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『降ってきた運をものにするための過程』としてのマーケティング|起業の失敗で気づいたマーケティングにおける大切なこと
私は2016年からクライアントのWebマーケティング支援を行い、数々の成果を上げてきた。2020年に独立した後も、マーケティング支援事業は好調で、数多くの企業のプロジェクトに参画し、成果を上げてきた。
しかし、2022年から自社事業として複数の新規事業に挑戦した結果、全ての試みで失敗し、現在再起のために自身の強みを再度客観的に見つめ直し、飲食事業とマーケティング支援事業に絞って活動をしている。
本記事では私の過ちを振り返り、それを元に気づいた『マーケティングの本質』と『マーケティング支援における重要なポイント』を考察していく。
そのサービスを求める客は存在しているのか?
数あるマーケティング戦略の中でも特に有名なフレームワークの一つに『STP分析』がある。「Segmentation:市場の細分化」「Targeting:市場の選択」「Positioning:市場での優位性」の頭文字からなるこのフレームワークは現代マーケティングの父と称されるフィリップ・コトラーによって提唱された基本中の基本の分析手法だ。
どんなマーケティング戦略・戦術・施策もSTP分析から導き出される市場及び顧客像をもとに組み立てられる。全てにおける基礎であり、最も重要な核として機能する基盤である。
筆者もコンサル時代はSTP分析を最重要視しており、まず最初に「市場はどのような構造をしているのか」「どの市場を狙うのか」「その市場においてどのような優位性を確保するのか」をクライアントと一緒に思考する。
例えば筆者が担当した「料理に使用するハーブやスパイスを専門に扱う小売店」の支援をした際は、自社商品について客観的な視点で特徴を挙げ、STP分析のフレームワークに当てはめながら状況を整理した。
お店の所在地は都心から離れた郊外にあり、駅からも離れた場所にある車で来ることを前提とした立地に店を構えていた。そこで「その地域におけるハーブ・スパイスをお得に買える専門店」と「店主の専門性を活かして周辺地域にある飲食店を対象にハーブ・スパイスの活用方法を教える先生」という2つの立ち位置を確立することを目指し、施策を進めた。
話すと長くなってしまい本題から逸れるので詳細は省くが、市場に対して適切なアプローチをすることで周辺地域におけるリーダーのポジションを獲得し、売り上げを大幅に改善することができた。
クライアントのポテンシャルが高く、奥の武器を持っていた中で、私はあくまで爆発するトリガーを見つけ出し、トリガーを引くための環境整備をしたに過ぎなかった。もちろんそれは重要な仕事であることには変わりない。しかし、それは自社製品となると話が変わってくる
こうした経験をもとに自社製品に応用すれば上手くいくだろう!という自負が私にはあった。しかし、それは幻想である現実に私は何度も対面することになる。
ビジネスとは何か?マーケティングとは何か?顧客は存在しているのか?
「そんな風に思っていない!」と当時から思っていたし、心の底から『顧客は一人一人が日々を懸命に生きている人間である』ことを念頭にマーケティング戦略を策定していた。これは嘘ではない。
しかし、実際にマーケティング戦略を0から考えた時、私はこれまでの自分が見落としていた3つの事実に気づいた。
マーケティング戦略はあくまでも抽象概念でしかない
客は実在する人間であり、常に変化し続ける唯一無二の存在
市場をどれだけ詳細にイメージしても、それは仮想に過ぎない
ビジネスとは『世界が抱えている不自由さ』や『世界が迷惑している問題』に対して、それを改善する必要性を唱え、問題を明確にすることで『その問題を解決したいと思っている人がいるのかどうか』を見つけるところから本来は始まる。
サービスとはその解決策として提案する解決策なのである。「問題が生じていなければサービスは必要ない」ため、まず最初に『問題』を見つけ『顧客の有無を確認』し『市場の有無』を確認しなければならない。
そして『問題を解決したいと思っている人の手元にサービスを届け、利用してもらい、問題を解決する対価として金銭をいただく一連の流れを生み出す』ことがマーケターがビジネスにもたらす最も大きな価値であり、役割である。
その「解決したい」と願う存在は現代社会を生きる人間であり、私と同じく主観で人生を歩み、経験を積み重ね、課題を抱え、希望を抱き、絶望を恐れ、不安を解消したいと願う一人の人間なのだ。
私は理論で動いているのか?理屈で動いているのか?合理的に選択してきたか?自身の行動は全て思考の末に導き出したと自信を持って宣言できるのか?
