきました。
加えて花粉症による目のかゆみまで出てきてしまい――。
この春は花粉の飛散量が例年の数倍増しといわれていたこともあって、ネットでアレルギー薬を注文しました。
一般的には花粉症で服用するのは鼻炎薬なのでしょうが、この年は目のかゆみがいちばん気になっていたので、皮膚のかゆみに効く、ついでに鼻炎にも効く、という抗ヒスタミン薬を購入。
でも、届いてからちょっと思ったんですよね。
あれ? この薬、前にものんだことない? のんだあと、どこかが具合悪くなって、服用を中止したような。大丈夫かな。
でも、目のかゆみに耐えられず、ついにのみはじめてしまいました。
また何か副作用が出たら、そのときにやめればいいや、と思って。
脚のむくみに関しては、いつも春先に出て、そのたび体重が3キロ前後増えるので、このときはあまり深刻に考えていませんでした。
救急搬送8日前
さらなるむくみと息苦しさ
朝起きて、鏡を見てギョッとしました。
顔がパンパンにむくんでいる。
体重は61.5キロになっていました。普段より4キロほど多い。
胃の痛みも相変わらずだし、頭痛もしっかりありました。
なのでこの朝は、いつものんでいる心臓外科からの処方薬4種類に加え、前に地元の病院でもらった胃の薬3種類と、片頭痛の薬、片頭痛の薬をのむと吐き気が出てしまうのでそれを抑える薬、さらに市販のアレルギー薬と、合計10種類の薬をのむ羽目に。
花粉症による目のかゆみはアレルギー薬のおかげでおさまりましたが、軽く喘息っぽい症状が出はじめていました。
息をするたびに喉の奥でパリパリと乾いた音がするんですよね。
喘息の発作が出たのは四半世紀も前で、あとは10年ほど前にインフルエンザ後の咳が長引き、それがきっかけで軽い症状が出たきりでしたが、たまにこんな状態になることがあります。それにしても、胃痛、片頭痛、喘息っぽさ、ひどいむくみ。。。
いろんな症状がいっぺんに出てきて、なんだろう、いったいどうしちゃったんだろうと首をかしげました。
とはいえ、この日は確定申告に行かねばならず、10分ほど自転車をこいで税務署までの道を往復しました。
例年なら滅多に行けない神社仏閣までついでに足を延ばすのが楽しみだったりするのですが、この日は胃の痛みが気になって、申告書を提出するとまっすぐに帰宅しました。
救急搬送5日前
小康状態?
図書館へ本を返しにてくてくと15分ほど歩き、帰りはスーパーで大量の買い物もして(その店は野菜が安いんですよー)、フツーに帰宅した日。
あとから考えても、意外なほど元気に過ごせた日でした。
ちょうど桜の開花予想日に当たっていたため、わざわざ少し遠回りをして、桜並木のある道を通ったほどです。
たしかにポツポツと桜の花が開きはじめていました。
こんなふうに、それまでの体調不安を忘れて元気に過ごせる日もあるから、よもや心臓がどうかなっているだなんて思いもせずにいたわけです。
救急搬送3日前
だるさと呼吸困難
さあ、桜はどのくらい咲いたかな。
それを楽しみにまた少し遠回りをしていつもの散歩に出たのですが、途中でどうしようもないだるさに襲われ、やむなく家へ引き返しました。
そのうえ――
私は1年ほど前から〈寝たまま瞑想〉というのをしてまして。
寝たまま、という名のとおり、座禅を組むのではなく仰向けに横たわって瞑想するんですよね。
瞑想の基本はゆっくりとした深い呼吸法。
なのに、数日前からその呼吸ができなくなっていました。
深く息を吸おうとしても胸が苦しくて途中で咳き込んでしまう。
なので、早々に瞑想を中断するということが2度ほどありました。
やっぱり喘息気味なんだろうなあ。
そう考えて、数年前にやはり息苦しかったとき、クリニックで処方してもらったメプチンエアーという吸入薬を使ってみることにしました。
処方はしてもらったけれど結局使うことはなく、お守り代わりにずっと持っていたものです。
吸入は就寝直前にしました。
横たわると息苦しくて、夜寝ていてもしばしば目を覚ますようになっていたからです。
効果はてきめんに現われました。
でも、「すごーい、息が楽になった!」と思ったのも束の間、まもなく手が震えはじめました。
さらに激しい動悸と不整脈――。
もともとホクナリンという気管支拡張剤で同様の副作用が出ることはわかっていたのですが、メプチン、おまえもか。。。
それはともかく、このときの体を横たえると息苦しくなるというのは、喘息が原因ではなく心不全のせいだったのです。
例の胸水が、もうヤバいくらい溜まっていたってことですね。
救急搬送2日前
浴槽に浸かれない、眠れない
これは別な吸入薬をもらってこなければと、翌日さっそく近所のクリニックへ出掛けていきました。数日間、服用した胃薬もなくなりかけていたので、それもついでにもらってこようと思ったわけです。
このクリニックでは、1年ほど前にやはり胃の調子が悪くて胃カメラを撮ってもらったことがあり、逆流性食道炎を指摘されたのもそのときでした。
今回、診察してくれたのは初めて会う非常勤の消化器外科の先生。
そもそもここは〈胃腸科内科〉の看板を掲げている病院です。
どうしました? と訊かれ、だるさとむくみと片頭痛に、喘息のような息苦しさ、胃の痛みが、ここ数日間でいっぺんに始まったんです、と訴えました。
花粉症対策でのんでいた市販のアレルギー薬の副作用かもしれないと思って、その薬はのむのをやめました、という話も。
さらに、吸入薬で副作用が出たのでほかのものを処方してほしいこと、胃薬がなくなりかけているのでそれも欲しいことをつけ加えました。
先生は私の希望どおりに処方箋を書き、
「何か検査しておきますか? レントゲンとか」
と言いましたが、私はとりあえず薬と吸入で様子をみたいからとレントゲンは断りました。
「でも、急にあちこち具合が悪くなった原因は知りたいので、血液検査をしていただけますか?」
これも了解を得て、会計をすませると院外薬局へGO!
