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言葉の宝箱 0598【「大嫌い」は「愛してほしい」に聞こえる】

『ただいまが、聞きたくて』坂井希久子(角川文庫 2017/3/25)


 父親72歳、母親22歳で誕生した
母は「芸者の娘」「妾の子」として恵まれない環境で
歪められたまま育ってしまった。
そんな母親に振り回され、
崩壊に陥っている家庭が再生されていく家族小説。

裏表紙には「リアルかつ鮮烈に描いた」と記されているが
余りにいびつな世界が描かれている『一年で今日だけ主役』の途中で、
辟易し一度投げ出してしまった。
普通の人が普通でいられなくなる家族の姿。
一緒にいてこそ家族なんだ、と思った。
『一年で今日だけ主役』『女の子の成長を喜ぶ日』
『寂しさの数を重ねる日』『星に願いを託してみる日』
『人生の再出発を信じた日』『永遠の愛を誓った日』6話連作短編集。


・ああ。
この子の言う「大嫌い」は「愛してほしい」という叫びに聞こえる。
私はこの子に、甘えることを教えなかった。
そればかりか「お父さんは忙しいんだから、わがままを言ってはダメよ」と、我慢ばかりを強いてしまった(略)
歪めてしまったのは、やはり私なのだろう(略)
この子の怒りは、寂しさの裏返しだ。
怒り狂う元気があるなら大丈夫だと思っていたが、全然違った(略)
「なんで、どこがよかったの。お父さんなんて禿げてシワシワで、
お爺ちゃんだったじゃない」(略)
「私、男はお父さんしか知らないもの」(略)
芸者という職業にも誤解があったのかもしれない。
私のころはまだ水揚げのような風習がうっすら残ってはいたものの、
誰かれ構わず寝るわけじゃなかった。
私はあの人の手ではじめて、女にしてもらったのである(略)
べつに泣きやまなかった。だが、肩の緊張がほぐれてゆくのが分った。
もっと早く、こうしてやればよかったのだ P105

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