私は市場を理解したつもりになっていたのだ。
自分の『やりたいこと』を『求められていること』だと錯覚し、提供するサービスに対して無意識のうちに甘く評価していた。
私はこの基本的な原則を真の意味で理解できていなかった。
マーケティングとは『降ってきた運をものにするための過程』である
マーケティングの神様と称される経営学者フィリップ・コトラーはマーケティングとは「ニーズに応えて利益を上げること」と定義し、現代経営学を発明したと称される経営学者ピーター・ドラッカーはマーケティングを「セリング(売り込み)を不要にすること」を究極の目的として定義している。
マーケティングとは「顧客の抱えるニーズを満たす価値を創出し、価値を提供する対価としてお金をいただく一連のプロセス」の構築・最適化することで実現する経営思想だと言える。
対象範囲が経営全般にまで及び、ありとあらゆる部門・部署を跨いで最適化を行うには、全体を俯瞰して観測し、リソースを把握しながら歯車が円滑に回るように調整する必要がある。それを担う存在がマーケターである。
例えばWebサイトにユーザーを集客をすることや、DLCをDLさせて営業先のリストを作ることは業務のうちの1つでしかない。
この認識を持って私はクライアントのマーケティング活動を支援してきた。そしてそれは今も変わっていない。私の役割は『一連のプロセスを具体的にイメージできるようにし、それを円滑に回す方法を考え、価値を届けるための仕組みを作っていく』ことだ。
しかし、いくら立派な志を持ってマーケティングに取り組んでもビジネスシーンでは生き残れない。どれだけ理論を語っても現実は理論どうりにことが進むわけではない。机上の空論でしかないのだ。刻一刻と変化し続ける経済・市場・世界において、自身が提供するサービスをローンチする完璧な状態は永遠に訪れることはない。
マーケティングの究極の目的は『モノが売れるための仕組みを作る』ことだが、それは究極の目的であり、最初からそれを目指すものではない。
モノが売れる仕組みを構築するためには『モノが売れること』をどんな形でもいいから実現することが大切なのである。仕組みはそこから作れば良い。
どれだけ計画を練っても、最初の売上は「運」による部分が大きいと私は過去の失敗と経験から実感している。この運を最大化するためには、完璧な計画ではなく、顧客の実在を確認し、小さな成功体験を積み重ねることが必要なのである。
私が事業に失敗した中で最も大きな原因は『モノが売れる仕組みを重視したこと』と『モノが売れる顧客の存在を机上の空論で語ってしまったこと』だ。もちろんそれ以外にも失敗の要因は山のようにある。しかし、この2つが全ての失敗の土台になっていたのは疑いようがない事実であった。
重要なのは『運』に対して全力で掴みにいけるかどうかであり、マーケティング活動とはその運が降ってくる確率を高め、降ってきた運をしっかり掴んで離さないようにすることだ。運を掴んでから初めて仕組みづくりのスタートラインに立てる。
私がクライアントワークで成果を出せていたのは『仕組み化のフェーズ』にいたからなのだと今なら痛いほどよく分かる。
そして、この経験のおかげで私はお客様に寄り添ったマーケティング支援ができるようになった。これは私が提供するサービスにおいて大きな進化である。
失敗から学んだマーケティング支援の本質
私は自身で立ち上げた事業をことごとく失敗してきた。
アパレル事業はクリエイターと共同で世界観を作り上げ、SNSとイベントを中心にプロモーションを展開したが在庫を抱えてしまい失敗した。
ターゲットに『欲しい』という欲望を植え付けることに失敗したのも「提供するサービスを求める顧客」を一番最初にしっかりと見つけられていなかったことが大きい。また、初動の動きが良かったにも関わらず売り上げが低迷したのは『運を掴みきれなかったこと』が何よりも大きかった。
