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元気でいろとは言わないが、日常は案外面白い

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作家による日記風エッセイ
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#小説

砕け散るまで進んだ旅路の末、星が流れたら僕の勝ち

君は星。おおいぬ座のシリウス。 8.6光年先で輝き続ける、僕だけの一等星。 個人的な話をすると、星より月の方が好きだ。サイズ感とか光り方とか、色々あるけれど単純に圧倒的なまでの理想を体現しているような気がするからだと思う。 月は満ちて欠ける。いつか爆発して消えるかもしれない。でも、他の星々よりずっと安定感がある。人類が全滅しても地球が滅びても輝いてそうだし、何なら宇宙で大爆発が起きても生き残っている気がする。それくらい、ちょっとした図々しさがある。 美しい光は人々を魅了

積み重ねてきた時間が今を作った人を知っている

努力が嫌いだった。理由は簡単、頑張ってもレベルが上がっても、いつだって認められなかったから。積み重ねてきた時間全てが誠実なわけではなくて。毎秒素直に真っ直ぐに頑張れるわけがない。 人前で苦痛の滲む顔を見せる必要はない。誰にも知られず裏で積み重ねればいい。だってパフォーマンスは必要ないんだから。けれどそれは、ある種自分の首を絞めたと思う。 少年漫画だって何度も挫折し苦しむ姿を見せて成長していったのに。だからこそ愛されるのに。人は結局、誰かが頑張っている姿を可視化されない限り

初めて飛んだ日の事を、きっとずっと忘れない

飛ぶ 大してお腹も空いていないのに、数時間後には絶対空くと思い食事した結果絶望的なレベルで腹を壊した。ああ、無念。私はいくつになってもドカ食い気絶が出来ないのである。 大量の食事を摂り血糖値が爆上がりしてそのまま寝る事をドカ食い気絶と呼ぶらしい。一度はやってみたいけれど、これが出来たのは恐らく小さな子供の頃まで遡る。その後の人生は簡単だ。許容限界を越すと確実に腹を壊す。悲しきかな。満足感を抱きながら眠りにつく事は出来ないらしい。 ところで全然関係ないけど仕事用のPCばっ

焼き菓子の香りに目を細め、幼少期の私が顔を出す

チョコレートが焼けた香りに、思い出は助長される 幼馴染と言われるような関係性の子がいた。誕生日は二日違い。近所の公園で出会ったその子は、瞬く間に一番の友達となった。 同じ幼稚園、何度も遊んで当時の私にとって彼女は最初の友人だった。 違う小学校に行き、それでも低学年の間は何度か遊んでいた。中学生に上がり私たちは別の世界を歩くようになった。用があれば話すけど、関わりはまるで他人のよう。そういうものだと思いつつ、当時のようには戻れないと少しの寂しさがあった。 ともかく、彼女

一生の後悔として、君に放った言葉と添い遂げるよ

「いつか、」 雨の強い日だった。席に座る彼の背景に曇り空が広がっている。電気のついていない教室には私たちしかいない。灰色の空と薄青のカーテン、濃い緑の黒板が白い壁と汚れた床に反射して、青灰色の色彩を放っていた。 一歩。また一歩とそちらへ近づく。彼は私に気づき顔をこちらへ向ける。私は椅子を引っ張り机の横につけて持っていたノートを開いた。 「これさ、」 何を話したかは分からない。ただ、どこにでもあるような他愛ない会話。思い返せないほど当たり前であった日々の欠片。今となって

唯一になりたかったのは必要とされないと価値が無いと思っていたから

君は僕の特別 誰かの何かになりたかった。唯一。替えの効かない存在。その言葉は酷く魅力的で、まるで月に手を伸ばすかのような感覚で求め続けた。 もがき、足掻き、苦しんで。誰かの何かになれない事に気づいた。自分はどこにでもいる何かで、替えはいくらでも効く、手は月に生涯届かない。 薄々気づいていた感覚が、脳天から直撃して脊髄を通り爪先まで充満した時、光のない場所で立ち止まった事を憶えている。無力感、世界へ唾を吐く感覚、降る雨は慈雨ではなく針のようにも思えた。 誰かの何かになり

10年後には忘れてるかもね

時間は残酷で時に優しくて、 忘れられない現実があった。いつしか思い出になり過去と化す。過去になるのが先か、思い出になるのが先かは、そこに込められた想いがあるか否かで変わると思っている。 思い出はまだそこにあって時折思い出しては懐かしむ気持ちが存在する。けれど過去は過ぎ去った時間だ。概念と心情。思い出す事が出来ても、想いが消えてしまった日にそれは過去になると、私は考えている。 消えると言うのも霧散するのではなく、水の中に溶かしたインクのように揺蕩い、その後濁った水が蒸発し

