レポート:競争から協力へ。14ヶ国で翻訳された市場経済コンセプト『公共善エコノミー』とは何か?を翻訳者と共に探求する
先日、クリスティアン・フェルバー著「公共善エコノミー」の翻訳者である池田憲昭さんとの対話会『欧州で話題のムーブメント「公共善エコノミー」って何?』に参加していました。会のファシリテータは株式会社URUU代表取締役の江上広行さん。
今回のイベントは「ドーナツサロン」という、気候変動×金融・経済について探求・実践する有志の集い(気候Switch)の催しの1つとして企画されたものだったとのことです。
以下、その場での学びの一端を振り返りながらまとめたものです。
ドーナツサロン『欧州で話題のムーブメント「公共善エコノミー」って何?』の背景
主催:気候Switchについて
気候Switchは、2021年2月に開催された『気候SWITCHプレゼンツ「キコウキキとわたしたちのしあわせ」』という2日間のワークショップ以降、継続的な活動が開始された有志の集いです。
そして、気候Switchはドーナツサロンというサロンを継続的に開催しています。
現在、気候Switchはfacebookでの活動が中心であり、これまで開催されたイベント情報やアーカイブ動画なども以下のグループから確認することができます。
気候変動や地球環境について経済を考えるということであれば、ドーナツサロンのドーナツとは、経済学者ケイト・ラワースの提唱した「ドーナツ経済」の「ドーナツ」なのでしょうか。
今度、ドーナツサロン開催の際などにあらためてその由来について尋ねてたいですね。
国内の公共善エコノミー・ムーブメント
『公共善エコノミー(Gemeinwohlökonomie)』は、オーストリア・ウィーン在住のクリスティアン・フェルバー(Christian Felber)によって提唱された新たな経済コンセプトです。
2010年に同名の書籍がドイツ語で出版され、以降改訂を重ねながら現在では世界14ヶ国語で翻訳されているとのことです。
本書の翻訳者である池田さんは現在、ドイツのフライブルグ近郊の街・ヴァルトキルヒ(Waldkirch)にてドイツの森林、環境視察セミナーのオーガナイザーの他、コンサルタント、通訳、翻訳などの活動をされており、ご自身の著書の中でも『公共善エコノミー』の考え方を紹介されています。
2020年。初めて本書を手に取り、感銘を受けた池田さんは著者フェルバー氏に日本語翻訳の打診し、快諾してもらったとのことでした。
宮崎県の出版社・鉱脈社から邦訳出版されることとなり、2022年8月にはクラウドファンディングも始動。
2022年12月に出版されることとなりました。
今年2023年1月には、著者クリスティアン・フェルバー氏が登壇するオンライン出版記念イベントが開催されました。
さらに今年2月には、気候Switchのメンバーでもあり、株式会社URUUの江上広行さんがファシリテータを務める形で、本書を題材にアクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)読書会が実施されるなど、これからの日本の経済・社会をつくっていくムーブメントとして徐々に広まりつつあります。
私自身が『公共善エコノミー』を知ったのは、上記のような流れもありつつ、日々お世話になっているCLUB SDGsの福島由美さんがシェアされているのを拝見したことがきっかけでした。
私の実家は米農家を兼業しており、父から継いだ今では田んぼの土や、田んぼに流れこむ水、かつては田んぼにいた蛍が少なくなってきていること等から自然環境や気候変動の影響をダイレクトに感じるようになっていました。
実は昨年12月に書籍を購入して以来、積読になっていたのですが、今回の会が開催されることを知り、まずは池田さんのお話を伺ってみよう!と思い立って参加することにしました。
以下、その際の学びを抜粋しつつまとめていきます。
公共善エコノミーとは?
池田さん曰く「公共善エコノミー」とはホリスティック(包括的)な経済コンセプトであり、経済を哲学、心理学、環境学、文化人類学といった様々な分野と結びつけながら書かれています。
元はドイツ語のGemeinwohlökonomie(ゲマインヴォールエコノミー)、英語ではEconomy for Common Good(ECG)。
通常、「共通善」と訳すところですが、原義の本来の意図に立ち返り、その上で日本に紹介するべく「公共善」との訳を当てたと池田さんは仰りました。
経済には、様々な学説、潮流や主義主張があります。
新古典派経済学、ケインズ経済学、新自由主義、ドーナツ経済、脱成長、ギフトエコノミー(贈与経済)、サーキュラーエコノミー、シェアリングエコノミーなど……。
そういった様々な学説、潮流や主義主張がある中で、「公共善エコノミー」は自然環境や人道に配慮した理論・コンセプトだけではなく、具体的な運動・アクション・ムーブメントを推し進めるための組織だった仕組みと、協働とインパクトを生み出す民主的なプロセスが準備されている経済コンセプトです。
公共善エコノミーでは、エコノミーの語源オイコノミア(Oikonomia)とクレマティスティケ(Chrematistike)を対比します。
OikonomiaはOikos(家)とNomos(またはNemu:道徳規範、規則、管理)。
つまり、本来のエコノミー(Economy)とは、家(国、共同体、社会)における道徳規範や規則、管理、家政などを表す語として生まれたのでした。
そして、アリストテレスは、クレマティスティケ(資産や利益を殖すことを目的とした活動)を禁止していました。
『公共善エコノミー』著者であるクリスティアン・フェルバーはダンサーでもあります。
とあるプレゼンの場面では冒頭、『今日の経済学はこうなっています』と前置きし、倒立(それがまた、とても美しい姿勢なのです)を始めました。
つまり、現在の経済は目的と手段が逆転している、とのことです。
公共善エコノミーは、このような状況にある今日の経済、社会に対して「理論・コンセプト(Theory of Change)」、「具体的な運動と体制・仕組み(Movement)」、「それらを実現していく民主的なプロセス(Democratic Process)」が準備されている、実際的なオルタナティブ(代替案)になりうると紹介いただきました。
さらに公共善エコノミーには「公共善決算」と呼ばれる従来の財務諸表とは異なる指標が存在します。
この「公共善決算」を取り入れた企業は世界で1000を超え、その多くが中小企業。あくまで草の根から始まるムーブメントであるというスタンスが取られています。
この先の内容に関して、詳しくはもう少し書籍の内容を読み込んでいこうと思います。
公共善エコノミーが日本に根づく上で、どのような形でムーブメントを広げていけるか?
会の後半では、日本企業の文化や精神性と公共善エコノミーの親和性、日本においてどのような形で公共善エコノミーが広がりうるか?といったテーマで対話が進められました。
自治体レベルで公共善エコノミーが実現されたらどうか?
協働相手として〇〇はどうか?
興味を持ってくれそうな経営者、士業さんがいる!
公共善エコノミーを実践していくための、教育はどのような形が良いのか?
ティール組織(10万部超え)のように広がらないかな?
日本に広がる上で、どのようなストーリーやコンテクストを描けそうか?
などなど、活発な意見も交わされていました。
その中で、池田さん自身も「読書会などが開催されるようでしたら、私も参加させていただきますよ」と仰っていただき、エネルギーの高い場になったように感じます。
私自身もこのムーブメントをフォローしつつ、随時情報や学びの場などには参加していきたいと思います。
今後も、国内の公共善エコノミーにおける情報は以下のグループに集まるかと思いますので、よろしければグループもご覧ください。
このまとめを経て、私自身もこのホリスティックな経済コンセプトがどのように広がっていくのか楽しみになりました🌱
書籍の読み方に関しても、池田さん曰く「1章と2章、特に2章に凝縮されていますのでまず、ここを読んでみてください」とのことでしたので、再びここから読み返してみようと思います。