見出し画像

言葉の宝箱0679【どんな能力でも、使いこなすには鍛錬が必要。生まれもった能力を生かすも殺すも鍛錬しだい】


『梟の一族』福田和代(集英社2019/2/28)



忍者末裔の少女の生きる喜びと戦い。七日間の物語。滋賀の山間に暮らす〈梟〉と呼ばれる人々。忍者の末裔とされる彼らの村が、ある夜、何者かに襲撃される。一人死亡、残り十二人の住民は全員行方不明。村の掟に従って風穴に隠れていた十六歳の史奈だけが一人で取り残される。悲しみながらも自分が仲間を探し出すのだと決意する。冒険譚のような始まり、「眠らない」という〈梟〉の特殊な性質。一族に受け継がれる高い身体能力。神社を使った秘密のネットワーク。「カクレ」や「シラカミ」といった意味ありげな符牒。それらすべてが史奈の強力な武器となり、物語を推し進められていく。当初、史奈にとっての世界は二つに分かたれていた。梟と外、里と下界、味方と敵。それは幼い頃から教え込まれてきた考え方であり、その考えが一族の存在と血を守ってきた。史奈自身も梟の里で味方と共に生きていくのだと信じていた。そんな彼女の目に外の世界はどう映るのか。暴力的な環境の変化はどんな歪みをもたらすのか。外の者との友情や愛情、隠してきた能力への科学的アプローチといった相反する価値観が史奈という聡明な少女の中で無理なく一つに融合されていく。どちらか一方が正義なのではない。善悪や正邪を判断する必要もない。異なる存在をただ認めるだけで、生きる喜びが広がることもあるのだと史奈の姿を通して見せてくれる。わずか七日間の物語だが、眠らない〈梟〉にとっては人生自体が長い長い一日のようなものなのかもしれない。悠久を見渡し、変化を包み込むような一冊。

・泣いても始まらない。
それは史奈にもわかるが、その正しさが腹立たしい P34

・この世でいちばん大切なのは時間だ P68

・言葉より行動のほうがずっと親切だ P227

・どんな能力でも、使いこなすには鍛錬が必要(略)
生まれもった能力を生かすも殺すも鍛錬しだい P280

・基本的に嘘はつかないの。
嘘をつかず、よけいなことは話さない P342

・人には持ち場があり、与えられた場所で才能を発揮すればいいのだ P350


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集