海の月は揺蕩うだけで、月までの道のりは途方もないけれど

深海を揺蕩う海月のような生物 クラゲという生物がいる。透明で水の流れに揺蕩っている、ゼリー状の生き物。ロマンチックを売りにしている水族館で、クラゲは絶対的なエース。LEDに当てられ透明な身体は色を変える。人は、色を変えるものが好きだと思う。クラゲしかり、四季も、グラデーションも。 ところでクラゲは漢字で海の月と書く。何で海の月なのだろうと調べてみれば、海に浮かぶ姿が反射する月のようだから、だそうだ。 確かに、水面に反射する月は薄いクリーム色さえ分からず、白くて透明で、ク

潮騒と青と幸せと自由を忘れていた一人

波打ち際に残した足跡は消えてしまうけれど 絶望的な運動不足により数時間の移動で筋肉痛が起きた。階段上り下り、スーツケースを何度も持ち上げ右腕が死んだ。同時に、自分に対し死ぬほど引いた。 嘘でしょ?君、このレベルの移動で筋肉痛になるの?笑えないよ?人生まだ続くらしいよ?今からこれってやばいよ?冗談止めようぜ……? 東京の片隅、用が無いと外出せずただ何にもならない文章を書き綴る日々。足元から腐っていく感覚がした。茶色く濁った水のように心は色を変え、折れた花のように身体は崩れ

この街は、オアシスのような砂漠で、砂漠のようなオアシスで

東京を離れる。 それを決めたのはここ数ヶ月の話。2年住んだマンションの更新通知が来る前、転職してフルリモートになり、インターネットさえあればどこでも仕事が出来るようになった。何となく、ここにいる必要はないなと思った。 ここに住み始めたのは前に勤めていた会社から近かったから。ただそれだけの話なのだが、東京という街へ来て何となく、どんなもんかと考えていた節があった。 東京という街はとにかく利便性がよく、電車に乗ればどこへでも行ける。休みの日に話題のスポットへ足を運ぶのも簡単

馬鹿みたいな時間に意味を見出すのが人生だと不意に思った

ずっとやりたかったことを、やりなさいと貴方は言った 自分にはこれしかないとしがみつき、報われない努力を重ね疲弊し全部終わらせたかった時間がある。迷走。人生で一番悲しかった事かと問われれば否と言うだろう。そもそも、一番悲しかった出来事なんて甲乙つけがたい。レベル的にはどれも同じような物である。 けれどこの二年は何十回も自分をゴミ屑だと嘆き、書き出した最初の一文を破り捨てるような日々だった。こうなりたい、こんな未来に辿り着きたい。最初に抱いた希望が何光年も前に死んだ星のように

爆発しても、散った残骸は美しいと信じている

爆弾みたいだなと思ったんだ 空に上がる火や色鮮やかな花、点滅するサーチライト、爆弾みたいなものの寄せ集め。百日紅の花が爆弾みたいだと語る人を知る前の話、散る花を爆弾みたいだと思った。 理由は分からない。ただ、爆発して散った物の名残が地面に落ちていると思った。実際花は爆発しないし、本当の意味で爆発しているのは空に上がった火花や何光年も先で既に死んだ星くらいなもので。けれど地面に散ったそれを、咲き誇り花盛りを迎えているそれより好きだったのは、どれだけ汚れても物の本質は変わらな

空の青さを知っている。他の誰でもない、自分の中にある色彩を

声にした。ペンを走らせるのではなく、唇を開いた。 人生が不条理の連続であると気づいたのは随分昔の事だ。願ったとて叶えられず、努力しても手に入らないものがある。初期ステータスは自分で決められるものではない。ただ、キャラクリ画面に自分が出てきたら、間違いなくステータスは振り間違えている。 15歳になるまでの長いようで短い年月は、私の人格形成を大いに狂わせたと振り返って冷静に考えても思う。このしょうもない15年間は私に、私である事を後悔させるような時間だった。 生きてるだけで

なんて、しょうもない日々に告げる。

泣いたふりをした 最後に泣き真似をしたのはいつだろう。多分子供の頃だと思う。遡る事20年前くらいだろうか、嘘泣きで人の関心を得られる時間はそう長く続かなかった。 どれだけ泣き真似をしても構ってはもらえない事に気づくのは随分と速かった。それが良いか悪いかは未だに分からない。ただ泣き真似をしようがしなかろうが、変わらないと気づいたのだろう。 平々凡々な人生、愛は平等に与えられず、嘘をついて関心を得ても欲しかった物は手に入らない。人間なんぞそんなものである。 それなりに大き