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祖師ヶ谷大蔵から、本屋と喫茶店を巡る小さな旅の記録

7月の三連休の最終日に、ふと思い立って小田急線に乗り、祖師ヶ谷大蔵駅から本屋と喫茶店を巡る小さな旅をしました。これはその旅の記録です。

小さな旅の発端は、深夜の唐突な思いつき

深夜って、唐突に何か新しいことを思いついたりしませんか。しかも、数珠繋ぎに思いつきが展開していって、最終的に「これはとても素敵なアイデアだ!」と過剰に高く評価しがち。昨日がそういう夜でした。

▼深夜のツイート。ご覧の通り、思いついてます。お酒も入って気分が良くて楽しそう

シラフで見返した今、ひとつ申し訳ない点に気づいた。「そうだ、喫茶店に行こう!」とJR東海CMオマージュの発言をした直後に「小田急線に乗りたいな」と高速手のひら返しをしている。ごめんね。

そういうわけで、今日は小田急線沿線の喫茶店に行くことにしました。

小田急線に乗り、祖師ヶ谷大蔵駅で下車

小田急線に乗る前に、近所で立ち寄りたい本屋が2軒ありました。でも、どちらも開いていなかった。片方は定休日、片方は開店前。時刻は昼の11:50、なのにまだ開店前! 本屋より私の方が早起きだなんて嬉しい! 仕方ないナ〜移動するかァ〜とまんざらでもない気持ちで駅のホームへ向かいます。

比較的人が少ない各駅の下り電車に乗りたくて、ホームで2本の電車を見送りました。用事のない移動は自由で良い。目的地も約束の時間もないから、私が乗るべき電車はありません。乗りたければ、乗りたい電車に、乗ればいい。

「絶対に先頭車両に乗る、なぜなら電車主観の景色はわくわくするから!!」と意気込んで1号車に乗り込むも、運転席側からカーテンを閉められ撃沈。カーテンとか、あるのか。進行方向の景色は見えませんでした。

そして、祖師ヶ谷大蔵駅で降りてみました。祖師ヶ谷大蔵駅にはなんとなく、本屋と喫茶店がありそうだったから。ホームの景色が、普段よく使うどの駅とも違って、なんだか広くて、少し遠くに来た気分になります。

祖師ヶ谷大蔵駅のホームの景色

目的が無いと、街がよく見える

今日は、なんにも目的がないんです。「少し遠くの喫茶店に行きたい」というだけ。喫茶店の前に本屋に寄ったり少し散歩したりしたいだけ。別に、気が変わればそうしなくてもいい。だから、駅を降りても目指す先が無い。とりあえず、商店街の見える方面へ歩いてみます。

目的が無いと、街がよく見えることに気づきます。Googleマップを開かず、イヤホンも着けず、ただ歩く。すると、街のひとつひとつに普段より関心が向くようになります。

すれ違う人の会話も聞こえてきます。
運動帰りと見えるアクティブな服装の夫婦が「花でも買っていく?」と言って花屋に吸い込まれていったのが、すごく良かった。

「花でも買っていく?」って尊い台詞だよなあ

そのあとすれ違った別の人の会話も、また良かった。

「いろんな物語が、人それぞれにあるわけじゃん。そのストーリーを否定することは、私はできない。だけど、それがぬいぐるみだから悲しくて」

文脈は、全然わからない。わからないけれど、なんか良くないですか。ぬいぐるみ補修屋さん? リサイクルショップ? 遺品整理? 想像が膨らみます。

目的の無い、ただの散歩。歩くことそれ自体を楽しむ時間。こういうことが、ときどき必要だなと思います。

祖師ヶ谷大蔵の観光地「木梨サイクル」の写真は一応撮ってみた

本屋のアンテナショップで手に取ったのは、孤独の物語と、耽美な着物解説書

祖師ヶ谷大蔵の本屋を探すなかで、「BOOKSHOP TRAVELLER」というお店が気になり入ってみました。

路地を入ったところにある、こぢんまりしたお店。実は2階もある

お店に入ってまず思ったことは、BGMが良い。米米CLUBの浪漫飛行、大橋トリオver.のラブリー、KIRINJIのエイリアンズ、PUFFYのアジアの純真。良いね〜。
書棚を見ると、棚ごとに独立書店の名前が書かれています。後で調べてみたところ「本屋のアンテナショップ+新刊書店」なのだそう。棚ごとに選書の性格が出ていて、眺めるだけでも楽しいです。

BOOKSHOP TRAVELLERとは

独立書店を応援する活動BOOKSHOP LOVER主宰の和氣正幸が営む「本屋のアンテナショップ+新刊書店」です。
少しずつ増えつつある独立書店の存在をもっと多くの人に広めるために始めました。そのために、全国各地の実店舗のある本屋、無店舗ながらイベント出店やインターネットで活動する本屋をはじめ、作家、zine/リトルプレスの著者、出版社、ブックカバー作家など本に関わるすべての人を広義の「本屋」と捉え、当店に出店していただいています。