シェアキッチン事業は『誰でも飲食店を開業できる』+『複数の利用者が同時にお店を出せることで生まれるコミュニティ』というコンセプトを先行し過ぎたため、初動の運を掴みきれなかった。また、複雑なコンセプトは目新しいが、それを求めるターゲットが存在していなかった。それが失敗の原因であった。
失敗を振り返り言語化すると『失敗して当然』だなと客観的に振り返れるが、主観で動いている時は客観性が欠けるため大切な要素が見えなくなってしまう。
私がこれまで行ってきたマーケティング支援は『売れるための仕組みを最適化』することを目的に取り組んでいた。クライアントの強みを活かし、限られたリソースの中で売れるためにできることを共に考え、施策を提案し、実行するまでを支援する。それが私の強みであり武器であった。
しかし今は失敗を経たことで『マーケティング戦略を客観的に評価し、運を掴み活かすための土台を共に作りながら、売れるための仕組みを最適化するサポートをする』ことを理念として取り組んでいる。
即効性のある短期的な視点と運を掴むための長期的な視点を常にもち、売れるための仕組み構築のためにクライアントの全部門・部署の動きを最適化する。並走しながら共に事業が成功できるように全力を尽くすこと…これが今の私のマーケターとしてのスタンスである。
私は今、マーケティングの支援事業と並行して地方でカフェを経営している。シェアキッチン事業が失敗し、その跡地でカフェを始めたため、市場の規模が小さく、難航している状態である。
しかし、コツコツと日々を積み上げ営業を重ねていることもあり、無事1年を迎えられた。シェアキッチン時代は客が0の日も珍しくなかったこともあり、大きな進歩である。
周囲からも「その地域で飲食店は無理だよ」と言われながらも、地道な活動で少しづつ芽が出てきているのも、過去の失敗を糧に考え方を改め、自身の行動を変化させたからであると思う。
起業の失敗は心に影を宿し、精神を蝕むが、悪いことだけではない。
もし、あなたが新規事業に挑戦する際は、次のステップを試してみてほしい
問題を明確化する
解決策を提案し、その需要を小規模にテストする
顧客の反応を確認しながらサービスを改善する
もし客観的にマーケティング活動を見つめるのが難しければ、いつでも協力する。気軽に連絡してほしい。
【パーソナル】
名前:Sakai Yuto
職業:デジタルマーケティングコンサルタント
Webライター、Webマーケティングスクール講師
事業家(アパレルブランド経営、カフェ・ギャラリー経営)
合同会社Toiki 代表社員
趣味:アート鑑賞、一人旅、音楽
ラジオ、伝統・民俗芸能について調べること
【連絡先】
メール:contact@toiki.llc
Instagram:https://www.instagram.com/uyhot_7/
Linekdin:https://www.linkedin.com/in/s-uto0000/
Web制作会社のマーケティング支援部門でWebマーケティングコンサルタントとしてSEO、広告、コンテンツ制作、LPO、EFOなどの手法を元にお客様のWeb戦略のサポートを担当。提案・分析・企画・施策の実施・効果測定まで全て一気通貫で対応できることが強み。その後、Web接客ツール
のベンダー企業にカスタマーサクセスを提供するコンサルタントを経て、現在フリーランスとして独立。
その後、フリーランスのデジタルマーケターとして活動しながら、アパレルブランドの立ち上げ及び運営、リアルイベントの企画及び運営、シェアキッチンの経営、カフェ(飲食店)の立ち上げ及び経営、地域創生プロジェクトへの参画など、活動範囲を広げ、その経験をもとにデジタル領域外のマーケティング活動の支援も対応可能。
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