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元ジブリ・百瀬義行に訪れた名誉挽回「屋根裏のラジャー」

今回は、スタジオポノックの最新作「屋根裏のラジャー」について書きたいと思う。
この作品の監督って、百瀬義行さんなんだよね。

彼は、日本アニメの黎明期から第一線で活躍してこられた名アニメーターであり、特に高畑勲さんの信頼が厚く、その「片腕」として名の知られた人である。
もう年齢的には70代なんだが、今もなお精力的に活躍中なんだ。

百瀬義行監督

私がこの人を凄いと思うのが、こういう「お爺ちゃん」でありつつ、なぜか中田ヤスタカと組んでPV作っちゃうとか、<若さ>があることさ。
ちょっと、そんへんの仕事っぷりを見てもらおうか↓↓

「space station No9」

「空飛ぶ都市計画」

「お爺ちゃん」がテクノって、凄くない(笑)?

実は、百瀬さんはこう見えてデジタル分野に強い人らしく、ジブリでCG室を初めて立ち上げたのは他ならぬ彼だったらしい。

やっぱね、そういうデジタル処理という強みもあるからなのか、彼の作る画は常にめっちゃ綺麗なんですよ。
で、次に見てもらいたい動画は、ポノックが東京五輪の開催時期に合わせて作った短編で、これの監督が百瀬さんだったんだ↓↓

やっぱりね、この人は手描きとデジタルの合わせ技が巧いんだな~。
1960年代からやってるベテランだからって、アナログなやり方しかできないような人じゃないってこと。
だからこそ、ポノックみたいな新興の会社でも主力でいられるわけじゃん?

・・ただねぇ、ひとつだけ百瀬さんのキャリアにはどうしても消せない汚点というのもあって、それというのは

あの世紀の駄作というべき「ニノ国」の監督をしてしまったことなんだ・・

監督/百瀬義行(2019年)

正直いうと、この映画についてはあまり多くを語りたくない。
なぜって、語ればただの悪口となってしまうからさ。
そのぐらい、酷い出来の映画だった。
・・せめてもの救いなのは、ずっと百瀬さんを信頼してきた高畑さんの目にこの作品が触れることはなかった(公開の前年に高畑さん逝去)ことだね。

それでも、一応私はここで百瀬さんの擁護をしておきたい。
だってさ、普通に考えて彼があんな酷いアニメを作るわけがないんだよ。
この作品に至るまで、彼はジブリの「ギブリーズ」、ポノックの「サムライエッグ」という2本の監督を手掛けていて、私はその両方とも見たんだけど、2本ともクオリティはめっちゃ高かったよ?
「ニノ国」だけが、明らかになんかおかしい。
多分、制作の過程で何らかの「障害」があったんだと思う。

ゲーム版「二ノ国」

このアニメ「二ノ国」には、元ネタになっているファンタジーRPGゲームがあるんだという。
私はゲームをやらない人なのでその詳細を全く知らんのだが、どうもジブリが制作協力してたやつみたいだね。
この段階から、百瀬さんはアニメパートの監督をしてたようだ。
このゲームはそこそこ評判がよかったっぽいのに、何で映画にするとダメになってしまったんだろう?

というのも、どうやらゲームと映画とではキャラから何まで全然違う別モノに改変されてるらしい。
じゃ、その改変を誰がしたのかというと、ゲームの方の企画/脚本/総監督を務めた日野晃博社長、つまり原作者自身みたいなんだわ。

あぁ、それじゃ誰も文句言えないよね。
だって原作者自ら、映画の方も原案/脚本/製作総指揮までをやってくれてるわけだから・・。

早い話が、これ日野晃博社長のワンマン映画ということじゃん?

日野晃博

多分だけどさ、監督の百瀬さんですら思うようにはできなかったんじゃないのか?
そう考えると、百瀬さんを責めるのも酷なような気がするんだよね。
ちなみに、助監督は「猫の恩返し」監督の森田宏幸さん。
そこまでジブリ色を出したいんなら、いっそのことジブリにまるごと制作を委託すりゃよかったのに・・。
ところが、実際の制作はOLMという「ポケモン」等でお馴染みのところだった。

「屋根裏のラジャー」(2023年)

で、百瀬さん的には、「二ノ国」で落ちるところまで落ちた自らの評価を、一気に挽回するチャンスがこの「屋根裏のラジャー」だったと思う。

・・で、これを見た私の率直な感想をいわせてもらうなら

作画がめちゃくちゃ良かったです!

こういうコッテコテのファンタジー、もはや本家のジブリがやらなくなってきてるからねぇ・・。
ポノックは分家ではあるものの、だからこそ保守派を貫くというベクトルだともいえよう。
ぶっちゃけ、本家はもう「子供向け」という次元じゃないでしょ?
一方ポノックは、しっかり「子供向け」を意識してるようだ。

で、この作品の一番の売りは<画>だったと思う。
ちょっと変わった画なんだよ。
テイストはきっちりジブリの手描き風なんだが、妙に立体感があるのさ。
・・ん?セルルック3DCG?と思わせといて、実はそうでもないみたい。
これがどういう作画で成立してるのかよく分からんけど、めっちゃ新機軸の作画だね。
なんか、おカネかかってる感じ。
ちょっと、そのテイストを見てほしい↓↓

この画の作り込み、凄くね?

