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海外で絶賛も、多くの日本人が見てないアニメ「みつあみの神様」

昨年、2024年のアニメを総括する時、どうしても外せないのが映画「ルックバック」かと。
聞けば、米アニー賞インディペンデント作品賞にて日本のアニメから唯一、最終選考の6作品に入ったらしい。
とにかく、この作品によって押山清高さんの名前がめっちゃクローズアップされることになったのは確かだな。

で、その押山さんのキャリアを語る時、必ず出てくるのが「電脳コイル」という作品である。
彼の作監デビューって、実はこの作品からだったんだよね。
「電脳コイル」、言わずと知れた磯光雄監督作品ですわ。

「電脳コイル」

この作品、色々な意味で<伝説>なんだけど、とにかくアニメーターの大物クラスの集結っぷりがエゲツないのよ。

原作/監督<磯光雄>

総作監<井上俊之>

キャラデザ/総作監督<本田雄>

作監<押山清高>


こうして<匠>クラスのアニメーターばかりがズラリと勢揃いで、どんだけ豪華なチームやねん・・。
まぁ、こういうところこそ「電脳コイル」が<伝説アニメ>といわれる理由なんだけど。

で、当初は井上さんと本田さんが2名で総作監という体制だったらしいが、どうやら途中で本田さんと磯さんが壮絶な喧嘩になったらしく(アニメ界の語り草となっている)、途中離脱(笑)。
・・で、離脱した本田さんの代わりに総作監に<繰り上げ>になったのが、この人だったんです↓↓

作監⇒総作監<板津匡覧>

板津匡覧、案外この名前はいまひとつ馴染みがないかもしれんが、宮崎駿今敏原恵一など、錚々たる監督たちに重用されてきた凄腕アニメーターである。
いや、板津さんは作画屋としてのみならず、演出家としてもまた評価の高い人なんだ。
マイナーな作品だが、皆さんはこういう短編アニメをご存じだろうか↓↓

「みつあみの神様」監督/板津匡覧

Production I.G制作(2015年)

<賞歴>
・ヒューストン国際映画祭(米国2016)2Dアニメ部門:プラチナ賞
・IndieFEST 映画賞(米国2016)アニメーション5部門制覇
・ロスアンゼレス独立系映画賞(米国2016)アニメーション短編最優秀賞
・ハリウッド国際映画賞(米国2016)功績賞
・アトランタスポットライト短編映画賞(米国2016)アニメ部門:最優秀賞
・国際独立系映画賞2016(米国2016)アニメーション作品:ゴールド賞
・ベストショート映画賞(米国2016)アニメーション部門:功績賞
・カリフォルニア映画賞(米国2016)アニメーション部門:ダイアモンド賞

これが彼にとって初の監督作品だったんだが、いきなりの快挙である。
じゃ、それが一体どういう作品なのか、実際の本編を見ていただこう↓↓
(時間約25分)

ストーリーはめっちゃエグいが、でも画のタッチはホントに柔らかくて優しい。
これ、板津さんの監督/絵コンテ/キャラデザ/作監/原画なんだわ。
・・もう、これ見ただけで、彼が只者でないことが痛いほど分かる。

で、その後、この板津さんがいよいよ<初の劇場用長編映画>にチャレンジしたわけね。
それが、これなんです↓↓

「北極百貨店のコンシェルジュさん」

制作/Production I.G(2023年)

<賞歴>
・ファンタジア国際映画祭(カナダ2023)観客部門/銀賞
・スコットランド ラブズ アニメーション2023審査員賞

・・これね、私、めっちゃ泣きましたわ。


ええ、「電脳コイル」作監チームから演出家としてブレイクしたのは、何も押山清高さんだけじゃないんですよ。
板津さんもまた、こうしてきっちりいい映画を作ってます。

で、こういう画の巧いアニメーターの監督した作品の何がいいかというと、やはり映画として画の動きが面白いものができるんだよ。
この「北極百貨店」もそうである。
ちょっとサワリの部分を見てもらおうか。

画がいいよなぁ~。
線がとても柔らかく、それでいてモーションがいちいち面白くって、見てるだけで楽しい。

これ、原作はさほど有名なやつではないっぽいが、2年前の文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞に選ばれたものらしい。
また、原作者・西村ツチカ先生は13年前に同メディア芸術祭新人賞をとってて、どうもスゴイ人っぽい。

「ムーミン」トーベヤンソンから影響を受けたという、ちょっと変わり種である。
で、それもあってか、表層はコメディタッチでありつつも、根っこにかなり深いメッセージ性があったりもするんだよね。

で、これの原作漫画は全2巻。
決して長いものではない。
先ほどこのアニメを「長編映画」と書いたが、実をいうと映画の長さは約70分、長編というには少し短めである。
付け加えると、板津さんの初監督作「みつあみの神様」も原作漫画は全1巻で、映画の長さは約25分。
・・そう、板津さんは原作に<小作品>を好むようで、作る映画にしても、決して120分超えの超大作とかじゃないんだよね。
小粒で、それでいてピリッとしたスパイスのきいたやつ。

