【読書録】CFO思考|日本に『アニマルスピリッツ』はないのか?
「君たちにはアニマルスピリッツはないのか?」
著者が海外投資家に何度も言われてきたことだ。
アニマルスピリッツとは血気だ。日本には血気が足りていない。
人間が本来持つ将来に対する期待や自然発生的な衝動こそが企業活動の本質だ。
夢とか希望とか、よくわからない感覚や感情によるクリエイティブやアウトプットが日本にはない。挑戦がなく、守りの姿勢が多い。
要はやる気があるのかと問われているのだろう。
外国人の大人が半ギレでそのフレーズを言ってきたら泣いてしまう。
「CFO思考」の内容
なぜ今「CFO思考」が必要なのか。
それは「失われた30年」、低成長の時代が続く現代日本には希望が必要だからだ。
本来、夢を語りチャレンジできるはずの世代がリスク回避的な行動を取るようになっている。
夢を語れない現状を打破して欲しいというのが著者の本音だろう。
本書にはCFOが日々誰と向き合い、何を動かす存在なのか、どのような仕事をしているのかが書かれている。
特に著者自身の実体験に基づく海外投資家とのやりとりは必見だ。
日本を代表する企業のトップはこんな世界で仕事をしているのかと驚愕することになる。
著者:徳成旨亮(とくなり むねあき)について
著者の徳成旨亮は現:株式会社ニコン取締役 兼 専務執行役員CFOである。
正確には経営監査部や財務・経理本部も担当しているとコーポレートサイトにはある。
三菱UFJ信託銀行(当時:三菱信託銀行)で経営企画部などを歴任し、三菱UFJフィナンシャル・グループのCFOを経て、現職に就いている。
現役のしかもプロCFOのトップビジネスパーソンだ。
世界中の投資家やアナリストの投票で、日本の銀行部門のベストCFOに4年連続で選出されたことがあり、世界中からの支持も厚い。
ニコンに合流してからも、2023年4月発表のCFOランキングでは日本の電気・精密機器セクターで3位に選ばれている。(セクター構成企業数は29社)
語り手としては誰もが認める超一流だ。
多分に十分に、CFOについて語ってくれたのが本書という訳だ。
一読の価値は十分にある。
CFO(Chief Financial Officer)とは何か
CFOとは企業における最高財務責任者のことだ。ただし著者によれば日本に従来からいる経理・財務担当役員とは違う。
著者は従来型の財務担当役員が安易に名刺にCFOと記載し、海外の機関投資家に面会することは悲劇の始まりだと言う。
経理・財務だけに精通した「金庫番思考」や守りの姿勢でいることは海外では通用しない。
企業の金庫番が海外投資家と対面し、アニマルスピリッツや企業経営の話をされても答えられない。これは悲劇だろう。
このような質問を海外の投資家はズバズバ質問してくるようだ。
この時、CFOを名乗る「金庫番思考」の経理・財務担当役員の脳内はこうだ。
経営戦略やM&A、気候変動問題への対応について答えられないことは日本の多くのCFOが抱えるジレンマ、悲劇だ。
「海外投資家とのすれ違い」という問題は根深く、「経営計画」「コーポレート戦略」に責任があると答えた「CFO」は全体の半分に満たない。
ではCFOとは、CFOの思考とは何か。
「CFO思考」を真に理解する足掛かりとなるのが本書だ。
現役CFOの著者がCFOとは何かを直接示してくれている。
本書を読むメリット
本書を読めば、以下の3つのことは確実に学べる。
海外投資家の思考
アメリカ型企業の経営者の思考
現代投資家としての企業の見方
日経225、TOPIXが絶好調の2024年現在に海外投資家から日本企業がどの様に見られているのか再認識することは重要だ。
また株式市場、株式会社が発達したアメリカでは経営者がどのように企業経営を考えているか知ることも非常に価値がある。
日本企業との違いを一考してみるのも良いだろう。
新NISAと称され大幅に改善されたNISAが始まった2024年には、投資家として企業の見方のバリエーションを増やすことには意味がある。
企業の見方については随所にヒントが散りばめられている。
特に面白かったところ
第1章:CFOは誰と向き合い、何を動かす存在なのか|「投資家の期待リターン」を知ることがCFOの第一歩
投資家の期待リターンである「資本コスト」について書かれた箇所だ。
自身のマネーをリスクに晒して投資するからには、リターンを求めるのが投資家だ。
指標としてはROE(自己資本利益率)を見ていくことになる。
ROEは株主が出資したお金を元手に、企業がどれだけ利益を上げたのか数値化したものだ。
企業経営の成績を評価する上で世界中で重要視されている指標でもある。
ROEが投資家の期待するリターン水準になると、企業価値が増大するというデータが紹介されている。
ここでの企業価値はPBR(株価純資産倍率)を指標に考えられている。
PBRは会社の資産と株式市場での時価総額との関係を示す。
PBRが1倍とは、例えば企業の全資産が100万円だったとき株式市場での評価総額が100万円ということだ。
誰もが売れると考える新商品の発表があったとき、その企業の株価は上がることが想定される。
株価が上がれば、企業の全資産が100万円でも株式市場での評価総額は200万円という事態となる。
本書ではROEが一定水準を超えるとPBRが増大するというデータが紹介されている。(具体的な数値はぜひ本書を手に取ってお確かめください)
これは高利益率の企業の株価が上がるという当たり前のことだが、理論的な理解を深める一助となった。
日本の上場企業のPBRが1倍割れであることにスポットライトが当たり、東京証券取引所がPBRの改善を表明したことは記憶に新しい。
ROEとPBRの関係性を理解しておくことは投資家にとって必要なことだ。
新NISAと称され大幅に改善されたNISAが始まった今年、ぜひ本書を手に取る理由にして欲しい。
第2章:CFOはどのような仕事をしているのか|「サプライズのない経営」で資本コストを下げる〜
ESG経営の本当のところについて書かれた箇所だ。
世界的なESG投資指標が紹介されており非常に参考になった。
これから投資をしていく上で一つ参考にしてみたい指標だ。
日本企業におけるESGの取り組みの考え方についても書かれているので必見だ。
第3章:CFOが担う10の責任領域と役割|財務諸表を作成するための「会計基準」は3つある
IFRS(アイファース:国際財務報告基準)への理解や考え方について記述された箇所だ。
日本企業の採用する会計基準は実は日本でしか使用されていない。
国際会計基準であるIFRSの導入は特にグローバル企業で議論の対象となりやすいが、本書でのIFRSへの言及はその詳細を端的に理解する一助となった。
会計基準は「ものさし」というのがまた、言い得て妙だと感じる。
またIFRS導入のメリット・デメリットや理解についても端的に紹介されており、非常に参考にしている。
総評
本書は「CFO思考」を学び理解することはもちろん、海外投資家の思考やアメリカ型企業の経営者の思考を理解する手助けとなる本だ。
さらに企業の見方のバリエーションを豊かにしてくれる教材としても優秀だ。
現代投資家の必読書として、しばらく読み継ぎたい良書だ。