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#連載
長編小説『because』 79
「涙止まった?」
「ううん、止まらない」
もう随分前から止まっている涙に嘘をついた。涙を流し続ければ、彼はこうして私を抱いていてくれるし、涙が止まってしまえば、彼は確実に私から離れてしまう気がしたから。
「しょうがないな」
「うん、しょうがないの」
彼は私の背中に回した手に少しだけ力を入れ、それに応えるように私も少しだけ力を入れた。
「沙苗さんは笑っていなきゃ、ダメだよ」
彼は私の耳元で、息を吐く
長編小説『because』 77
どういった意味の答えなのか分からない私はその言葉に喜んでいいのか、悲しんでいいのか分からずただ呆然と立ち尽くしたまま、もうすぐ沈んでしまう夕日を眺めていた。
彼に「どういう意味?」と、ただそれだけ聞けばよかったのに、その時の私もやっぱりそんな事できなくて、彼の背中はその時から、そういった雰囲気を私に与え続けていた。
夕日が段々と霞んでいき、いつの間にか私の目からは涙が溢れ始めて、どうして私は泣
長編小説『because』 76
そこには確実に一つの節目があって、そこにラインを引いて、そのラインより現在、それが彼と私が恋人同士であるという証になっている。
「好き」
彼と何度会った時の事だっただろう。私は彼の背中目掛けてその言葉を吐いていた。気付いたら吐き、その後すぐに少し後悔し、そしてまたすぐにその後悔を拭い去ったのだった。彼は振り向いて私の目を見ていたけど、何も言わなかった。ずっと私の目を捉え、その止まってしまった