あぁ、それをいうと押山清高さんもそうだよな?
「ルックバック」の原作は全1巻で、映画の方もその長さは僅か58分。
長編というより、中編といった方がしっくりタイプかと。

ちなみに米アカデミー賞は「40分以上」が「長編」という基準になってるらしい

ちなみに本作は、板津さんが自らProduction I.Gに持ち込んで実現させた企画らしい。
よっぽど原作に惚れ込んでたんだな・・。
板津さんとProduction I.Gの関係は、「みつあみの神様」の2年後、今度はTVアニメ「ポールルームへようこそ」の監督を板津さんにオファーするなど、かなりイイ感じのようだ。

「ポールルームへようこそ」(2017年)

「ポールルーム」、社交ダンスのアニメだったんだが、思えばこれもかなり良かったよなぁ。
できれば2期求む。

ただ、板津さん的にはTVアニメより映画を、という思いなんじゃないだろうか?
というのも、彼は「最も影響受けたのは今敏さん」と言ってて、実をいうと今敏が「パプリカ」の次に手掛ける予定だった「夢みる機械」という作品、結局今さんの急死で企画はご破算になったんだが、それを「監督代行に板津匡覧を立てて完成を目指す」という復活プロジェクトがマッドハウスの丸山プロデューサーから発表されてたんだよ。

今敏、未完の遺作「夢みる機械」

・・そう、実をいうと板津さんって、今は亡き今敏さんの正統後継者なんだよ。


で、結局のところ、この「夢みる機械」映画化のプロジェクトは頓挫した。
理由は「資金繰り」だったしい。
クラウドファンディング等がある今の時代にこうなるというのは、よっぽどダメだったんだろう。

そもそも、今敏作品ってめちゃくちゃ評価が高く、ファンも多い一方、興行収入という観点に立つと屁だったのは事実である。
パーフェクトブルー」、「千年女優」、「東京ゴッドファーザーズ」、「パプリカ」、いずれもが全世界から絶賛された名作にも関わらず、どれをとっても大してヒットはしてない。
確か、MAXの興収で3億程度だったと記憶する。

今さんの代表作「パーフェクトブルー」に至っては、興収1億にも満たなかった

・・で、今さんの<正統後継者>こと板津さんもまた、実のところそっち系の人なんだよね。
前述の「北極百貨店」とか、具体的な興収の数値は知らんけど、3億未満なのはほぼ間違いないだろう。

ぶっちゃけ、板津さんからこの映画の企画を持ち込まれ、それに対応したProduction I.Gのプロデューサーさんの気持ちを考えると、ちょっとあれですわ。
プロデューサーさんもプロゆえ、<売れる/売れない>の目利きは当然あったと思うのさ。
多分、こう思ったはずだよ。

「『北極百貨店のコンシェルジュさん』か・・。
確かに良い漫画だ。
でも、一般的知名度は低い。
ましてや、監督がほぼ無名の板津の長編デビュー作・・。
これ、興収1億に届かないんじゃね?」

だというのにProduction I.G、よくぞこの企画を受けた!


多分だけどね、制作会社も「売れりゃ、あとはどうでもいい」という考え方じゃないと思うのよ。
そういう考え方でいくと、世の中に少年ジャンプ系のアニメばかり蔓延してしまうことになるから。
それは文化としてどうなの?と。

だから、こういう表現はちょっとあれだが、

「売上が見込めない場合、その代わり、国際映画祭で賞を獲って<ペイ>しよう」


という考え方、実際のところ、あると思うんだよね。
Production I.Gとして「ウチは儲けることを考えてるだけじゃなく、ちゃんと<良い映画作り>を志向してるんですよ」というポーズになるわけだし。
実際、「北極百貨店」は海外映画祭で高評価を得ることができた。

そして「みつあみの神様」に至っては、なんと約20個ものトロフィーを得ることができたという。
そのトロフィーはほとんど、北米の映画祭だというのが少し気になるところだが、きっとそのへんはProduction I.G会長・石川光久さんの人脈という意味だろう。
彼のパイプは、主にハリウッド中心だし。
そうは言ってもコネで賞を獲れるわけでもないし、賞を得られたのは純粋に作品のクオリティを評価されたんだと解釈していいと思う。

しかし皮肉なことに、ほとんどの日本人がこの作品のことを知らない・・(笑)

えぇ、それはそれで別にいいんですよ。
Production I.Gだって馬鹿じゃないんだし、そういうのとは全く別枠として、きっちり「ハイキュー‼」あたりでちゃんと儲けてるはずなんだから。

とにかく一度、「北極百貨店」をご覧になってみてください。
特にオープニンの数分、もうその数分を見ただけでも「おぉ、スゲー!」と引き込まれてしまうから。
なんていうかな、<アニメーション>としてホント美しいし、楽しいんですよ。
あと、声優では津田健次郎が意外な味を出していた。

・・なんせ、マンモスだからね(笑)。
これが、めっちゃ泣かせるから。


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