ところが薬局では、胃薬はあるけれど、吸入の在庫がないという。
「いちばん早くて明後日のお昼過ぎになるんですが」と、薬剤師さん。
なぜ明後日かというと、翌日が春分の日で休業だったのです。
ああ、なんてこと。
今夜とか、明日の夜とか、息苦しくてどうしようもなかったらどうすればいいんだ。しかも、明後日またここまで来なければならないなんて。
でも、ないものはないのだからしょうがない。
あきらめて家へ帰りました。
そしてこの日の夜、入浴中のことです。
私は夏でも湯船にお湯を張り、しっかり顎まで浸かりたい派。
なのでこの夜も当たり前のように体を湯に沈めました。
ところが――。
みぞおちあたりまでは特にこれといっておかしなことはなかったんです。
が、そのあと肩まで体を沈めると、いきなりグワーッと水圧が押し寄せてきて胸を締めつけられ……。
お、溺れる。。。
息ができなくなってあわてて立ち上がり、湯から出ました。
湯船に浸かっていられたのはわずか3秒ほど。
何これ、何これ、何これ??????
軽くパニックになりかけましたが、仰向けになると深呼吸ができず、相変わらず〈寝たまま瞑想〉を中断する日が続いていたので、湯船に浸かれないのも当然だ。喘息のせいだと、あまり深く考えないようにしました。
夜間もやはり寝苦しく、何度も目が覚めてろくに眠れませんでした。
救急搬送前日
尋常ではないだるさ
春分の日の夕方、いつもの散歩に出ました。
が、1分もたたないうちに尋常ではないだるさに襲われ、これはあかん、と散歩は断念。買い物だけしようとスーパーに向かいました。
幸い、うちの団地のすぐ隣が大型スーパーなんです。
ところが、入り口から少し歩いただけでもう全身よれよれ。よほど家に帰ろうかとも思ったのですが、どうしても買いたいものがあったので、カートにしがみつくようにしてなんとか店内を一巡しました。
レジをすませたら、ちょっと身体が楽になった気がして、「うん、これなら散歩に行けるかも」と、入店したときとは反対側の出入り口へ。
めまい
スーパーを出てすぐ目の前の横断歩道を渡ろうとしたとき、かなり強烈なめまいに襲われました。
かろうじて倒れることはまぬがれたものの、かなりの動揺。
どうしよう。
こんなの初めてだ。
座りたい。
どこか……ベンチ……。
ここでも家に帰ることを一瞬考えましたが、入店するときとは反対側の出入り口に来てしまったため、家までは200メートルほど歩かなければなりません。それよりも、目と鼻の先に見えている階段を下りて川沿いの遊歩道に行けばベンチがあったはず。
落ち着いて考えれば振り返ってすぐのところに買い物客用のベンチがあったのですが、このときはまったくそれに思い至らず、とにかく横断歩道を渡るあいだだけでも倒れないようにしなければと必死でした。
思ったとおり階段を下りると目の前にベンチがあって、座って少し休んだら、なんだかだるさが取れたような気がしました。
そうなんです。
動くと苦しいけど、じっと座っていれば普段となんら変わりなく、なぁんだ、たいしたことなかったじゃないと高をくくってしまうんですよね。
なので、少し休んで元気になった私は家とは逆方向のいつもの散歩コースに向かって歩きだしました。
なぜこれほど散歩に執着したのか自分でもよくわかりませんが(笑)、この期に及んでも「このだるさは運動不足によるもの」という思い込みがあったのでしょう。
それと、散歩コースの途中にはいつも必ず立ち寄る小さな神社があって、こんな体調のときだからこそお詣りしたかったんですよね。
でも、無理でした。鳥居のすぐそばまで行ったものの、結局、苦しさに負けて志なかばでUターン。
家までの距離は500メートルほどに延びてしまい、途中で何度もベンチで休み、休んではまたよろよろと歩きだし、やっとのことで帰宅しました。
家に帰ってひと息ついて、ようやくこのだるさは尋常ではないと認めました。
それにあのめまい。あんな強烈なのは初めてだった。
立ちくらみとか、ふらっとするとかいう次元ではなく、一瞬まわりの音も景色も消えて、そう、文字どおり別な次元に飛んだかと思うほど。。。
そしてこの夜、またしても入浴中に息苦しさで3秒と湯船に浸かれず、そのときふっと、先月の大学病院でのやりとりを思い出したのです。
肺気胸――。
そうか、きっと肺がどうかなってるんだ。
だからこんなに息苦しいんじゃない?
前日に行ったクリニックへは、血液検査の結果を聞くため1週間後に行くことになっていました。でも、こうしちゃいられない。
明日行って、レントゲンを撮ってもらおう。
どのみちクリニックのそばにある院外薬局へ吸入も取りに行かなきゃならないんだし。
お風呂から上がって鏡台の前で髪を拭きながら、かなり白髪が目立ってきていることに気がつきました。いつも自宅でセルフ染めなのですが、最近は何をするのも億劫で、染めなきゃ、染めなきゃと思いながら一日延ばしにしていた結果です。
明日、このまま入院なんてことになったらどうする?
ちらりとそんな考えが頭をよぎりましたが、「いや、まさかね」と自分をなだめるように打ち消しました。
そのまさかが現実になろうとは、そして後々たいへんな事態を引き起こすことになろうとは、このときの私にはまだ知るよしもないことでした。
(つづく)