言葉の宝箱0791【日本人にとっての神とは見守るだけの存在だ。神を失った日本人はどこへ向かうのか】
藤崎千佳は東京にある国立東々大学の院生。所属は文学部で専攻は民俗学。指導教官である古屋神寺郎は足が悪いことをものともせず日本国中にフィールドワークへ出かける偏屈だが、高名な民俗学者で有能な准教授。古屋は北から南へ練り歩くフィールドワークを通して、“現代日本人の失ったもの"を藤崎に問いかけてゆく。「旅の準備をしたまえ」と千佳の旅は、いつもそうして始まるのである。学問と旅をめぐる、不思議な冒険譚、5話。
第一話:寄り道【主な舞台:青森県弘前市、嶽温泉、岩木山】
第二話:七色【主な舞台:京都府京都市(岩倉、鞍馬)、叡山電車】
第三話:始まりの木【主な舞台:長野県松本市、伊那谷】
第四話:同行二人【主な舞台:高知県宿毛市】
第五話:灯火【主な舞台:東京都文京区】
・日本人は日本人についてもっと学ばなければならない。
遠く高く跳躍するためには確固たる足場がなければならぬように、
世界を知ろうとするならば、
我々はまず足下の日本について知らなければならない。
民俗学はそのための学問である P31
・社交性や笑顔がときに重要な役割を果たす P33
・日本人にとって、
森や海は恵みの宝庫であり、生活の場そのものであった。
だからこそ、それらはそのまま神の姿になったのだ。
木も岩も、滝も山もことごとくが神になった。
ごく当然に見えるこの事実は普遍的なものではない。
むしろ西洋の神の歴史から見れば、
特殊な世界観と言ってよいだろう P64
・結果の問題ではない。哲学の問題だ P77
・生きている間に、どうしても行きたい場所がある。
しかし結局辿りつけぬまま、その人間が死んだ時、
最初の命日に、一度だけそこを訪れることができるとういのだ。
一年後に、ただ一度だけな P113
・科学と、それに基づく科学的思考は確かに大切だ。
しかしそれは、あくまでも道具に過ぎない(略)
道具は用いる者の態度次第で、役にも立つし害にもなる。
強力な道具であればあるほどそうだ P114
・どんな物事でも、金銭に置き換えることでしか判断できないような、
品のない人ばかり幅を利かせている世の中 P137
・人にはそれぞれの歩む速度というものがある P142
・日本人にとっての神とは(略)
ただ土地の人々のそばに寄り添い、見守るだけの存在だ(略)
日本の神には、大陸の神に見られるような戒律も儀式もない。
教会もモスクも持たない。
それゆえ、都市化とともにその憑代である巨岩や巨木を失えば、
神々は、その名残さえ残さず消滅していくことになる(略)
この国の人々にとって、神は心を照らす灯台だった(略)
灯台が船の目的地を決めてくれるわけではない。
航路を決めるのは人間だし、船を動かすのも人間だ。
何が正しくて、何が間違っているのか、灯台は一言も語らない。
静まり返った広大な海で、
人は自ら風を読み、星に問い、航路を切り開くしかない(略)
今、世界という名の海は、穏やかとは程遠い暗雲の中にある。
嵐が近いと言っていい。
灯台の消えた海で、どうやってその嵐を渡っていくのか(略)
神を失った日本人は、どこへ向かうのか P170
・わかりやすい言葉だけで簡潔に述べてくれる。
頭がいいというのはこういうことを言うのだろう P190
・仏の心は我々の想像もつかぬほど寛大だ(略)
だがそれでも、限度というものがあると思う P201
・神様がいるって感じることは、
世の中には目に見えないものもあると感じることと同じです。
目に見えないものがある、理屈の通らない出来事がある、
どうしようもなく不思議な偶然がある、そういう感じ方が、
自分の生きている世界に対する畏敬や畏怖や感謝の念につながるんです。
もし、目に映ることだけが全てだと考えるようになれば、
世界はとてもシンプルで、即物的です。
そういう世界だと、自分より力の弱い者を倒すことは、
倫理に反するどころか、とても理にかなった生き方になるかもしれません。つまり勝てばいいんですから P205
・目に見えること、理屈の通ることだけが真実じゃない P228
・神も仏もそこらじゅうにいるんだよ。
風が流れたときは阿弥陀様が通り過ぎたときだ。
小鳥が鳴いたときは、観音様が声をかけてくれたときだ。
そんな風に、目に見えないこと、
理屈の通らない不思議なことは世の中にたくさんあってな。
そういう不思議を感じることができると、
人間がいかに小さくて無力な存在かってことがわかってくるんだ。
だから昔の日本人ってのは、
謙虚で、我慢強くて、美しいと言われていたんだ P259
・関わってみれば、それまで見えなかった風景も見えてくる P274
・大局的な使命感を持たなければ、たちまち堕落する P297
・理屈より大切なことがたくさんある P311
・発言をすればその分だけ責任は増す P313