本屋を旅する BOOKSHOP TRAVELLER

馴染みのない土地に出掛けたとき、その土地の本屋に入ってみる。本を自分へのお土産にする。その土地の思い出込みでその本を楽しむ。これは遠出するときの私の小さな楽しみなのですが、この書店ではそもそも「本屋を目当てに各地を訪ねる」というカルチャーを発信しているそうです。それも楽しいね。

さらに、当店は、本屋を目当てに各地を訪ねる「ブックショップトラベル」という、カルチャーを全世界に広めるための発信基地でもあります。
この場所で様々な本屋を知っていただくことで、実際に各地の本屋に行って欲しい。本屋という劇場をもっと楽しむために。BOOKSHOP TRAVELLERは今日も日々を営んでいます。

本屋を旅する BOOKSHOP TRAVELLER

一通り店内を楽しんで、2冊の本を買いました。

『百年の孤独』 ガブリエル・ガルシア=マルケス、鼓直/訳
『谷崎潤一郎文学の着物を見る: 耽美・華麗・悪魔主義 』中村 圭子、大野 らふ

「百年経ってもいかがわしい!!」最高のコピー

『百年の孤独』、読みました? 名作とは知りつつも、めんどくさそうで正直なかなか読めてなくないですか? 自分の場合、学生時代に勧められ気になったものの手を出せず、その後いろいろな本で引用され言及されているのを見るにつけ「読まなきゃな〜」とは思いながも挑戦できずにいました。
しかし、最近の文庫化で話題になり、Xでもトレンド入り、Netflixで映像化されるということで、外圧がすごくて。もう、いい加減読まずにはいられない、そしてこの波に乗らなければ一生読まないかも、と思いようやく購入に至りました。

『谷崎潤一郎文学の着物を見る: 耽美・華麗・悪魔主義 』、これは完全に私向けの本! 店に入って最初に目に止まり、一目惚れしました。だって、谷崎の作品は大好きだけれど、着物の描写がいまいちわからなくて。この感じだとモダンなんだろうな、華美なんだろうな、くらいの大雑把な印象で汲み取りながら読んでいたから。それを、谷崎作品を引用しながら着物の解説してくれているんですよ!しかも当時の資料に沿って再現された着物の写真付き!! ⋯⋯まあ真っ先にナオミの着物をチェックしましたね。あんな西洋趣味で奔放な女の着物、一番見たいじゃないですか。あと、女装の刺激に取り憑かれた男が主人公の『秘密』。この男は衣装への偏愛がすごいんだから。ビジュアル付きで解説してくれるのは有り難すぎる。時間のあるときにゆっくり眺めて愉しみたいです。

祖師谷大蔵の「それいゆ」と、成城学園前の「ソレイユ」

13時半頃、昼食とコーヒー休憩のために喫茶店へ。祖師ヶ谷大蔵駅近くのビルの2階にある「それいゆ」というお店に入りました。

喫茶店 それいゆ

お腹を満たしてゆっくりした時間を過ごしたあと、店を出て隣駅まで少し歩きます。向かう先は、成城学園前にある「カフェ ソレイユ」。同じ名前の喫茶店です。soleil(ソレイユ)はフランス語で太陽。次の太陽を目指します。次の太陽は煙草が吸えるらしい。

カフェ ソレイユ

⋯⋯休業日でした。
海の日だからね。

成城学園前の駅ビルに屋上庭園がありました。せっかく歩いて隣駅まで来たので、屋上庭園のベンチで少し一休み。

小田急線と千代田線の線路が見える

終着点は、代々木上原の喫茶室「茶望留」

夕方16時頃には成城学園前を出て、帰る方面に移動してから次の喫茶店へ。ここで、このnoteを書いたり、買った本をぱらぱらと眺めたり、少しぼーっとしたり。

外だけ喫煙可。心地いい夕涼み

大きなテーブルで相席になった、夫婦と見える中年男女の会話もまた良かった。

男性「そういえば、シクラメンの種取ったままで何もしてないね」
女性「ああ、朝言ってたやつ?」

この二人は、一緒に暮らしてシクラメンを育てて、きっと種も一緒に取ったんだろうな。それでまた一緒に種を植えて、そうやって季節を重ねていくんだろうな。
男性の方が種のこと気にしているところは、うちと似ているな。可愛い。

人それぞれに物語がありますね。

散歩には、インプットとアウトプットの両面がある。だから心地いい

自分の中で、インプットとアウトプットのバランスって永遠のテーマなんです。インプットばかりだと咀嚼しきらない、血肉にならない。アウトプットに偏ると枯渇する。

それで今日思ったのは、散歩って、インプットでありアウトプットでもあるということです。

街の雰囲気を感じたり、道行く人の会話を聞いたりする=インプット。
それを起点に思考を巡らせたり、日常生活では保留にしていた考えごとを改めて見つめ直したりする=アウトプット。

散歩にはその両面があるから、一時的にでもバランスが取れて心地いいのだろうなという発見がありました。

また時間ができたら、今度は別の街へブックショップトラベルをして、ついでにその街を散歩するような小さな旅をしたいです。


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ゆかい
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