こういう新しい作画の試み、さすがはデジタルに強い百瀬さんだけのことはあり、これだけでも本作の視聴価値は十分にあると思う。

・・ただね、この映画、

興行収入的には2億3000万程度


だったらしくて、大爆死だったんだよなぁ・・。

ポノック第1作目の「メアリと魔女の花」は約33億、2作目は短編だったから選考外として、第3作目は「メアリ」ぐらいの数値を当然見込んでたと思うのよ。
でも結果は、なんとその10分の1以下。
・・えぇ、この際、はっきり言いましょう。
百瀬さんは、さすが「高畑勲の片腕」といわれただけのことはあり、

きっちりと、高畑勲の悪いところを受け継いでます(笑)

高畑さんが凄い人だということは百も承知なんだが、それでも「かぐや姫の物語」制作費52億はさすがにおカネかけすぎだったと思うんだ。
何でそんなにおカネがかかったのかというと、普通のアニメなら1フレームに画を1枚使うところを、高畑さんのは特殊な技法で、敢えて2枚必要だったわけね。
つまり、通常の倍の作画枚数が必要だということ。
ちなみに、作画枚数の多さで知られる宮崎駿ですら、その最高記録は「崖の上のポニョ」の17万枚。
この数値、高畑さんの「となりの山田くん」17万3000枚には及んでないんですよ。

で、そんな高畑さんの最高記録が「かぐや姫」の24万枚(笑)

いや、分かりますよ。
この画の質感が凄いということは。
だけどさ、その結果が制作費52億興行収入24億でしょ?
・・で、それを傍らで高畑さんを見てた百瀬さんは、「うむ、やっぱり画に妥協しちゃダメだということだよな」ということを学んだんだろう。
その意志が、「屋根裏のラジャー」の画からひしひしと伝わってくるし。
また、「二ノ国」で妥協してしまったという反省も、一層その意志を強めたのかもしれない。

・・でもさ、よく考えたら<百瀬義行>というネームバリューだけで劇場に客を呼べるわけがないんだよな?
正直、かなりのジブリ好きじゃないと知らない名前である。
そもそも、彼の経歴を説明したところで、あの「ニノ国」の監督ですよ!といえば絶対逆効果だし、「ギブリーズ」の監督ですよ!といっても通じないだろうし、「サムライエッグ」の監督ですよ!といってもさらに通じないでしょ?
あぁ、これって、実は最初から大爆死が十分に予想できたことなのかもしれない。
世間では、早くも「ポノック、もはや危機では?」という声が囁かれ始めているらしい・・。

ただ、ここで私は敢えて声を大にして言っておきたい。

ポノックを絶対に潰しちゃダメだ!

この西村プロデューサーがあかんのやないか?という見方もある

だって、本家のジブリにしたって、巨匠・宮崎駿は決して不老不死じゃないんだから。
いつかは必ず、お亡くなりになる。
じゃ、いつの日か、そのXデーがきたとして

宮崎駿のいないジブリ
vs
ポノック


という対決の構図で見たら、やはり従来のジブリファンは一挙にポノックに流れると思わない?
だってさ、宮崎吾朗vs百瀬義行、あるいは米林宏昌という構図で見りゃ、どう考えてもポノック有利じゃん。
だから、それまでポノックは経営が苦しくとも、何とか凌いでいかなくちゃならんのよ。

そもそもポノックが、ジブリ方式で何年かに1本映画を作る、という現状のやり方はスタジオ経営として無理があると思う。
そういうのは、コンスタントに50億以上の興収が見込めてこそ、初めて可能なスタイルでしょ。
だから彼らの場合、映画だけじゃなくて、地道にTVアニメの方もやっていくしかないんだよ。
たとえばだけどさ、その画風を生かす意味で、「世界名作劇場」のリブートとかやればいいじゃん?
「母をたずねて三千里」とか、「赤毛のアン」とか、そういう保守的アニメは今ほとんどやってないし、逆に市場として狙い目なのでは?

故高畑勲の代表作「母をたずねて三千里」

あと、ポノックは米林宏昌、百瀬義行に次ぐ「3人目」のカードをいよいよ切るべきだね。
それが誰なのかは、私は分かっている。

もちろん、山下明彦でしょ?

そもそも、ポノック2作目のオムニバス映画「ちいさな英雄」は、

1本目「カニー二とカニーノ」監督/米林宏昌
2本目「サムライエッグ」監督/百瀬義行
3本目「透明人間」監督/山下明彦

という構成になってたのさ。
つまり大トリをとったのは米林さんでも百瀬さんでもなく、山下さんだったということ。
なお、私が見た感じ、この3本の中で一番面白かったのは、山下さんのやつだったよ。
じゃ、その「透明人間」をご覧いただきましょう↓↓

ちなみに、山下さんはこの作品で、文化庁メディア芸術祭新人賞を受賞してます。
何で、こんな大ベテランが「新人」なのか知らんけど・・。
まぁとにかく、この山下さんが<ポノック最後の切り札>というのは間違いないだろう。

私はポノック、いずれ真価を発揮すると思うよ?


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