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紫がたり 令和源氏物語 第九十四話 須磨(一)
須磨(一)
朧月夜の姫とのことが露見して、目立った行動は控えていた源氏の君ですが、大后はどうあっても源氏を追放するという確固たる信念を燃やし続けているようです。
朱雀帝は実は尚侍(かん)の君(=朧月夜の姫)の素振りから未だに源氏と続いていることはうすうす感じておられましたが、入内する前からの仲だからと黙認しておられました。
時折辛そうに目を伏せたりする尚侍の君の様子を見て、この自分の気持ちに正直な姫が気の毒で知らぬふりをしておられたのです。
それに女御や更衣といったお后という身分ではないので、咎める必要もないと事を荒立てないように思召していらしたのですが、どうやら大后が真実を知ったようで、毎日詮議に出席しては源氏追放を烈しく訴えるのです。
帝は源氏の政治家としての手腕を高く評価しておられましたが、右大臣一派が朝廷を牛耳っており、帝ご自身のご意見もなかなか受け入れられないことを気に病んでおられました。
亡き父桐壺院の御遺言を守ることが出来ないのが心苦しく、源氏追放となればそれこそ父院に顔向けが出来ないと思召されて、源氏の処分にだけは頑迷に首を縦には振られません。
「帝がそのように弱腰ですから、源氏が大きな顔をして私達が軽んじられるのです」
大后は毎日のように帝の元を訪れては苦言を呈していかれます。
どうしたらよいものか・・・、帝は板挟みに御心を痛めておられました。
源氏はまるで生殺しのような気分でした。
しかしここで自暴自棄になり大后につけ込む隙を与えれば、天下の大罪人として都を追われることになるでしょう。
今は辛抱と息を潜めて動向を伺っているのです。
この時代「死罪」が命をもって罪を贖う一番重い刑です。
朝廷に対し企みを持った者(謀反を企てた者)などが処せられますが、実際に蜂起した者に与えられるもので、源氏は身分も高く、そのような罪を犯したわけではありません。
次に重い刑の「流罪」は、官位を剥奪されて辺境の地へ流されることですが、どうやら大后は源氏にこの刑を与えようという魂胆です。
年が改まって自粛していても一向に源氏排斥の機運は収まりそうにありません。
もしも源氏が流罪になれば、源氏自身だけではなく、係累などにも大変な禍が降りかかることでしょう。
罪人の一族ということで引退された左大臣までも咎を受けることになるかもしれませんし、何より大切な紫の上が世の誹りを受けることになるのです。
世の中とは残酷なもので、罪咎人となると、略奪にあったり、家に火をつけられるなどして責められるのです。
愛しい人をそのような目には遭わせられない・・・。
源氏は「都落ち」を決意しました。
自ら官位を返上して都を辞去するのです。
そうすることでしかこの困窮を打開する手立てはないのでした。
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